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池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第19回:魅力的な“悪役”には実力派の流麗なクーペがよく似合う」

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池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第19回:魅力的な“悪役”には実力派の流麗なクーペがよく似合う」

世界で最も美しいクーペとして称賛されるBMW 3.0 CSL

週刊少年ジャンプの連載をきっかけに、空前のスーパーカーブームを巻き起こす起爆剤となった『サーキットの狼』。作中には世界を代表する数々の名車たちが登場し、主人公である“風吹裕矢”が駆るロータス・ヨーロッパと共に熱き戦いを繰り広げる。そんな物語の一役を担うクルマが“世界一美しいクーペ”と呼ばれた「BMW 3.0 CSL」であり、重要な登場人物として人気の高い“隼人ピーターソン”の愛車として大活躍を果たす。今回は作者である池沢早人師先生と共に同車の魅力に迫ってみたいと思う。

池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第19回:魅力的な“悪役”には実力派の流麗なクーペがよく似合う」

自動車に対する考え方を変えてくれた魅力的な1台

ボクが描いた『サーキットの狼』には、フェラーリやランボルギーニなどのイタリアンスーパーカーと共に、当時の西ドイツを代表するポルシェが大きな役割を果たしている。当時はエキサイティングなスタイルと最高速のスペックばかりがクローズアップされてしまい、実際にサーキットで走らせた時の総合性能やバランスに注目する人は少なかった。

正直な話、当初はボクもそのひとりで、実際に色々なクルマのステアリングを握るまではカタログに記載されている数字が大きな意味を持っていると思っていたからね。でも、クルマは「デザインや一部分の飛び抜けた数値だけで判断してはならない」と教えてくれた一台がBMWだった。今回クローズアップする3.0 CSLがその事実を証明してくれる代表的なクルマだと思う。

この3.0 CSシリーズは「世界で最も美しいクーペ」と称賛されるように、伸びやかなフロントノーズとフロントウインドウからルーフ、そしてテールエンドまで流れるようなラインが美しく、エレガントな印象を与えてくれる。当時のライバルとされていたイタリアンスーパーカーと比べると、派手さや斬新さはないけれど流麗さや気品と言う部分では突出していたと思う。

それだけに作中に3.0 CSLを登場させようと考えた時、このクルマに乗せるキャラクターは“隼人ピーターソン”だと思いついた。“隼人ピーターソン”の登場時の愛車であったトヨタ2000GTと同様に、繊細な美しさとを持つクルマとシンクロするキャラクターは彼しかいない。世界で一番美しいクーペと個性の強い悪役の“隼人ピーターソン”のコンビは物語にとって大きなアクセントになったと思う。日光レースでは“京極さくら”も3.0 CSLに乗せたけど、これも女性とクーペの一体感があってとても描きやすかった。

ボクにとってBMWというクルマは特別な存在だ。特に『サーキットの狼』を執筆していた当時はグループ5というカテゴリーがあって、3.0 CSLをシルエットフォーミュラと呼ばれるレーシーングスタイルに仕立てた姿はものすごくカッコ良かったのを今でも鮮明に記憶している。当時はポルシェ911が常勝マシンとして君臨していたんだけど、その牙城を崩すために登場したというストーリー性の高さもファンを熱狂させるスパイスになっていたよね。

この3.0 CSLはレース用のホモロゲーションモデルとしてドアにアルミ素材を使い、リヤスクリーンをアクリル製に変更するなど徹底した軽量化が施されていたのも男心を刺激するサプライズ。ちなみにCSLの「L」はドイツ語で軽量を意味する「Leicht」で、特別なライトウェイトバージョンってこと。この一文字に特別感があってファンを虜にした。

BMWというメーカーは、M1や現在のi8を除けば、快適性や運動性能を重視したバランスの良いクルマを生み出す質実剛健なゲルマン魂を持ち続けている。特にMシリーズと呼ばれるモデルは市販車と同じ姿を持ちながらも高い戦闘力が与えられ、ステアリングを握ってクルマを操る作業は抜群に楽しい。

それに“M”の称号を証明する赤、紺、青のラインがカッコイイよね。ここだけの話、このMラインが大のお気に入りで、自宅を建てる特に作った滝やガレージのシャッターにもこのMラインを入れたくらい。今は愛車としてBMW M4に乗っているんだけど、もちろんボディにはMラインを入れている。

「サーキットの狼ミュージアム」に展示されている3.0 CSLは、実際にドライブさせてもらったんだけど、これが意外とマイルド。エンジンは伝統のシルキーシックスが気持ち良く吹け上がり、イタリアンスーパーカーのような気難しさは全くない。エンジンをかけるために特別な儀式も必要ないし、クセのない扱い易い味付けは質実剛健なBMWの伝統だね。

シートだけは肉厚でソフト過ぎるのが気になったけど、このクルマにチューニングを施してグループ5で戦っていたと思うと、まさに“羊の皮をかぶった狼”だ。ホモロゲーションモデルであっても市販車として快適性を犠牲にしない所がBMWらしい。

スタイルの美しさは3.O CSをベースにしているだけあって世界中で称賛されている通りで文句の付けようのない流麗なデザイン。スラントしたノーズや流れるようなボディラインを見ていると、BMWはセダンではなくクーペのメーカーだってことを再認識させられる。それと、この時代のBMWはガラス面積が大きいのが特徴的でもある。

BMWからリリースされるモデルは決してスーパーカーではないけど、モータースポーツの世界ではポルシェと肩を並べる最強メーカーのひとつであることは間違いない。F1を始め当時のF2にもエンジンを供給していたし、1980年代から1990年代のスポーツカー選手権やグループAでも、M1、M6、M3が大活躍していた。

ボクがモータースポーツ好きだということもあるけど、BMWに対するリスペクトは大きい。今思えば、その気持ちが作中に“隼人ピーターソン”の愛車として描かせた理由なのかもしれないね。

BMW 3.0 CSL

GENROQ Web解説:勝つことを命題として生を受けた3.0CSL

BMWというメーカーが「Bayerishe Motoren Werke(バイエルン発動機製作会社)」の頭文字から取ったことを知る人は少ない。そんなBMWが1960年代の後半から1970年代にかけてリリースしたモデルがノイエクラッセと呼ばれるクーペモデルだ。

1500、1600、1800、2000系の4ドアモデルをベースにクーペボディを与えたクルマたちは時代と共にエンジンの大型化を求められ、4気筒エンジンよりも効率的にパワーを引き出せる6気筒エンジンを使用することとなる。

1971年にBMWは直列6気筒エンジンを搭載した2800 CSの後継モデルとして3.0 CSを発表。ビッグシックスと呼ばれる直列6気筒エンジンは2985ccの排気量を持ち、ゼニスストロンバーグ製のツインキャブを備えることで180hp/6000rpmの最高出力と26.0kgm/3700rpmの最大トルクを発生させた。

その後、ツインキャブレターからボッシュ製のDジェトロニックと呼ばれるインジェクション方式に変更すると共に、エンジンの圧縮比を従来の9.0から9.5へと引き上げ、210hp/6000rpm、27.2kgm/3500rpmへとスペックを向上した。

当時のBMWは2002がツーリングカー選手権で大きな成功を収め、そのスポーツイメージをさらに強化させるため6気筒エンジンでの参戦へと踏み切る。しかし、重量の増加に伴うパフォーマンスの低下は避けられず、苦肉の策として軽量化を施したモデルをホモロゲーション獲得のために市場へと投入。そのモデルが「BMW 3.0 CSL」であり、名前の最後に付けられた「L」の文字は軽量モデルである「Leicht」を意味する。

左右のドアには軽量なアルミ鋼板を使用し、アクリル製のリヤウインドウ、モーターレスのサイドウインドウなど徹底した軽量化を施し、セカンドバージョンでは1270kgとベースモデル比で130kgもの減量に成功している。

1971年にデリバリーされたファーストモデルはビッグシックスエンジンにツインキャブレターと4速MTが組み合わされ、最高速度は215km/hを計上。その翌年には排気量を3003ccへとアップさせたセカンドバージョンが登場。ボッシュ製のDジェトロニックを組み合わせることで最高出力200hp/5500rpm、最大トルク27.7kgm/4300rpmへと向上させた。撮影車両はこのセカンドバージョンとなる。

エクステリアにおいても3.0 CSとの差別化が図られ、大型のリップスポイラーやリヤスポイラーを装備。また、ボンネット上にはエアロダイナミズムを考慮したフィンが取り付けられている。1973年には第3世代へと進化を遂げ、排気量を3153ccまで拡大。最高出力206hp/5600rpm、最大トルク29.2kgm/4200rpmまで進化を果たした。

BMWのモータースポーツへの強い意志を表すホモロゲーションモデルとして誕生した3.0 CSL。“CSL”のネーミングはE46型M3で一時期復活して途切れたが、4シリーズでそのネーミングが復活するという噂もある。今後のBMWの動向に期待したい。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

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