ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。ドライバーなど、目につきやすい職種以外にも、陽の目を浴びない裏方としてモータースポーツを支えている人たちが大勢いる。そこで、この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していく。
第7回目はモータースポーツのテレビ中継に欠かせないピットレポーターに注目。スーパーGTオフィシャルピットレポーターとして、セッション中にピットを駆け巡り、映像だけではわからないチームやマシンの情報を届ける役割を、2019年シーズンより担う竹内紫麻さんに話を聞いた。
「つらいことなんてないです!」愛されキャラはいつも充実。【サーキットのお仕事紹介】
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モータースポーツのレース中継は、実況席で実況や解説を務める方、ピット内でレポーターとして活動する方をはじめ、中継に映る仕事や裏方も含めた様々なスタッフの働きにより番組が進行している。
そのなかで、スーパーGTの中継にもピットレポーターが置かれ、J SPORTSの中継に今シーズンから竹内紫麻さんがオフィシャルピットレポーターに就任。まずはピットレポーターの役割について尋ねた。
「ピットで予選や決勝レース中に(チーム関係者に)インタビューをします。実況席に呼びかけて、ピット作業やタイヤ交換など、ピットでしかわからない出来事を伝えるお仕事です」
「(セッション以外では)ピットで関係者にお話を伺い、自分で取材をしています。メディアセンターにも行き情報を集め、インタビューに向けてどういうことを聞くか、どこがポイントになるかを自分なりにまとめています」
ほかに、竹内さんは『GTV2019 ~SUPER GT トークバラエティ~』で番組アシスタントを務めている。現在は、フリーアナウンサーやキャスターとしても活躍しており「(スポーツの)生中継はスーパーGTが初めてですが、中継以外だと競馬のレポーターをしていて、レース前のトレーニングセンターの練習の模様をレポートする仕事をしたことがあります。競馬以外にもKuroOviという番組など、スポーツ番組は何度か経験しています」と語った。
そもそもピットレポーターを務めるには、レースの知識や専門用語などを理解しておく必要があるが、2019年シーズンの開幕戦で初めてサーキットに足を踏み入れたという竹内さんは、どのように仕事に慣れていったのだろうか。
「昨年末にピットレポーターの就任が決まりました。そこから(レースの)勉強をはじめ、勉強会を開いてもらったりもしました。過去の映像を観て自分なりに勉強はしましたが、実際サーキットに来てみないとわからないところもあり、現場に来てから本格的に勉強がスタートしたという感じですね」
「開幕戦から比べると慣れましたが、まだ慣れたという感じではありません。専門用語が満載なスポーツだから奥が深すぎるし、今でも勉強をしています」
「レースを扱うウェブサイトも見ますし、高橋二朗さんに聞いたり、プロデューサー、ディレクターに聞くこともあります。あとは当事者であるドライバー、監督に話を聞きに行くとすごくわかりやすかったりします」
そう語る竹内さんは、慣れていない前半戦のうちはピットでの立ち回りがわからず苦労を重ねたという。
「ピットにいるスタッフや関係者もわからず、どのチームのピットにいればいいか、どのタイミングで誰に話を聞けばいいか、何をレポートすればいいかなど、正直まったくわからなかったので相当苦労しました」
「見当違いな人に話を聞いた経験もあり、タイヤメーカーの方にマシンの状況や戦略を聞いてしまったことがあります。本当に誰にインタビューすればいいかわからず、コミュニケーションのミスが多発していましたが、だんだん誰がどのポジションに就いているかわかってきたので話は聞きやすくなっています」
「チーム関係者と顔見知りになって話をするようになり、ピットに行くとレース中でも状況を教えてくれるし、マシンに不具合が起きた時も教えて頂けるようになりました」
プレッシャーがかかる現場で経験を積み、楽しめるようになるまで時間を要したという竹内さん。苦労した経験とは反対に、嬉しかったことを聞くと、「優勝インタビューをした後に、勝ったチームの関係者の方たちが『ありがとう』、『またいつでもピットに寄ってね』と言いにきてくださったことです。一緒に喜びを分かち合えたと思ってもらえたんだなというのがすごく嬉しかったです」と語った。
「人との繋がりが増えてくるとチームの事情もわかってくるので、優勝は自分も喜べるしすごく楽しくなってきました」
「レースは本当に面白いです。展開が変わるのはすごく早いし、レース時間は長いですが、その間にいろいろな展開があるので、ずっと観ていないとわからなくなります。最初から最後まで集中して観なければいけませんが、その分最初から最後まで興奮して楽しめます」
「でも、レースを楽しむという前にプレッシャーがすごいので、楽しめるようになるまで時間がかかったと思います」
多くのスーパーGTファンが観ている中継で、ピットレポーターを担当することは相当なプレッシャーがかかることがわかった。では、竹内さんにとって、そんなプレッシャーがかかる状況のレースの世界のピットレポーターという役割を担うにあたって、もっとも大切なことはなにか。竹内さんは、この仕事に必要なスキルとして「コミュニケーション能力」を挙げた。
「自分だけでは何が起きているのか把握できないことがすごく多いです。新しくレポーターを始める時は、基本的にみんな周りの人たちに状況を確認しないといけません」
「実際にトラブルが起きた時、どのようなトラブルかを確認してから放送席に呼びかけなければならないので、周りの人たちに聞ける環境を自分で作っていける力があった方がいいですね。それがないと厳しいし一番大事なことだと思います」
■ピットレポーターに要求される能力
では、どのような経緯でスーパーGTオフィシャルピットレポーターが決まるのだろうか。これまで数年に一度、女性のピットレポーターを目指す人向けに、オーディションの開催があり1名が選ばれてきた。
もともとスポーツが好きでレースにも興味があったという竹内さんは、ピットレポーターのオーディションを受けるのは実は2回目。昨年末のオーディションにも志願しこのポジションを勝ち取った。
「スポーツは基本的に好きなのでオーディションの話をいただいたときに受けたいなと思いました。5年前のオーディションも受けていて、実はこれが2回目でした。ですが2回目で受かるとも思っていませんでした」
上述の通りキャスターとしても活躍する竹内さんは、もちろんピットレポーターのような仕事に就いた経験は今回が初めて。この仕事に就くためには、アナウンサーになればいいわけでもなく、モータースポーツのジャーナリストになればいいわけでもないという。
どういう人にピットレポーターという仕事が向いているかというと、竹内さん曰く「相当タフな人。精神面が強い人じゃないとキツいかもしれません。我こそは、というメンタルが強い人がいれば」だそうだ。
そこで、J SPORTSのスーパーGT中継で番組プロデューサーを務める三原弘さんに、女性のピットレポーターの必要性と求める能力や採用に至る条件を聞いた。
「国際化が進んでいるため、英語ができることがピットレポーターになる最低条件です。女性のピットレポーターは、ある程度の若さが必要だという認識で僕たちは選んでいます。相方が二朗さんというのもひとつの理由としてありますけどね」
「長期間やってもいいのですが、普通の人も(レースを)楽しむためのポジションですから。マニアックな内容は他の人がやればよくて、竹内さんのポジションは新鮮な目線を保ち続けるために必要だと思っています。そうではないこともたくさん要求されますが、フレッシュな人を起用するということは、そういう目的でもあります」
ピットレポーターの様々な業務を紹介してきたが、気になる報酬は、「しっかりといただいています。感謝しています(笑)」と竹内さんはいう。ただ、競馬関連でも仕事をしているため「競馬は番組よりイベントの方がすごく高いんですよ」と明かしてくれた。
また、J SPORTSの番組に出演することで、別カテゴリーのレースの取材や、クルマの展示会やイベントの仕事の依頼が増えるため、それに応じて報酬を得る機会も増えていくという。
日本国内のモータースポーツにおいて高い人気を誇るスーパーGTのピットレポーターを務め上げることは、並大抵のことではないことが竹内さんから伝わってきた。「タフで精神面が強い人」が適任だと語るように、ひとりしかいない日本代表のモータースポーツ女性レポーターを成し遂げることは、特殊であり厳しい仕事だろう。
そんななかで努力を惜しまず、勉強を重ね経験を積み、予選やレースにおいて重要な要素となるピット内での情報を伝えてくれるピットレポーターにも注目してみてほしい。
12月28日(土)午後9時30分~午後11時30分には、J SPORTS 3/J SPORTSオンデマンドで“激動の2019シーズンを振り返る! 今だから語れる熾烈なレースの舞台裏とは!?”と題される『SUPER GT 2019 総集編』が放送される。
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