テスラ「モデルY」納車が日本でも始まった。新型に今尾直樹が試乗した。
さすがテック・カンパニーの製品
こりゃあ、アップルストアに来たみたいだ……。さる9月8日、テスラ・モデルYの試乗会にGQ JAPAN枠で参加した筆者は、しみじみそう思った。
そもそもテスラが既存の自動車メーカーみたいにメディアを対象とする試乗会を開くこと自体、筆者の知る限り珍しい。今回は、本年6月10日から受注を開始していた新型車、モデルYの納車が始まったのを記念してのもので、それというのも、モデルYこそ日本市場においてもテスラの最量販モデルとなると見込まれているからだ。
試乗会といっても、あらかじめコースは決まっており、距離にして5~6km、時間にして15分ほど。しかも、テスラの営業担当者が同乗して車両の説明と同時に道案内もしてくれるという、既存の自動車メーカーとは異なる、一般ユーザー向けの試乗に近いやり方だった点にも驚きだった。それもまた、既存の自動車メーカーとは異なる道を行く、テスラらしいところである。
テスラの社員さんたちがみんな若くて、男女半々とまではいえないけれど、女性の比率が高いのも驚きで、それこそ銀座のアップルストアみたいだと筆者は思った。やっぱり、シリコン・バレー発のテック企業はこうでなくては。
なんの予備知識もないまま、運転席のひととなった筆者にとって、モデルYそれ自体も驚きの連続だった。助手席に乗り込んだのは、ふだんはJ R川崎駅直結のラゾーナ川崎プラザにあるテスラでストアリーダーをつとめているという小菅勇輝さんで、その小菅さんが最初に筆者に言ったのは、まずシートの調整をすることだった。
モデルYの電動シートの調節は、シート座面の左側のスイッチで行うもので、これについてはフツウのクルマと同じで、特に驚きはなかった。でも、100%レザーフリーの「ビーガンシート」の厚みがたっぷりしているのにはちょっと驚いた。
スマートフォンがふたつ、充電できるようになっているのも小さな驚きで、小菅さんが次に支持したステアリング・ホイールのチルト&テレスコピック、それにドア・ミラーの調整のやり方にはかなりたまげた。
助手席の小菅さんがダッシュボードの中央にある15インチのタッチスクリーン・ディスプレイで、「ステアリング」、「ミラー」をそれぞれ呼び出し、ステアリング・ホイールのスポークに設けられた左側の、縦にくるくる回るだけではなくて、左右にも動く、小さな「スクロールボタン」を操ることで動くのだ。ちなみに、右にも同じスイッチがあるが、そちらは自動運転アシスト用で、今回は使わなかった。
単にステアリング・ホイールを少々、上下、前後に動かすだけのことである。ドア・ミラーも同様、ちょこっと上下、左右にせいぜい数cm動かすだけで、ちょっと前まではあなた、フツウに手で調整していた。それをわざわざパソコンみたいなものを通して複雑にしている。
しかも、このスクロールボタンの感触が、自動車っぽくない。自動車っぽい感触、というのがメカニカルに、歯車でもって動かす感じだとすると、これは電気式信号によって、モーターで動かしている印象で、繰り返しになりますけれど、たかがステアリング・ホイール、もしくはドア・ミラーをちょこっと動かすだけのことを、パソコン経由で行っている。さすがテック・カンパニーの製品である。
ただし、ルーム・ミラーは昔ながらに手で動かす。そこはまぁ、なんといいますか、フツウでありまして、ちょっとほっとする。
ダッシュボードには、写真でもご覧のように、機械的なスイッチの類は、ステアリング・ホイールのスポーク上の左右、ふたつのスクロールボタンのほかにはなにもない。ように意識的に見せており、ステアリング・ホイールの左右両側からレバーが1本ずつ出ていることに、筆者は最初、気づかなかった。じつは、このレバーもフツウの自動車と同じで、右側がギアのシフター、左側がウィンカーになっている。
既存の自動車メーカーとは価値観が異なる
で、ブレーキ・ペダルを踏んで右のレバーでギアをDに入れ、次にアクセル・ペダルを踏む。するとパーキング・ブレーキが自動的に解除され、モデルYは音もなく動きはじめる。
全体に昆虫のゲンゴロウみたいにコロッとしているためか、見た目はさほど大きく見えない。
でも、ボディ・サイズは全長4751×全幅1921×全高1624mmと、日本車だとトヨタのBEV、「bZ4X」よりも61mm長くて、61mmも幅広く、26mm低い。SUVを名乗るにしては全高が低めなのは、最低地上高が167mmとさほど高い部類ではないからだ。2890mmのホイールベースはbZ4Xより40mm長いだけだから、寸法的には同クラスと考えてよいだろう。
ドア・ミラーを含めると2129mmと全幅が2mを超える。それを意識するのは駐車場の料金所を通過するときで、それ以外は高めの着座位置と、低いフロント・ノーズのおかげで視界が優れているのもあって、サイズは気にならない。着座位置が高過ぎないこともコンパクト感に貢献している。
駐車場を出て、小菅さんの指示通りに一般道を走りはじめる。筆者がこれまで体験したEVは、耳をすませるとインバーターの発する電子音が聞こえてきたり、あるいは意識的に電子音を発したり、そういえばテスラだって、第1号の「ロードスター」は、ひゅいいいいいいいいいいん、というサウンドが加速時に聞こえたものだった。いまから思い起こすと、モデルYはそういう人工音を発したりせず、いたって静かだった。
日本仕様のモデルYはいまのところ、デュアルモーターAWDの「パフォーマンス」と、「RWD」の2タイプのみで、われわれの試乗車はRWDだった。文字通り、フロントのモーターを省いた後輪駆動車で、このモーターが何馬力なのか、小菅さんに聞き忘れてしまったのは大失敗だった。なんとなれば、テスラ・モデルYのモーターが何馬力なのか、少なくともテスラのホームページ(HP)には書いてなかったからだ。
同社のHPに行くと、各モデルのオーナーズ・マニュアルをダウンロードできるようになっており、モデルYのそれをバーっと飛ばし読みしてみたけれど、そこにも明記されていない。ふ~む。さすがテスラである。既存の自動車メーカーとは価値観が異なる。
HPでモデルYのスペックとして書かれているのは、「RWD」の場合、0~100km/h加速は6.9秒、航続距離は507km、最高時速は217km/h、重量は1930kgという程度に過ぎない。これが、デュアルモーターAWDの「パフォーマンス」になると、3.7秒、595km、250km/h、2000kgに跳ね上がる。
0~100km/h加速のタイムが3.7秒というのはスーパーカー・クラスで、ポルシェでいうと「911カレラS」、もしくは「タイカンGTS」と同タイムということになる。6.9秒は、同じくポルシェでいうと、「マカン」が6.4秒だから、それより0.5秒も遅いけれど、体感上はおそらくもっと速い。というのも、0~50km/hがモーレツに速いからだ。ガバチョとスロットル・ペダルを踏み込めば、まわりのクルマが止まっているように加速することができる。
“今すぐ注文”するのが正解
ロック・トゥ・ロック2回転のステアリングはやや重めだけれど、たいへん正確で、フィールもあり、ヨーロッパの名門ブランドもかくや、と思わせる。
19インチ、255/45のハンコック製のタイヤを履いた乗り心地は、いい意味でのゴム感がある。バネも硬めで、ダンピングがよく効いており、引き締まっている。
今回の試乗は路面のよい、埋め立て地の有明地区を5kmほど走っただけ、ということはあるにせよ、前述したようにシートのクッションは厚めだし、東京近郊だったらどこでも快適に過ごせるのではあるまいか(あくまで筆者の個人的印象ながら)。
いわゆるドライブ・モードには、遅いのと速いのがあり、アクセル・ペダルを戻すだけで回生ブレーキを効かせ、ブレーキ・ペダルを踏むことなく減速Gをより強力に立ち上げられる。小菅さんによると、これは慣れると便利なだけでなく、ブレーキ・パッドの節約にもなる。15万km走ってもパッド交換の必要がないというのだ。
そんなこんなの驚きの連続で、今回の試乗会は終わってしまった。テスラ・モデルYのRWDの価格は、現時点(2022年9月8日)で643万5000円。受注開始時、つまり6月10日時点は619万円だったのが、この間の円安で、25万円ほどの値上げとなった。テスラの価格は、HPで「今すぐ注文」をポチッとした時点で決まる。
納車は現在5カ月待ちで、国産車とそう変わらない。今回の円安は出口が見えない、ともいわれているから、悩んでいるひとは“今すぐ注文”するのが正解だ。
イーロン・マスク率いるテスラの主力モデル、モデルYは、来年のいまごろには、東京をはじめとする大都市で、もっとも目立つ1台になっているだろう……と、筆者がいったところで鬼も笑わないにちがいない。
文・今尾直樹 写真・小塚大樹
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