19年ぶりにWRC世界ラリー選手権として開催されたサファリ・ラリー・ケニアで、トヨタWRC育成ドライバーの勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が総合2位に入り、WRCでの自身初の表彰台フィニッシュとなった。
今季の勝田は開幕から3戦連続で6位に入り、直近2戦ではキャリアベストの4位を獲得。それでも、自分の力を出し切れなかったと勝田は不満そうだった。
勝田貴元、伝統のサファリ・ラリーで2位の快挙! 日本人WRC表彰台は27年ぶり
今回はヒュンダイ勢に不運が重なったとはいえ、世界王者のセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)と最後まで優勝を争っての2位表彰台。幸運にもラリー直後に話を聞く時間をもらえて、さすがに満足感もあるだろうと思って聞いてみたのだが、その反応は意外なものだった。
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──総合2位おめでとうございます。初表彰台はもちろんうれしかったですよね?
勝田貴元(以下、勝田):まわりの方々が喜んでくれているので、実感が湧いてきました。ただ、優勝が近いところにあったので、うれしさよりも、まだ足りないなという悔しい気持ちのほうが強かったです。
──なぜですか?
勝田:最終日の路面に合っているソフトタイヤのうち、使えるものが2本しか残っていなくて、4本のハードタイヤと組み合わせて使うしかなかったんです。結果的にほとんどのステージをフルハードで走りましたが、(セバスチャン)オジエ選手はソフトを6本残していました。
途中までは何とか食らいついていけましたが、最後はやはり厳しかったですね。自分としては最終日までタイヤをかなりセーブして走っていたつもりで、摩耗の状態のいいソフトを8本残していたんです。
──なぜ使わなかったのですか?
勝田:タイヤの山はたくさん残っていましたが、そのうち6本に切れ目が入っているなどのダメージがあり、ピレリから『リスクが大きいから使わないでほしい』と言われたんです。きっとオジエ選手はタイヤが切れやすいところを分かっていて、そこではスライドをさせない走りをしているような気がします。
そういう総合力の違いがタイヤの状態にも表れ、最終日にアタックできるかできないかの大きなポイントになりました。オジエ選手のそういったところをすごく尊敬していますし、自分にはまだ足りていない部分だと思います。
──それで最終日はタイム差が大きくついてしまったと。
勝田:自分がオジエ選手よりも不利なタイヤしか持っていなかったので、無理なことはやめようと考えました。
──表彰式では、そのオジエ選手と、元チームメイトのオット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)に挟まれながら、背中にシャンパンの瓶を突っ込まれました。
勝田:すごく冷たかった(笑)。彼らと一緒に表彰台に立てたことはすごくうれしいです。オット(タナク)さんはいまでもすごく仲良くしてくれていますし、いまはオジエ選手が本当に良くしてくれています。
オジエ選手は順位を争っていたにもかかわらず、ラリー中も『あのコーナーはショートカットできるよ。あそこは岩があるから絶対にカットしちゃダメ』などと教えてくれていました。トヨタのドライバーは全員が情報をシェアしていて、もちろんライバル関係ではありますが、雰囲気はとてもいいです。
■突然の大雨に「あんなに恐ろしい気持ちになったことは初めて」
──オジエ選手とは今回もポルトガルの表彰台争いのときと同じように順位を競った。
勝田:楽しかったですし、オジエ選手も喜んでくれていました。今回は同じステージでベストタイムを分け合ったり、最終日は総合でも同タイムで並んだりなど、ポルトガルでのこともあり、『いろいろ縁があるのかもね』とオジエ選手と話していました。
──初めてのサファリ・ラリー出場でしたが、どのようなラリーでしたか?
勝田:かなりハイスピードな道の途中にクルマが壊れてしまうような、ものすごくラフなセクションもあり、少し気をつけて走ると、ひとつのコーナーだけで大きく遅れてしまう。そういうところが何カ所もあるところが難しいラリーでした。
そのコーナーの後に500mくらいの直線があり、たとえばひとつのコーナーで10km/h落とすと、それが次の直線でそれが大きく響き、1カ所で簡単に5秒くらい遅れてしまう。だからみんな、スピードを落としたくても落とせず、サスペンションが壊れたりしたのだと思います。
──そのあたり、勝田選手はリスクマネジメントがうまくできていたのも2位につながったのだと思いますが、危うい場面はなかったのですか?
勝田:デイ3最後のSSの途中で突然大雨が降ってきたんですが、ラリーカーを運転していて、あんなに恐ろしい気持ちになったことは初めてというくらい、とんでもないコンディションでした。ワイパーを使っても前が何も見えない。
180km/hくらいで水たまりに突っ込み、どう動くか分からない状態で対処しなくてはならず、そういう状況でクルマにダメージを負い、タイムをロスしてしまいました。最後まで走り切れて良かったです。
──具体的にはどのような?
勝田:リヤのアームが壊れてキャンバーが大きくついてしまい、フラフラでした。最初は路面コンディションが悪くてそうなっているのかと思いましたが、コンディションが良くなってからも同じ感じだったので、これはマズいなと。何かに当たったのではなく、おそらく路面のバンプの衝撃だと思います。
──路面が荒れているのに、スピードが高いのがサファリの難しさですね。
勝田:僕の予想ですけど、昔は距離が長かったし、スピードを落とすラリーだったと思います。でも、いまはスピードラリーなので、とにかくタイムを出さないといけない。でも、生き残らなければならない。そのバランスの見つけ方が難しかったです。手応えもすごく感じはしましたが、自分が成長しなければならない部分も多く見えたラリーでした。
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2位表彰台という結果を素直に喜べないというのは、勝田が大きく成長した証。彼が得意とするエストニア、そしてフィンランドでの戦いもおおいに期待できそうだ。
※このインタビューは本誌『オートスポーツ』No.1556(2021年7月2日発売号)からの転載です。
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