チェーン/シャフト/ベルト、三者三様の進化
近年のモーターサイクルの後輪駆動方式には、
(1)ローラーチェーン+スプロケット式
(2)ドライブシャフト+ベベルギア式
(3)コグドベルト+プーリー式
の3種が存在する。
【画像16点】チェーン/シャフト/ベルト「駆動方式はどう進化した?」の画像集
そして昔から、伝達効率では(1)、静粛性や耐久性では(2)、(3)が優位というのが定説で、その事実に変化はないのだが。いずれの方式も時代を経るごとに、着実な進化を実現している。
高剛性化したローラーチェーン
ローラーチェーンの最も劇的な進化は、耐久性を高める手法として、ピンとブッシュの間に潤滑用グリスを封入する「Oリングチェーン」が、1970年代中盤に登場したことだろう。
とは言え、以後も世界中のメーカーが地道な開発を続けて来た結果、近年のローラーチェーンは1970年代とは比較にならない、抜群の耐久性と軽量&高剛性化を実現している。
あくまでも定期的な清掃・注油を行っている場合だと、ひと昔前のローラーチェーンが、1~2万km前後で適度な伸びなどが発生したのに対して、近年のアフターマーケットで販売されている高級品は、3万km以上保つケースも少なくないようだ。
乗りやすさを向上させたシャフトドライブ
シャフトドライブ特有のトルクリアクション(アクセルオンで車体後半が持ち上がり、アクセルオフで車体後半が沈む挙動)は、ミドルクラス以下の排気量&パワーなら、大きな問題にならない。
ただし、リッタークラスでは違和感が生じやすくなるので、それを緩和する機構として登場したのが、ファイナルギヤケースのフローティング。最も有名なのが、BMWが1987年型R100GSから導入を開始した「パラレバー」だろう。
ただし、イタリアのコンストラクターであるマーニは、1985年から自社の車両にトルクリアクションを緩和するパラレログラモを取り入れていたし、1990年代以降はモトグッツィやホンダ、カワサキなども、パラレバーと同様の機構を採用した。
もっとも大排気量シャフトドライブ車にとって、ファイナルギヤケースのフローティングはマストではなく、ホンダ・ゴールドウイングシリーズやヤマハ・FJR1300/XTZ1200スーパーテネレなどは、ファイナルギヤケースを固定式としている。
耐久性を上げたベルトドライブ
ハーレーが1982年型FXBスタージスで初めてベルトドライブを採用した際、ベルトの寿命はチェーンドライブと同等……と言われていた。
しかし、素材の進化によって耐久性が格段に向上した近年のドライブベルトは、5万km前後は余裕で、上手く使えば10万km以上保つこともあるらしい。
もちろん運が悪ければ、新車時や交換直後に異物のかみ込みなどでいきなり切れる可能性があるのだが、近年ではそういった機会は激減しているようだ。
なお、コグドベルト+プーリーの交換費用はローラーチェーン+スプロケットより高く、車種にもよるが一般的に7~15万円前後。
柔軟な姿勢で対応して来たBMWとヤマハ
駆動方式にこだわりを持っているバイクメーカーと言えば、1993年以降の全車にベルトドライブを採用しているハーレー、1980年代以降はクランク縦置きVツイン+シャフトドライブ車のみを販売しているモトグッツィが代表格である。
ただし逆の意味でのこだわり、時代に応じて多種多様な後輪駆動を取り入れて来たという見方なら、BMWとヤマハを二大巨頭と言うべきだろう。
水平対向+シャフトドライブだけじゃない? BMWの場合
BMWは1923年に第一号車のR32を発売し、以後は約70年に渡って縦置きクランク+シャフトドライブ専業メーカーとして活動してきた。が、1990年代以降は徐々にその姿勢に変化が見え始める。
1994年に横置きクランク単気筒+チェーンドライブのF650、2002年にはその派生機種としてベルトドライブのF650CSスカーバーを発売。2006年から展開が始まった並列2気筒のFシリーズではベルトとチェーンのふたつの駆動方式を採用していた。
そして近年になって登場したSシリーズとGシリーズは、全モデルでチェーンドライブが標準となっている。頑固一徹の感があったかつてBMWを振り返ると、ここまで駆動方式に柔軟な姿勢を示すというのは、なかなか予想外の展開だ。
かつてはシャフト、今はベルトを積極採用! ヤマハの場合
チェーンドライブを主力としながら、グランドツアラーやクルーザーなどにシャフトドライブを採用する──ヤマハのその姿勢は他の国産3メーカーと同様だが、1970年代後半~80年代前半は、フラッグシップのGX750やXS1100、スポーツモデルのXJ650/750、原動機付き自転車のタウンメイトT50/80やキャロットなどにも、シャフトドライブを導入していた。
もっとも1980年代中盤になると、同社のラインアップもチェーンドライブ車が主力になっていくのだが、21世紀に入って登場した全面新設計車、V-MAX1700やXTZ1200スーパーテネレがシャフトドライブを採用していたことを考えると、ヤマハはこの駆動方式に並々ならぬこだわりを持っているようだ。
なおクルーザーのパワーユニットを転用した1985年型V-MAXや2001年型BT1100、近年のグランドツアラーの基盤を作ったと言われている2001年型FJR1300も、駆動方式はシャフトドライブである。
一方で、もうひとつの後輪駆動方式であるベルトドライブに関しては、ヤマハは他の国産3メーカーより消極的で、一般的なモーターサイクルの初採用車は1999年に登場したXV1600ロードスターだった。
とは言え、以後は徐々に採用車が増えていき、近年ではXV1900/1700/1300シリーズ、ボルトを含めたXVS950シリーズ、T-MAX530などが、ベルトドライブを採用(2012年型以前のT-MAXはチェーンドライブ)。結果的に現在のヤマハは、ハーレー以外で最もベルトドライブ車が多いメーカーになっているのだ。
お試しで終わることが多かった(?)ベルトドライブ
ちなみに、1980年代以降のベルトドライブ車の歴史で興味深いのは、モノは試しという感じで導入したものの、やっぱり止めよう……という判断を下したメーカーが多いことである。具体的には、ホンダ(初採用車は1982年型250マスターS・D)、スズキ(1986年型LS650サベージで)、BMWなどがベルトドライブ車の継続を断念している。
ただしその一方で、カワサキはクルーザーのバルカンシリーズで、長きに渡ってベルトドライブを採用しているし(ただしバルカンシリーズには、チェーン/シャフトドライブ車も存在。なおカワサキ初のベルトドライブ車は1982年型Z250LTD)、創業当初からチェーンドライブ車のみを手がけて来たドゥカティは、2016年に発売したXディアベルで、同社初のベルトドライブを導入している。
文●中村友彦 取材協力●江沼チェーン製作所
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みんなのコメント
汎用性の低さがコストに影響するのかもしれないが、軽くて、伸びにくくて、汚れにくくて、静かでイイと思うんだけどねえ〜
駆動方法変えると構造変更しなきゃなんですよねぇ。二次動力伝達機構が何とか…