ワンメイクレースで走るI-PACEの実力は本物
スポーツカーで名高い英国の高級車ブランドであるジャガーに、100%完全電動モデルの第一弾としてI-PACEがラインアップされ国内での販売も開始された。その試乗機会を得られたのでリポートしよう。
じつは昨年秋に開催された「浅間ヒルクライム(場所は群馬県吾妻郡嬬恋村)」の会場にこのi-PACEが展示され、ヒルクライム走行の先頭車両を務めていたのを目撃していた。どんな走りをするか見届けようと思ったのだが、チームメイトと話し込んでいる間にスタートしてしまっていて、走りを見ることができなかった。電動EVでエンジン始動もウォームアップ音もなく、スルスルと走り出したようで気がつかなかったのだ。
しかしショートノーズかつロングキャビン(キャビンフォワードデザインと呼ばれている)でありながらワイド&ローなフォルムは非常に格好よく、SUVっぽさも持ち合わせていて興味が深く目に映った。
ところ代わり3月の香港フォーミュラEグランプリ会場では、I-PACEのワンメイクレースを開催しているのを観戦できた。すでにワンメイク仕様のレースカーが出来上がっていてシリーズ戦としてフォーミュラEと同じ会場で併催されているのだという。日本ではほとんどニュースとして知らされていなかったので驚きつつ、今度は音がしなくても見逃さないようコースに視線を送り続けていた。
そこで見た走りは、AWDのトラクションが特徴的でウエット路面ではフォーミュラEより速いのでは? と思わせるほど。タイトターンもスムースで安定して走り抜けていくさまに、ますます試乗意欲が沸き上がってきた。
そして今回、いよいよ実車に試乗することができた、というわけだ。
快適さと鋭いコーナリングを両立した走り
実車を目の前にすると、改めて特徴的な車体デザインが魅力的だ。ボディの94%をアルミ化し軽量化しつつ、ボンネットフードにはエアアウトレットが設けられ、またドアオープナーは電動で出入りする「デプロイアブル・ドアハンドル」とするなど手の込んだ作り込みがされている。
試乗モデルのルーフはガラスサンルーフだが、インナー側にはシェードがなく、液晶で遮光や断熱も可能とした日本製の特殊ガラスを使用している。ちなみにI-PACEは、メルセデスAMG SLSやメルセデス・ベンツGクラスの製造でも知られるオーストリアのマグナシュタイア社で生産されているそうだ。
コクピットに乗り込むと、ジャガーらしいスポーティさと英国車風の高級感ある仕上がり、そして液晶モニターを多用する未来感のあるメーター、インストゥルメントパネルが特徴的だ。
ブレーキペダルを踏みながらスタートストップボタンを押してシステムを起動するが、もちろん音は皆無。メーター表示で起動を確認してセンターコンソールに配置されているDレンジスイッチを押せば走行準備完了だ。
通常EVはATのようなクリープは発生しないが、I-PACEはモニターの設定ダイアログから「クリープON/OFF」の選択設定が可能となっている。クリープONにして走り始めるとAT車のようにゆっくりとスムースに動きだし、渋滞路での使い勝手も良さそうだ。
この同じ設定ダイアログで回生の「強/弱」も選択でき、回生・強の設定ではアクセルペダルの操作だけで加速・減速強度が広範囲でコントロールできる。
貸し切りクローズドされた広場でスロットルを踏み込んで見ると、強烈な加速が得られた。テスラもそうだがAWDでハイパワーなEVの発進加速性能は強烈だ。このI-PACEも0~100km/hの発進加速タイムは4.8秒と公表されているが、アクセルを踏み込むだけで誰でもこの加速性能が引き出せるイージーさを与えられているのだ。
I-PACEのパワートレインは前後2モーターで、それぞれ200馬力/350N・mのパワー・トルクを引き出せ、トータルで400馬力/700N・mものパワースペックとなっている。駆動用電力は車室フロア下ほぼ全面に設置されている350kgもの重量がある90kwhのリチウムイオンバッテリーから供給される。この搭載位置は大容量バッテリーを搭載する世界的なスタンダードとなってきているようだ。
その結果、車両重量は2250kgにも及ぶものの、重心高はジャガーのE-PACEなどに比べ120mmも低くなっていてハンドリング性能を高めている。一般道でのハンドリングはロールが抑えられ極めてスムース。それでいて路面の影響を受けにくくダンピングも穏やかで乗り心地がよい。
ちなみにドライビングモードはECO、コンフォート、ダイナミックと選択できるが、それほど劇変する特性のもないようで、どのモードを選んでも快適性は損なわれなかった。
充電はチャデモ方式に対応していて急速充電にも対応している。フロントフェンダー左右に個別に充電ジャックが設けられていて普通充電でも15時間程度でフル充電可能だという。航続距離はWLTCモードで438kmとされている。
ほかにも無線通信によるソフトウェアアップデート機能(テレマティクスユニットやバッテリーコントロールモジュール、インストルメントパネルのタッチパネルなど)も備え拡張性も高めているのだ。
次の機会にはサーキット走行も試してみたいが、どうせなら今季モナコでも開催される予定だというワンメイクレース会場で試走させてもらいたいものだ。
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