やわらかいドレスと、硬質な自動車。両者には、かなりの距離があるように見える。ではそれぞれの分野で世界をリードするデザイナーは、お互いの仕事をどのように見ているのだろうか? 「TOMO KOIZUMI」の小泉智貴氏と、MINIのデザイン部門の責任者であるオリバー・ハイマー氏が、デザインについて語った。
色が先か、形が先か
俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記 第2部「少年探偵団編」のVol.33──BMW 3.0CSi
東京2020オリンピック競技大会の開会式で、MISIAが着た30色のカラフルなドレスを覚えている方も多いだろう。あの衣装をデザインしたのが、ファッションブランド「TOMO KOIZUMI」を主宰する小泉智貴氏だ。
2020年には、若手ファッションクリエイターの育成と支援を目的とする「LVMH YOUNG Designers Prize(LVMHプライズ)」に選ばれるなど、世界的に高く評価されるファッション界の新鋭だ。
一方、カーデザイナーのオリバー・ハイマー氏は、MINIのデザイン部門の責任者を務める。クルマとファッション、それぞれのデザインはどこが似ていて、どこが違うのか。それぞれの分野で最先端を疾走するふたりが、BMW GROUP Tokyo BayでMINIを見ながら語り合った。
トモ コイズミ(以下、トモ):久しぶりにこちらに伺って、きれいな新色が加わっていることに心惹かれました。さきほどオリバーさんが、色については離れて見たときと、近寄って見た時の印象を考慮して決めているとおっしゃっていましたが、新しい色のアイデアはどうやって生まれるのかが気になりました。
オリバー・ハイマー(以下、オリバー):日頃、さまざまな写真や映像からインスピレーションを得ていますね。たとえばサハラ砂漠の朝、陽が昇るにつれて青みがかかった空が次第に黄金色に染まりますが、ある瞬間に非常に特徴的なブルーが現れることがあります。そうした映像から新しい発想が生まれますね。
トモ:さっき見せていただいたマルチトーンルーフ、青から黒へと移り変わっていく屋根のカラーなども、そのようにして生まれたアイデアなんでしょうね。マルチトーンルーフは、青から黒のグラデーションだけですか?
オリバー:チリレッド、シルバー、ブラックと、いまのところ3つのバリエーションがあります。さまざまな色の組み合わせを考えているので、今後は多彩なバリエーションが生まれてくると思います。
トモ:こういうグリーンのクルマに、レッドのマルチトーンルーフを組み合わせるようなこともできますか?
オリバー:基本的にはイエスです。ただしすべての色の組み合わせが、スムーズにグラデーションを描くわけではないので、色ごとに試してみなければわからないこともあります。トモさんに質問ですが、トモさんはどんなところからデザインのインスピレーションを得ていますか?
トモ:僕はファッションが好きで、ファッションのヒストリーも学び、憧れたマイスターのようになりたいと思って頑張っているんですが、結局真似になってしまい、悩んでしまうこともあります。そういうときは、子どもの頃に囲まれていた自然の中の花の色だとか、自分が好きなペインティングの美しい配色に立ち返ることが多いですね。
オリバー:私も同じようなことを感じています。いいものを参考にしていると、どうしても近づいてしまう、真似になってしまうリスクがあります。
トモ:最近思うのは、じぶんがあたりまえにできることとか、素直にいいと思えるもの、自然に出てくるものがその人の一番ピュアなクリエイティビティではないかということです。無理して頑張るよりも、自然に湧いてくるものが大事だということは、前からわかっていたけれど、最近はあらためてそう感じています。
オリバー:そう思うようになったきっかけがあるんですか?
トモ:2023年の3月にパリでショーを開催する予定で、初めてのパリなので緊張して力が入っているけれど、じぶんらしくいなければいけないな、ということを最近になって実感するようになりました。
オリバー:われわれの仕事でも、似たようなことを考えます。さまざまな意見や制約にがんじがらめになることがあって、そういう時にはどうしても無理をしてしまう。でも、それだといい仕事をするのは難しいんですね。いまトモさんがおっしゃったように、じぶんを解放してあげる、自由になる瞬間が必要だと思います。デザイナーが目指すものは、今日できるとか来週できるとか、そういうものではありませんから。トモさんにもうひとつお聞きしたいことがあって、それは色がスタイルに与える影響のほうが大きいか、ということです。それとも逆に、スタイルが色に影響を与えますか?
トモ:う~ん……、それは考えたことがなかったですね。どうだろう、スタイルも大事だけれど、色の存在が大きいですね。色がないじぶんの作品は考えられないので。いま、初めてこういうことを考えさせられました(笑)。
オリバー:われわれの場合は逆で、最初にスタイルがあって、その後でカラーがついてきます。最初にボディやシートがあって、そこに色を着けますが、そのタイミングでスタイルを変更するわけにはいきませんから。
互いの原点トモ:洋服って、作ろうと思ったら今日とか明日にも作ることができて、クルマよりスピードが速いんですね。それにはいいところもあるんですけれど、最近は本当にスピードが速すぎて、じぶんはそこに疑問を感じています。だからこそ、毎回全然違うものを作るというよりは、自分が持っているテーマを進化させることで、こういうデザイナーもいるということを世の中に示すことができたらいいな、と思っています。
オリバー:トモさんにはじぶんが進むべき方向が見えていて、長く続いていく個性がそこにうまれると思います。
トモ:MINIも似ていますよね。スタイルを毎年少しずつ深化させて、時代に合わせつつもタイムレスな核みたいなものがある。じぶんもそういうもの、時を経ても美しさとか驚きを失わないものを作りたいと思っているんです。
オリバー:まさにおっしゃる通りだと思います。MINIのデザインチームも、新たなプロジェクトを立ち上げる時にはブランドというものを核にしながら前に進みます。ただしそれはループにはまるのではなく、ループから飛び出してジャンプすることがとても大事だと思っています。今日の社会のあり方や技術の進歩と歩調を合わせて、ベーシックを守りながら一歩飛び越えて先に行く。それが私たちのデザインへの取り組み方です。
トモ:やはり、立ち返るべきところがあるわけですね。
オリバー:ええ。さきほど、トモさんは子どもの頃に囲まれていた自然の色やアート作品に立ち返るとおっしゃっていましたが、ほかにもそういう場所はあるんですか?
トモ:ファッションの道を志したのが14歳のときで、クリスチャン・ディオールのオートクチュールを見て衝撃を受けたんです。コレクションのデベロップメントをしていると、混乱してわからなくなってしまうことがありますが、そんなときは、14歳のときに感動したものを見直して、感動を思い出して初心に戻っています。ファッション業界ではそういう時間を持つことが難しいので、意識して時間に余裕を持つようにしています。
オリバー:われわれも、MINIの新色をどうするかという課題と、未来を見据えたプロジェクトが同時に進行することがあって、でも未来のことなんてだれにもわからないじゃないですか。どこに向かっていけばいいのかわからなくこともあります。そんなときこそ、正しい道に進んでいると確認する時間が必要ですね。
トモ:確かに、どうすべきかを見失うことはあります。でも安全な道だけを行っても、チャレンジがないから成長しませんよね。だから失敗するということは挑戦している証拠だと思って、失敗してもあまり落ち込まず、次のことをやろうかなと思います。オリバーさんは、カーデザイナーを志した瞬間を覚えていますか?
オリバー:僕もトモさんと同じで13歳か14歳のときです。祖父母が農業を営んでいて、そこで使われていたトラクターなどの大きな機械に驚いたし、感動もしました。素晴らしいテクノロジーの集合体で、これこそが本物だと思ったことが私の原点で、あれから機械やクルマに興味を持つようになりました。トモさんがディオールのコレクションに感じた美というものとは違うと思いますが。
トモ:でも、多分ですけど、お互いに立ち返ることができる原点があるのは同じだと思いました。
オリバー:その通りで、私もチームのメンバーには常に、本物であることや、原点をしっかり忘れないでほしいということを伝えています。今日はお会いで、お話ができて大変よかったです。ありがとうございました。
プロフィール:小泉智貴1988年生まれ。千葉県出身。2011年、大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年初となるファッションショーをニューヨークで開催。2019年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年LVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。2021年毎日ファッション大賞を受賞。
プロフィール:オリバー・ハイルマー1975年生まれ。ドイツのミュンヘン出身。1996年にプフォルツ・ハイム大学のデザイン学部に入学、輸送機器デザインを専攻する。2000年にBMW AGに入社。アドバンスド・デザイン・チームやインテリア・デザイン部門で経験を積み、2017年9月よりMINIデザイン部門の責任者を務める。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)
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