この記事は2019年11月に有料配信したものを無料公開したものです。
フィアット、、クライスラー、ジープなどの合計13ブランドを持つFCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)と、プジョー、シトロエン、DS、オペル、ボグゾールのブランドを展開するPSAグループが、2019年10月31日に企業統合に向けて踏み出したことを発表し、世界の自動車業界に激震が走った
スバル「XV」を大幅改良 エクステリアをフェイスリフト D-タイプ
2020年7月15日新会社名は「ステランティス」と発表された。
FCAのルノー・グループに対するプロポーズ
FCAは2019年5月にルノー・グループに対して、グローバル・オートモビル・グループを構築するための経営統合というプロポーズを送った。このプロポーズにドミニク・スナール会長を筆頭にルノー・グループは大いに前向きであった。
ルノー・グループは6月5日、6日と2日間にわたって取締役会を開き、FCAの提案を検討した。そこでは、ルノー取締役会は統合を承認する方向であったが取締役会メンバーのフランス政府側メンバーが統合の決定を延期するよう主張したため、取締役会として決定は行なわれなかった。取締役会はこの提案を引き続き「関心を持って」検討するとコメントを出している。
しかしこの統合案は突然の幕切れとなった。取締役会翌日の6月7日、FCAはルノー・グループに対する経営統合案を取り下げると発表したのだ。「今回の経営統合案は、極めて重要で、両社に変革をもたらす案であり、多くの関係者にメリットをもたらすものであると信じているが、フランスでの政治的条件がこの提案を実現できる状況にないことが明らかになった」として取り下げたのだ。
つまりこの統合案にフランス政府が過剰に介入することが判明した、と感じられFCAは統合案をあきらめた。このFCAの迅速な行動を指揮していたのはFCAを支配するアニエッリ一族のジョン・エルカンFCA会長だ。
FCAはフィアット総創業家のアニエッリ一族の持株会社により支配されているが、そのアニエッリー家の娘婿で若くしてリーダー(34歳でフィアット社の会長に就任)に指名されたのがジョン・エルカン会長なのだ。エルカンとFCAグループのマイケル・マンリーCEOがタッグを組んで生き残りを賭けた企業統合を目指している。
FCAの最初のターゲットはPSAだった
実はFCAがルノー・グループに統合案をもちかける前に、PSAグループに統合を打診していたのが定説になっている。
FCAグループは北米でのジープやラム・ブランドが好調で増収増益を記録している一方で、ヨーロッパ市場では本家のフィアット・ブランドのA/Bセグメントは依然として苦戦している。そのため、FCAはフィアット・ブランドでニューモデル攻勢をかけるとはしているものの、体質的にはアメリカ市場で利益を生み出す1本足打法となっていることは間違いない。
こうした背景もあり、グローバル自動車メーカーとして基盤を強化するためにはヨーロッパにおける車両ラインアップの再構築が求められており、FCA経営陣は2019年初頭に、他の自動車メーカーとの提携について今後FCAが積極的な役割を果たすチャンスが巡ってくるだろうと予言している。
最初に着目したのが、プジョー、シトロエン、DSというブランド戦略と独自性のある新型車の開発で見事な復活を遂げたPSAグループだった。
PSAグループはプジョーの創業家一族とフランス政府が大株主となっている。FCAからの経営統合案に対してPSAグループのカルロス・タバレスCEOは前向きだったといわれるが、グループ全体での意思統一が遅かったこともあり、FCAのジョン・エルカン氏はルノー・グループにターゲットを変えたのだった。ルノー/日産/三菱アライアンスの規模を考えると、統合により世界No1の規模となり、より大きなスケールメリットが得られると考えたと推測できる。
だが、ルノー・グループとの経営統合から手を引いたFCAのジョン・エルカンは再びPSAグループに接近したわけである。
ちなみにルノー・グループの2018年通期の業績は、売上高は574億1900万ユーロ(約7兆1700億円)で前年比2.3%減、純利益は33億0200万ユーロ(約4300億円)であったが、PSAグループの2018年の通期(1~12月)決算では、グループ全体の売上高は740億2700万ユーロ(約9兆3000億円)でルノーを上回っており、前年比18.9%増と2年連続の伸びとなった。また純利益は32億9500万ユーロ(約4100億円)で前年比40.4%増と大幅な増益で、4期連続の好調を維持している。
PSAグループの世界販売台数(ノックダウン生産を含む)は387万7765台で、前年比は6.8%増と、5年連続で前年実績を上回っている。特に好調なのがヨーロッパ市場で、販売台数は前年比30.6%増の310万6160台で、プジョー、シトロエンの新世代モデル群とオペルが好調を支えている。
一方、FCAの2018年通期(1~12月)の決算は、売上高は1154億1000万ユーロ(約14兆円)で、前年比4%増となり、純利益は36億3200万ユーロ(約4400億円)で前年比3%の増益であった。増収増益の背景には、アメリカ市場で利益率の高いジープ・ブランド、ラム・ブランドのピックアップトラックが好調を牽引している。FCAとして、このタイミングでヨーロッパの自動車メーカーと手を組むのがベストなタイミングと考えているのだ。
FCAとPSAの経営統合計画
発表されたプレスリリースでは、「双方の討議の結果、株式割合としてグループPSA:50%、FCA:50%の世界的規模の新たなグループの創設に向けて道が開けました。急速に変化する環境の下、モビリティにおいてはコネクテッド、電動化、シェアード、自動運転など新たな挑戦が山積しており、2社が統合されれば、革新技術の揺籃と挑戦に対し速やかに資本効率高く対応すべく、両社は強みを生かしつつ世界中に有する研究開発体制やエコシステムを活用していくことになります」としている。
具体的には、両グループが統合することで、年間販売台数において世界第4位、870万台規模の世界的な自動車グループが誕生することになる。世界第4位とはGMを上回る規模で、フォルクスワーゲン・グループ、ルノー/日産/三菱アライアンス、トヨタに迫るポジションとなる。
新会社の発足により、FCAが強い北米、ラテンアメリカ市場、PSAグループが強いヨーロッパ市場において、高い収益を狙うことができ、相互補完関係となる。
また両社の組み合わせにより、ラグジュアリー、プレミアム、小型乗用車、SUV、トラック、軽商用車市場にそれぞれ強いブランドをグループとしてラインアップすることができ、その相乗効果でブランド力を強化することができる。
持続可能なモビリティ新時代に必須な技術、すなわちパワートレーンの電動化や自動運転、デジタルなコネクティビティに関して、両社は幅広く、かつ最先端の能力が集結されると同時に、スケールメリットを得ることができることはいうまでもない。
さらに両グループの現存工場の閉鎖はなく、プラットフォーム、パワートレーンの共用化、共同購買などのシナジー効果は年間約37億ユーロ(4500億円)に上る。
そしてオランダに創設される親会社の取締役会は、双方のバランスの取れた構成となり、独立した取締役が過半数を占める。予定される会長はFCAのジョン・エルカン、PSAのカルロス・タバレスが取締役としてCEOを務める、FCA側は5名、PSA側が5名の取締役を推薦するとしている。
また、エクソール(アニエッリ家の資産管理会社)、フランス公的投資銀行、フランス金融会社(Participations SA )、東風汽車(PSAの大株主)、プジョー家所有の株式については、統合後7年間は据え置かれる。
現在の統合案によれば、年間販売台数において世界第4位の世界的自動車メーカー連合となり、FCAが大株主のマニエッティ・マレリ社、PSAが大株主のフォルシア社を除く2018年実績を単純に合計する試算ベースで、1700億ユーロ(20兆5000億円)近くの連結売上高(注:マニエッティ・マレリを除くFCAの純売上高とフォルシアの第三者に対する売上高を除くグループPSAの売上高の合計)、110億ユーロ(1兆3200億円)を超える営業利益(注:マニエッティ・マレリを除くFCAの支払金利前税引前利益と、フォルシアを除くグループPSAの通常営業利益の合計)となる見込みだ。
また、世界最大の中国市場においてはFCAは15万台、PSAは25万台レベルの現状だが、今後はプラットフォームやハイブリッド技術、EV技術の共通化などにより中国市場へ強力にテコ入れを図ることも予想されている。
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みんなのコメント
高級車とハイパフォーマンカー…平たくスーパーカー部門
F-1でマクラーレンを取り込む動きしたのはグループにマクラーレンカーズも取り込みたかったのかな?
フランス政府のちからで高級車のランチアをルノーグループに分けてあげたら?
フィアットは高級車部門、持て余してるし…