「ギラギラのハイテク」より「シンプルなローテク」がカッコいい時代
エアコンディショニングが行き届いた屋根付き建造物や公共交通機関がいくらでもある都会で、本格アウトドアブランドの衣服を着用する必要は、まったくないと言えばない。
しかし人は「ま、なんとなくカッコいいから」という理由でパタゴニアやモンベルなどのウェアを羽織り、ビル街を闊歩する。かく言う筆者にしてもそうだ。
この状況を車に当てはめるとしたら、「主に舗装路を走るために買われたスズキ ジムニーやランドローバー ディフェンダー」というニュアンスになるだろう。それは要するに「屈強なオフローダー」であり、それらをあえて都市部で使うのがおしゃれなのだ――ということである。
それと同時に、「いわゆる商用車を普段づかいしてみるのも、それはそれでカッコいいのでは?」とも思う。
商用ユースに特化されているがゆえに「シンプル」で「ヘビーデューティ(頑丈)」なそれを、商用とは関係なしにプライベート用としてさらりと乗りこなす。
それは、ハイテクでギラギラ系のモノよりは「ローテクでシンプルなモノ」の方がおしゃれだとされている今の時代の空気に、割と合っているような気がしてならない。
ただし商用車は、そのままの状態で乗っていると「配達中の人」「仕事現場に行く途中の人」にしか見えないおそれもある。そのため「微妙で絶妙なカスタマイズ」を少々施してやることが、商用車をステキに乗りこなすうえではかなり重要となるはずだ。
で、そういった「商用車の微妙で絶妙なカスタマイズ手法」を考える際の良き参考となるだろうオーナー氏を、過日取材することができた。
ちょい無骨にカスタマイズした日産 NV200バネットバンに乗る静岡県在住の会社員、村松さんご夫妻である。
黒樹脂バンパーと安価なホイールキャップの塗装で「黒締め」を
1980年代末から90年代前半にかけて販売されたトヨタ デリボーイという商用バンで自動車生活をスタートさせた村松さんは、その後もトヨタ クイックデリバリー(まさに配達用のバン)や、あらためて購入したトヨタ デリボーイなど、とにかく「商用バンひと筋」で今日まできたという。
そんな村松さんが、現在の愛車である日産 NV200バネットバンを購入したのは今から約3年前。走行0.4万kmの低走行な中古車として購入した。選んだのは「あえての廉価グレード」である。
なぜならば、上級グレードを選ぶと前後のバンパーが「ボディ同色」になってしまうから。
「廉価グレードだと、前後バンパーがボディ同色ではなく『無塗装の黒い樹脂』になるんです。道具としてのカッコ良さを出すには、バンパーは黒い樹脂のままの方が断然いいと思うんですよね」
白や明るいシルバーのボディに黒い樹脂バンパーを合わせると「ザ・配達車」みたいになってしまうおそれがある。しかし村松さんの場合は濃いグレーメタリックといえる「ブレードシルバーメタリック」を選んだことで、ちょいミリタリー風味も感じられる好印象なカラーマッチングに成功した。
そこにさらに加わえることで全体のトーンを決定づけたのが、タイヤとホイールだ。というか、正確にはホイールではなく「ホイールキャップ」だ。
NV200バネットに純正装着されるタイヤは「いかにも商用バン」といった感じの、言ってはなんだが貧相なビジュアルのもの。それを、まずは「貨物車用のオールシーズンタイヤ」に履き替える。
それだけでもグッと「ステキな道具感」が生まれるが、村松さんはさらにひと工夫した。「樹脂製の安価なホイールキャップをつや消しブラックに塗装してはめる」という手法だ。
「このホイールキャップは日産 キューブ用の純正品です。それを安く買い、シャシーブラック(自動車のアンダーボディなどに防サビ剤として塗られる黒い塗装剤)で塗ったんです」
このひと手間と、そもそもの黒い樹脂製バンパーにより、NV200バネットバンの下部4分の1ぐらいが美しく「黒締め」された。これにより、村松さんの商用車は「ザ・配達車」とはまるで異なる印象の1台に仕上がったのだ。
特に載せるモノがなくても(?)ルーフラックはぜひ設置したい
その他にもこまごまとカスタマイズが施されている村松さんのNV200バネットバンだが、挙げていくとキリがなく、なおかつカーセンサーnetはいわゆるカスタム専門媒体でもないため、「肝心なところ」のみを最後にご紹介しよう。
村松さんの商用バンを決定的に「ヘビーデューティでカッコいいバン」にしている要素は、前章で指摘した「黒い樹脂製バンパー+ガンメタっぽいボディ色」と「無骨なオールシーズンタイヤ+つや消しブラックのホイールキャップ」の他に、もうひとつある。
ルーフに乗っている「載せモノ」だ。
「載せモノ」というのは筆者の勝手な造語であり、カスタム業界にそういった用語は(たぶん)ないと思うが、要するに載せモノとは「ルーフ上に増設するキャリアやラックなど」のことである。
これがあると商用車のビジュアルはずいぶんと締まったものになり、道具っぽいシブさが増すのだ。
まあ村松さんの場合は筆者と違って「カッコ優先」で載せモノを設置したわけでなく、実際にいろいろ活用するために載せたわけだが、いずれにせよ村松号のルーフに載っているのは、プロカメラマンや職人さんなどが愛用しているAIBA WORKSの「NoSELDA(ノセルダ)」というタフなルーフラック。
そのラック底面にD.I.Y.で木の板を貼ったのは、ご本人いわく「実用上の理由で」とのことだが、結果として絶妙なナチュラル感というか「森ボーイ感」みたいなもの(?)が生まれたように思える。ちなみにルーフラックに登るためのリアラダー(ボディ後端に付けられたハシゴ)もAIBA WORKS製だ。
以上の勝手な解説はかなりかいつまんだものであり、なおかつ「すべての車種に必ず応用できる」というものでもない。
だが、繰り返しになるが、ハイテクでギラギラ系のモノよりはローテクでシンプルなモノの方がおしゃれに感じられる今の時代にあって、ドレスアップならぬ「程良いドレスダウン」のための、少しでもご参考になったならば幸いである。
カーセンサー11月号(2019年9月20日発売)では、村松さんが乗るNV200バネットバンのような車を「個性車」として特集している。この記事を読んで興味が湧いた人は、ぜひチェックしてほしい!文/伊達軍曹、写真/稲葉真
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