BMW M8の中での正解
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
英国の道を初めて走らせた筆者は、このM8コンペティションこそ、正解のM8だと感じた。4ドアの8シリーズ・グランクーペと比べれば、ひと回り小さく軽量。コンバーチブルよりボディもしっかりしている。
大きなクーペは、ドアが2枚多いBMW M5と多くの点を共有する。搭載するエンジンは624psを発生させる4.4LのV8ツインターボで、四輪駆動。後輪駆動として走ることもできる。良い設定だ。
BMW製の大型モデルで共通するプラットフォームは、5シリーズと7シリーズ、8シリーズを支える。M8クーペは、M5よりホイールベースが短い。車高は10mm低く、1885kgという車重を支えるため、サスペンションは引き締められている。
リアトレッドは38mm広く、サブフレームはボディシェルへしっかり固定されている。ボディ剛性はかなり高い。スーパーGTと呼ぶに相応しい内容だといえる。しかも、過去最速のBMWであるという事実に違わない、価格が付く。
ライバルの数は少なくない。ポルシェ911にベントレー・コンチネンタルGT、メルセデスAMG GTとアウディR8。マクラーレンGTとも対峙することになる。
シートレイアウトは2+2。つまり1台で多くをこなせる。週末はサーキットへ行くことも含めて、日常的に楽しめるよう設計されたクルマだ。英国以外では、コンペティション仕様ではない、マイルドなM8も購入できる。
圧倒されるような走行性能
0-100km/h加速は3.2秒。最高速度は305km/h。オプションでカーボン・セラミックブレーキも選べる。
M8のインテリアは、徹底的に作り込まれている。とてもプレミアムで居心地が良い。
ドライビングモードの設定項目は多すぎて、少し困ってしまうかもしれない。BMWとメルセデスAMGとで、車内で悩ましい思いをさせるのはどちらか競っているのでは、と疑うほど。
ボタン類で賑やかなステアリングホイールには、好みのドライビングモードを設定できる、赤いMボタンが2つ付いている。少し親しみやすい。
恐らく数週間ほど走り込めば、好みのドライビングモードが見えてくる。1つは基本設定を、もう一つは高速走行設定を、任意に選んで登録できるようになるはず。
大柄なボディを持つM8だが、スーパーGTと呼ばれるようなモデルの中では、より走りの印象が強い。最高出力は625ps/6000rpmだが、1800rpmから5800rpmにかけて、76.3kg-mという太い最大トルクを一定に供給してくれる。
テストコースでは、圧倒されるような走行性能を楽しめた。0-100km/h加速の数字ほど、凄まじい獰猛さは感じられなかったが、柔らかく増強させていくようなパフォーマンスの振る舞いがあるためだろう。
グリップ力は秀抜。テールスライドが始まっても、そこから簡単にまっすぐ加速させていく四輪駆動らしい安定性も備えている。後輪駆動モードにすれば、短時間でリアタイヤを駄目にするだけの自由度も残されている。
速度域が上がるほど個性が見えにくい
一般道でのM8は、快適な相棒になってくれる。多くのライバルと違って、リアシートには大人2人が座れる空間があり、荷室も充分に大きい。ただリアシートは、911より不満が少ないとはいえ、長時間のドライブは断られるかもしれない。
パッケージングは実用的でも、M8コンペティションの場合、最高のGTと呼べるほどの乗り心地は得られていない。911の方が車内は狭く、うるさくても、乗り心地の心地では上だと思う。
ただし、より機敏で落ち着いたドライビングは楽しめる。BMWが優れた乗り心地というアドバンテージを持たなくても、許せるかもしれない。
日常的に運転するクルマとしてなら、穏やかな8シリーズ・クーペの850iの方が快適に付き合えるだろう。乗り心地も良く、ドライビングの楽しさも残した、より良いグランドツアラーだといえる。
速度域が上がるほど、M8コンペティションは、ライバルとの差別化で有利に立ちにくいことが見えてくる。ポルシェ911並みの操舵感や、アウディR8に並ぶ俊敏性、メルセデスAMG GTのマッスルカー級の個性などと比べると、満たしてくれる要素が少々薄い。
BMW M8コンペティション単体で乗れば、とても好きになれるクルマではある。だが比較したうえで自分が手に入れるのなら、別のモデルを選ぶかもしれない。
BMW M8コンペティション・クーペ(英国仕様)のスペック
価格:12万3435ポンド(1666万円)
全長:4851mm
全幅:1902mm
全高:1346mm
最高速度:249km/h(リミッター/解除時は305km/h)
0-100km/h加速:3.2秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:242g/km
乾燥重量:1885kg
パワートレイン:V型8気筒4395ccツインターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:624ps/6000rpm
最大トルク:76.3kg-m/1800-5800rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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