もくじ
ー 混戦のル・マンを英国車が制すか
ー 狙うはレギュレーション変更前の勝利
ー TVR買収目前だった過去も
ー 白紙から再スタートしたジネッタ
ー ロードカー生産拡大にも関心
ー 目指すはル・マン制覇
TVR代表、直近4年間を振り返る 「ル・マン勝利のような感覚」 今後の任務は?
混戦のル・マンを英国車が制すか
もしジネッタが、同社の新型レーシングカーの出走を、計画どおりの来年ではなく2017年としたら、ヨークシャーのスポーツカー・メーカーは、今年のル・マン24時間耐久レースで勝利を収めていたかもしれない。
ハイブリッド・パワートレインに課された複雑なレギュレーションの余波により、今年のル・マンは優勝候補のチームが本来の実力を発揮できず、終始混乱したレースとして記憶されるであろう。
一方で、レギュレーション上の下位クラスであるLMP2クラスのレースカーは、上位クラスのポルシェを含むLMP1クラスのレースカーを凌ぐ活躍をみせ、優勝した919ハイブリッド以下の2位から7位をLMP2クラスのレースカーが占めることになった。
今年のレースで、LMP1クラスのリーダーが持てる実力を発揮できたと仮定した場合、ジネッタの最新テクノロジーで武装したノン・ハイブリッドLMP1レースカーに勝利の見込みはなかっただろう。しかし、多くのLMP2レースカーや、問題を多く抱えたポルシェを凌ぐ結果を残すことはできたかもしれない。ジネッタのオーナーであり、2006年のGT2クラスの優勝を含む輝かしいレース・キャリアを有するローレンス・トムリンソンのル・マンに対する情熱を考えたら、そうなっていたのではないだろうか。
狙うはレギュレーション変更前の勝利
他のプロフェッショナルと同様、2022年のシーズンから発動する新しいレギュレーションが2020年に発表されると予想するトムリンソンは、勝機は熟したとみなしている。おそらく新しいレギュレーションは、ハイブリッド・パワートレインを強要し、そしてプジョーを呼び戻すことになるであろう。しかし、その前にヨークシャーのスポーツカー・メーカーが勝利を手に収めることができる可能性が存在する。
彼らはすでに、メカクローム製のパワートレインを装備したレースカーのテストをウイリアムズの風洞トンネルで繰り返し行い、このレースカーで出走したいという多くの潜在顧客を開拓している。
59年間に渡って、将来有望な14歳のドライバーから、シボレーのV8を搭載することを要求する本格的なプロまで、多くの層にシンプルなフロントエンジンのレースカーを提供してきたこの会社にとって、この決断は大きい。現在のジネッタは、少なくとも5つのチャンピオンシップに参戦しており、素晴らしい結果を記録している。
トムリンソンは、ウエストヨークシャーのバトレーで生まれ、学校卒業後はエンジニアの職に就いた。しかし、彼のキャリアは、その始まりからある情熱によって支配されてきた。尽きることのないクルマ(と、近年はヘリコプター)への情熱と起業家精神である。23歳の時に銀行から£50万の融資を受けて、彼の両親が所有していたケア・ホームを買収することをきっかけに、不動産ポートフォリオを構築し、売買を行ってきた。同時に建築業やソフトウェア業にも投資をしてビジネスの底上げを行い、2011年にサンデー・タイムスは、彼の資産を£5億5000万(約782億円)と見積もっている。
TVR買収目前だった過去も
しかし、トムリンソンの起業家精神への評価は、資産価値だけでは測れない。業界におけるその功績を称えられ、受賞した一連の名誉博士号はその一例である。
政治家としての一面もあり、2013年から14年の間、経済省においてスタートアップの成長を助長する為に、規制緩和を促進した。他にも、彼は経済後退局面における銀行の小規模ビジネスに対する取扱いに関する行動規範を制定し、それは今日でも実行されている。
こうした多忙な時間を過ごしながらも、彼は素晴らしいレーシングドライバーとしてのキャリアを中断することはなかった。2005年にジネッタを買収するまでは、主にTVRから出走していたので、TVRの買収も考えたという。
トムリンソンと当時のTVRのオーナーであったピーター・ウィラーは、契約の締結を進めていた。ニコライ・スモレンスキーというロシアのミニ・オリガルヒが、たとえていうなら、スーツケースに詰まった札束を持ってやってくるまでは。
「私とピーターはそのことについて同意していると思っていました」トムリンソンは思い返す。「ヨークシャーで締結される契約は、互いが同じだけ不幸せなら素晴らしいと言われますが」と、トムリンソンは、その後ブラックプールで起った悲劇を示唆した。
「多くの困難を抱えながらも、そこには未来がありました。しかし、すべては壊滅し、ノースウエストに蓄積されたすべてのノウハウは失われてしまったのです。しかし、すべてをニコライの責任にするわけにはいきません。彼は、23歳か24歳で自動車会社を買収する権限を与えられ、外国企業を運営しなければいけなかったのです。その結果がどうなるかは、想像に難くないと思います」
白紙から再スタートしたジネッタ
トムリンソンは、「TVRの為に何かできたかもしれない」と思う傍らで、ウィラーとの契約が破談したのは、何かの恩恵だと感じていた。「破談したお陰で、厄介な問題を抱えることにはなりませんでした」。
「ジネッタは白紙の状態でした」と彼は言う。リーズを拠点とするこの会社の利点のひとつは、ジネッタ・ジュニア・シリーズだという。2003年に始まった同シリーズは、ダンロップMSAブリティシュ・ツーリングカー・チャンピオンシップの傘下で、定期的に開催され、若いドライバー達の登竜門となり、この会社に「僅かな収益」で貢献してきた。
2005年当時を振り返り、トムリンソンは、彼がそうなるべきと考えていた姿から「少し遅れていた」と認める。しかし、当時の彼らが、1920年代以来最大の不景気に直面していたことも忘れてはならない。「しかし、わたしたちはクルマを造り続け、スターティンググリッドへ送り続けました。わたしは、それこそがチーム・ジネッタが一丸となって成し遂げた、素晴らしい功績と考えています」とトムリンソンは付け加える。
トムリンソンは、古典的な運転技術に価値を見出している。そのことが、電子制御を伴ったハイパワーなクルマに彼があまり興味を示さない理由でもある。レースにおいて、それらがドライバーをなまくらにすると彼は信じている。「プロとジェントルマン・ドライバーが、まったく同じところからブレーキングを開始します。そこには運転技術がどうこうという余地はありません」
同じことが、トラクションコントロールやトルクベクタリングにも言えるといい、「競争の世界で自動運転を導入するようなものです。ロボ・レースが、それらにふさわしい場でしょう。レーシングカー同士で競わせればいいのです」
ロードカー生産拡大にも関心
ジネッタは、ロードカーの生産も諦めたわけではないという。しかし、リーズの東側にあるモダンな工場を訪れると、そこがレーシングカーに特化した場所であることに気が付く。ただし、そこで造られたもののいくつかは、ロードカーとして登録することも可能である。
ロードカーとレーシングカーを併せた年間生産台数は、以前は200台ほどであったが、今では120台から150台程度だという。すべてはハンドメイドで造られ、エントリー・モデルは購入しやすい価格設定であるが、高性能モデルは2800万円以上する。
2011年、ジネッタは同じ英国の小規模スポーツカーメーカーであるファービオを買収。彼らが生産していたGTSを、大金を投じて改修し、ジネッタG60として送り出した。しかし、高い評価と目を引く意匠に反して、販売は芳しくなかった。トムリンソンは、今でもロードカー事業のてこ入れを考えている。彼は起業家精神の強い人物であり、しかも由緒ある歴史を掲げた他の英国車メーカーの調子は良い。
「わたしたちはまだこのプロジェクトに手を付けたわけではないし、公表する具体的な計画もありません。しかし、ロードカーには大きな関心を持っています。非常に難しいのは、ひとびとがどんなクルマを求めているかを見抜くことです。何故なら、彼らはそれが何なのかわかっていないからです」
今のところトムリンソンは、市場の好評価を受けるロードカーを試乗し批評することで、情報を集めているという。
もしジネッタが玄人好みのロードカーを造るとしたら、それは軽量で俊敏、難解でなく妥協のないドライビングプレジャーを追求するものになるだろう。そのクルマのキャラクターを表す上で、最後の項目がもっとも大切であると彼は主張する。
目指すはル・マン制覇
ローレンス・トムリンソンによると、2018年のル・マンでイギリスに勝利を持ち帰ると期待されているジネッタの新型LMP1レースカーの開発は、10月に行われる初のサーキット・テストに向け、順調に開発が進んでいる。
「世界最速の市販レーシングカー」と称されるこのクルマは、シャシーとボディがすべてカーボンファイバー製。リーズにあるジネッタのデザイナー達を中心に、ウイリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングが風洞テストを、エイドリアン・レイナードが熱流体解析を担当するという、共同作業によって造られている。
2台体制の3つのプライベート・チームが、LMP1ジネッタで来年のレースを戦う見込みであるという。ジネッタの試みは、トムリンソンが主張する、最高位クラスにおける競争の難易度の是正を具体化したものである。
ハイブリッド・パワートレインで速さは手に入れることができるが、同時にその複雑な成り立ちに翻弄されることにもなる。ジネッタは、800psを発揮するメカクローム製3.4ℓV6エンジンを搭載するが、これは国際フォーミュラレースで実績のあるユニットだ。
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