先日開催されたフィアット ドブロの試乗会時に、そろそろ生産終了が噂されているフィアット 500(チンクエチェント)にあらためて試乗することができた。試乗車は、2気筒エンジンを搭載したオープンモデルの「500C ツインエア ドルチェヴィータ」だ。
女性に圧倒的な人気を誇るロングセラー
1957年に登場した、2代目フィアット 500(通称ヌォーヴァ500)をオマージュして、3代目フィアット 500(チンクエチェント)が登場したのが2007年。日本でも2008年に発売されたから、もう15年以上も長い人気を誇るロングセラーだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
その可愛いスタイリングとコンパクトなボディのおかげか、日本市場では6割以上が女性オーナーだという。また、オーナーはお父さんや旦那さんでも主に乗っているユーザーは娘さんや奥さんというクルマも多いから、実際の女性比率はもっと高いかもしれない。ちなみに、EVとなった新型の500eも、ほぼ半分が女性オーナーだそうだ。
そんなチンクエチェントではあるが、すでに後継モデルの500eも2022年には日本デビューを果たし、電動化を推し進めるステランティス グループにおいてフィアット ブランドもその例外ではなく、おそらく2024年までにはフェードアウトするのではと言われている。ならば、これが新車で乗れるラストチャンスかも?と、久しぶりにチンクエチェントに乗り込んでみることにした。
さて、今回試乗したモデルは、2気筒のツインエア エンジンを搭載したオープンモデル、「500C ツインエア ドルチェヴィータ」だ。既に、日本で新車で買える500Cは、このグレードだけになっている(ハッチバックの500には1.2Lなどもまだラインナップ)。ツインエアは2010年に追加登場(日本仕様は2011年に発売)された、いまや軽乗用車でも存在しない2気筒エンジン(それでも875ccある)にターボを装着している。
「ドルチェヴィータ」とはイタリア語で「甘い生活」を意味するエレガントなグレード名だが、2020年に限定車として登場し、2021年の一部仕様変更とラインナップ変更でカタログモデルになった。最新モデルのような運転支援システムは装備されないものの、安全&快適装備は必要十分なレベルにはある。
「クルマを操っている!」という感覚が楽しい
試乗車のボディカラーは、シチリア オレンジという鮮やかなオレンジ色で可愛いスタイルに似合っている。500C(Cはカブリオレの頭文字)はオープンモデルとはいえ、ピラー部は残ってキャンバストップとリアウインドーが電動で開閉する、いわゆるセミオープンタイプだ。ただし、全開にするとたたまれたトップで後方視界がスポイルされるので、ルーフ部分を開けてリアウインドーを残した状態のほうが、少なくとも市街地走行には向いている。
イグニッションをONにして、デュアロジックと呼ばれるシングルクラッチの5速2ペダルMTを「A」にシフトし、アクセルを踏み込むと、ツインエアエンジンは「バタバタバタ・・・」という独特のサウンドを発しながらジワッと発進する。そのままアクセルと踏んでいくと自動でシフトアップされるのだが、あまりスムーズではなくギクシャクしている。
2気筒ゆえエンジンの振動もけっこう大きく、加速しているときにルームミラーを見ると景色はかなり揺れている。それでも、875ccのターボエンジンは1トンそこそこのボディに85psと145Nmはあるから、遅いわけではない。その気になれば街中でクルマの流れをリードすることもたやすい。
最新のEVやハイブリッド車などとは違う、まさに「ザ・エンジン」的な感覚。排気量も恪もまったく違うけれど、かつてベントレーの最後のV8 OHVエンジンを搭載したミュルザンヌに試乗したときに味わった感覚と、根底的に相通じるものがある。やっぱり自分は、まだまだエンジン車が好きなのだなと再認識させられてしまった。
慣れてくれば、加速中の変速タイミングに合わせてアクセルを緩めてシフトアップさせれば比較的スムーズに変速できるし、よりスポーティに走りたいのなら「M」に入れてマニュアルでシフトすればいい(パドルも備わる)。やはり小型車とはいえイタリア車、どんなクルマでもファン to ドライブを楽しませる、フィアット一族の血統はステランティス グループの一員となっても失われてはいなかった。
フェードアウトする前に、ぜひ一度は乗っておきたい
軽自動車よりひとまわりほどしか大きくないボディは、街中ではキビキビ、スイスイと走り回れる。意外かもしれないが、想像されるよりも乗り心地はいい。じつはこの試乗直後に500eにも乗ってみたのだが、もちろんEVゆえの静かさや加速感は違うものの、本質的な乗り味はチンクエチェントと大きく変わっていないことに気づかされた。
4人乗りとはいえリアシートはおとなには狭いし、ラゲッジスペースもミニマム。でも、ノスタルジックで可愛いスタイルや外観に負けないオシャレなインテリアは唯一無二だし、扱い方をマスターすれば、それなりに走りも楽しめる。そして500Cなら手軽なオープン感覚も味わえる。
日本でも2021年11月以降に発売された新型車にはADAS(先進運転支援システム)の装着が義務づけられ、既存の車種も国産車は2025年12月以降、輸入車も2026年7月ごろに自動ブレーキが義務化される。おそらく、ラインナップの刷新を進めるステランティス グループは、それ以前にチンクエチェントをフェードアウトさせるだろう。
したがって、チンクエチェントを新車で手に入れられる期間は、そう長くなさそうだ。そうなる前に、ぜひ機会を見つけてチンクエチェントに試乗してみて欲しい。最新のクルマでは味わえない、プリミティブだけど楽しい、クルマの原点的な走りを再確認できるはずだから。(写真:Webモーターマガジン編集部)
フィアット 500C ドルチェヴィータ 主要諸元
●全長×全幅×全高:3570×1625×1505mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1050kg
●エンジン:直2 SOHCターボ
●総排気量:875cc
●最高出力:63kW(85ps)/5500rpm
Ecoモードは57kW(77ps)/5500rpm
●最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1900rpm
Ecoモードは100Nm(10.1kgm)/2000rpm
●トランスミッション:5速AMT
●駆動方式:横置きFF
●燃料・タンク容量:プレミアム・35L
●WLTCモード燃費:19.2km/L
●タイヤサイズ:185/55R15
●車両価格(税込):344万円
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みんなのコメント
イプシロンなど、これらに共通するのはトランスミッションが「デュアロジック」
という独自のAT(正確に言うとAMT)を搭載しているということですね。
検索すれば沢山出てきますが、このデュアロジックの調子というのが同車を
永く乗る上で重要なポイントになってきます。
不調でオーバーホールともなれば、最悪数十万円という痛い出費になるケースも
あるようですので、やはりしかるべき「主治医」を見つけて懇ろになるというのが
ヨロシイかと思います。
本車に限らずイタリア車全般に言えることかもしれませんが…。