次に日本市場に上陸するモデルとして注目を集める新型BMW3シリーズ。早速、現地でその詳細を取材した。SUVとの競争が激化する中、新たなセダンの価値に挑む、BMWの本気が感じられた。(Motor Magazine 2018年12月号より)
重量を55kgも軽量化しつつ、前後重量配分50対50を堅持
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パリオートサロンでその存在感は際立っていた。拡大されたサイズはもちろんだが、凝った造形のヘッドランプや大ぶりなキドニーグリルの強い押し出し感が挑戦的で野性味すら感じさせる表情を作り出し、一気に精悍さを増している。さらに、全長が拡大されたことで低く構えた姿勢も強調されている。
会場にはスタンダードな仕様と、Mスポーツパーツを装備した仕様が用意されていたが、その印象は大きく違った。とくにフロントバンパーまわりのインパクトに見逃せない違いがあった。標準版はバンパー左右にT字を寝かせたようなダクトが配されているが、全体的にはクリーンで上質。対するMスポーツはまるで獲物を威嚇するように大きな開口部が広がる。エクステリアは、3シリーズセダンの伝統を受け継ぎながら、巧みに新時代のトレンドを盛り込んだスポーティなた佇まいが完成されていると言える。
ファッション性の高いスタイルを持つSUVや流麗なクーペ風シルエットが与えられえた4ドアサルーンなど、クルマの多様化が進んでいるが、定番モデルとして「セダンを選ぶ」ユーザーに向けて新たな創意工夫を盛り込んでいるのも見逃せないところだ。
ホイールベースの伸長によるスペースのゆとりはもちろんだが、前席シートの横方向のサポート性を向上させるとともに、アジャスターの調整幅が拡大されたこともそのひとつ。後部座席は左右だけでなく中央に座る乗客の快適性にも配慮している。Aピラートリム部のスリム化などによって、全方向への視界は良好。こうしたちょったした工夫によって、すべての席でリラックスできる空間を作り出している。
フロントガラスには、上級モデルに使われる「アコースティックガラス」を採用。吸音素材を挟み込むことで高い静粛性を実現している。オプションでサイドウインドウも「アコースティック」化すれば、高速走行時の風切り音が劇的に低減されるそうだ。
ひとつひとつはささやかな改良だが、積み重ねることで従来モデルにはなかった魅力を錬成することができるという、お手本のような進化ぶり。成熟しきったセダンというジャンルにあっても他とは違う価値を提供したい!という開発者たちの想いが、ひしひしと伝わってくる。
もちろん走りも飛躍的に進化しているだろうが、そういう使い勝手でも「エモーショナル」な魅力が愛車との絆をより強く結びつけてくれるように思えた。
先進運転装備が多彩に充実、バックまで自動でできる
ドライバーとクルマとの結びつきという意味では、先進運転支援システムのステップアップぶりも目を見張るものがある。
たとえば渋滞時にハンドルを自動でアシストしながら、先行車に追従していくステアリング&レーンコントロールアシストは、従来よりも作動領域が拡大された。約60km/hまでは、ドライバーはハンドルを握りしめなくても、指先で軽くタッチしているだけで、部分的な自動運転の恩恵を受け続けることができる。
さらに画期的な新機能と言えるのが、リバーシング アシスタントと名付けられた駐車支援機能のひとつ。35km/hまでの速度域で、クルマは500m分の経路情報を記録している。そして必要なら自動的に、元の場所までバックしてくれるのだ。自動運転につながる先進運転支援システムは、これまでもっぱら前に進む方向で進化を遂げてきた。日本の場合は、誤発進抑制機能の拡張版として、前進だけでなく後退時にもサポートしてくれるものがあるが、新型3シリーズのシステムはサポートの次元が違う。
そしてもうひとつ、新型3シリーズには「オンボードコンシェルジュ」とも言うべき、クルマの機能を知り尽くしたエキスパートが常に同乗していることをお伝えしておこう。彼の名前は「インテリジェント パーソナル アシスタント」。ドライバーの好みや多用する設定などを学習し、最適で快適な操作やアドバイスを提供してくれる。
BMWはこれまでも運転支援へのアプローチを「BMWコパイロット」と呼んで推進してきたが、インテリジェントパーソナルアシスタントはまさに、優秀なコパイロット的存在だ。時にはその時に最適な音楽をかけてくれるパートナーであり、あるいはメールのやりとりや電話会議といった、仕事上の作業を手助けしてくれる秘書でもある。彼の登場で、クルマで移動する時間が、どんなものなのか。ぜひ早く試してみたい先進機能のひとつである。
スポーティなセダンを作る、それこそがBMWらしさ
新型3シリーズ性が目指すものはただひとつ。「このセグメントでナンバーワンになる」ことに他ならない。
デザインや使い勝手の進化も、安全運転支援を含むサポート力の強化も、すべてはセグメントナンバーワンの価値を手に入れるための取り組みだ。
しかし、もっともBMWらしい進化についても、開発メンバーは革新的な「創意工夫」で、ライバルに差をつけてきた。今回、モーターショーの会場でインタビューに答えてくれた開発担当者のコメントには、揃って「スポーティなセダンを作る」ことへの情熱を感じることができた。
彼らによれば、それを実現するためのエレメントは3つあるという。
ひとつは、50:50の重量配分や55kgの軽量化といった、BMWのスポーツサルーンが受け継いできた「DNA」をしっかり体現すること。
ふたつめは「剛性」。新しいシャシ構造は、ねじり剛性だけでなく、たとえばサスペンションとボディの結合部の剛性を飛躍的に向上させている。定評のあるダブルジョイントスプリングフロントサスペンションと5リンクリアサスペンションは、新世代ホイールベアリングや油圧ダンピングトルクストラットベアリングの採用など各部をアップグレード。高いステアリング精度と優れたコーナリングダイナミクス、上質な乗り心地まで手に入れている。
そして3つめが、「インテリジェント&スマート」。その中心にあるのが、連続可変ダンピング機構によってリフトを最適化するサスペンションシステムだ。路面の凹に対してダンピングの応答性を最適化、安定した姿勢と穏やかな乗り味を実現している。スタンダード仕様とともにMスポーツに設定されるのシステムは別にセッティングが施されていて、減衰力は約20%アップとのこと。xDriveモデルでは車高が約10mm下がる。
電子制御式ダンパーを備えたアダプティブモード付きMサスペンションも設定されるなど、走りの味付けに関してはユーザーの選択肢は非常に広い。リアの電子制御式デファレンシャルロック機能によって、トラクション、アジリティ、セーフティの全方位性能が高まっていることにも注目だ。
パリオートサロンでは、もうひとつ、新型3シリーズのラインナップが大きな話題を呼んだ。スタンダードな4つのエンジン搭載モデルに加えてBMW M社がチューニングを施したMパフォーマンスモデル「M340i xxDrive」の存在が公表されたのだ。3L直6ターボのガソリンエンジンは最高出力375ps、最大トルク500Nmを発生。0→100km/h加速はわずか4.4秒と公表されている。
ちなみにプラグインハイブリッドの330eも2020年の市場投入を予定している。硬軟両面でのパフォーマンスリーダーの存在が明らかになったことで、新型3シリーズそのものから、ますます目が離せなくなってきた。(文:神原 久)
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