4月5日に世界初公開されたトヨタ新型「86」。そのネーミングのきっかけとなったのがカローラレビン/スプリンタートレノの4世代目となるモデルの型式名称「AE86」だ。
2021年4月5日に世界初公開されたトヨタ新型86。トヨタ86はAE86をイメージして「運転する楽しさと所有する喜び」をコンセプトに2012年に登場した
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そのAE86はマンガ「頭文字(イニシャル)D」などのブームもあってFRライトウェイトスポーツの名車となっているが、その高評価ぶりは絶版となった後の話。新車で発売された当初、AE86はどのように評価されていたのか?
トヨタ86の元祖、AE86型レビン/トレノの新車時代の本当の実力についてモータージャーナリストの片岡英明氏が振り返る。
文/片岡英明 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】カローラレビン/スプリンタートレノ!! 86づくしの写真をチェック!!
■FRを守り通して伝説を多く生み出したAE86
排ガス対策が一段落した1980年代は、技術革新に驚かされた10年だ。パワーユニットはターボチャージャーの助けを借りてパワーとトルクを大幅に増強したし、DOHCエンジンも4バルブ方式の新世代ユニットになっている。
軽自動車やコンパクトカーは相次いでFF方式を採用し、その潮流はミドルクラスにまで及んだ。ホットハッチやボーイズレーサーのほとんどはFF車である。
だが、カローラとスプリンターのスポーツモデルとして送り出されたレビンとトレノは、第4世代になっても後輪駆動のFRにこだわり続けた。1983年5月のモデルチェンジを機に、ファミリー系のセダンなどはFFに転換している。
が、走りの楽しさにこだわるAE86レビン/トレノは、時流に抗ってFRを守り通したのだ。21世紀になってトヨタが「86」のネーミングを復活させたことからわかるように、AE86レビン/トレノは革新的なFRライトウェイトスポーツクーペだった。伝説を多く生み出している。
■もっともスパルタンなグレードは3ドアクーペに設定されたGTV
AE86レビン/トレノは、それまでのレビン/トレノとは大きく違う。パワーユニットは新世代のテンロク(1.6L)DOHCだ。それまでは2バルブの2T-G型直列4気筒DOHCエンジンを積んでいた。
が、AE86の型式を持つ第4世代のレビンとトレノはレーザーαツインカム16バルブと名付けられた4A-GEU型直列4気筒DOHC4バルブを搭載する。吸気側にT-VISを採用し、電子制御燃料噴射装置EFI-Dで武装した。総排気量は1587ccだ。
4A-GEエンジンは1983年にAE86でデビューし、最終的には1995年のAE111で165ps/7800rpm、16.5kgm/5600rpmと熟成・進化しつづけた
オーバースクエア設計の4A-GEU型は、軽量設計が売りだった。2T-GEU型の整備重量は146kgだが、4A-GEU型は20kg以上も軽い123kgだったのである。もちろん、パフォーマンスも大きく向上していた。
グロス表示で最高出力は130ps/6600rpm、最大トルクも15.2kgm/5200rpmを発生する。トランスミッションはクロスレシオの5速MTと電子制御4速ATを設定した。
ボディタイプは、3ドアのハッチバッククーペと2ドアのノッチバッククーペを設定する。トレノは格納式のリトラクタブルヘッドライトを採用した。フラッグシップは、快適装備を充実させたGTアペックスだ。
スプリンタートレノ 3ドア GTアペックス
カローラレビン 2ドアクーペ GTアペックス
もっともスパルタンなグレードは3ドアクーペに設定されたGTVで、ステアリングギアとサスペンションがハード仕様になっている。パワーアシストのない重いステアリングだが、ラック&ピニオンのステアリングギアは16.8対1とクイックな味付けとした。ロック・トゥ・ロックはGTアペックスが3.2回転であるのに対し、3回転だ。
カローラレビン 3ドア GTV
サスペンションは、フロントが改良型のストラット、リアはラテラルロッド付き4リンクに進化したリジッドアクスルである。GTVのサスペンションはほかのグレードより引き締められていた。タイヤはほかのグレードが13インチの70タイヤ(185/70HR13)であるのに対し185/60HR14を履いている。
■デビュー当初はジャーナリストなどの評価は高くなかった
デビュー時に、最も高く評価されたのはパワーユニットだ。縦置きにマウントされた4A-GEU型エンジンは、クラス最強スペックだった。レスポンスは鋭く、アクセルを踏み込むとリミッターの作動する7800回転まで軽やかに回り切る。
3速まではクロスしているから、油断するとタコメーターの針は8000回転まで飛び込んでしまう。高回転は気持ちいいが、低回転域のトルクは細い。だから自然と高回転まで引っ張ってシフトアップするようになる。
少年向けの漫画雑誌に連載した「頭文字(イニシャル)D」で主人公が操ったのがAE86トレノだ。群馬の峠道で痛快なドリフト走りを見せ、走り屋たちを魅了した。この刺激的なドリフト走りが伝説になっていく。
白黒パンダトレノは漫画とアニメでいっきに有名になった。(写真はカローラレビンGTアペックス)
だが、デビューした直後は、ジャーナリストやレーシングドライバーからそれほど高く評価されていなかったのである。販売もそれなりの台数にとどまり、大ブレイクという訳ではなかった。評価が高まるのは、あの「頭文字D」がヒットしてからだ。底値だった中古車価格も一気に高騰している。
■お世辞にもハンドリングのいいクルマではなかった
確かにFRならではの振り回すドライビングは楽しかった。だが、限界域での挙動はピーキーで、一気にリアが流れるからスリリングだったのである。とくに気を使ったのは60タイヤを履き、サスペンションをハードに締め上げたGTVだ。
前後の操舵バランスが悪く、限界付近ではアンダーステアが強く、ノーズをイン側に向けるのに苦労させられる。そして限界を超えた時のコントロール性にも難があり、一気にリバースステアへと転じてしまうのだ。
テクニックのあるドライバーなら、アンダーステアからオーバーステア方向にコントロールし、豪快なドリフト走行も引き出せる。だが、中途半端なドライビングだとなかなかスリリングだ。
バランス感覚がよく、コントロールしやすいのは、70タイヤのほうである。速いスピードでコーナリングした時に頑固なアンダーステアに悩まされないし、コントロールできる領域も広い。だが、リアサスペンションはラテラルロッド付きの4リンクだから、右コーナーと左コーナーではクルマの動きやロール量が異なる。
ドライビングテクニックを磨くなら、このレビン/トレノの後に登場したS13シルビアのほうがずっと好印象だった。ハンドリングは軽やかで、狙ったラインに乗せやすい。また、限界付近でもリアが破綻しないし、ドリフトアングルを維持するのもたやすかった。
だが、AE86レビン/トレノは920kg前後と軽量だから振り回して乗ると楽しい。この軽さは今のスポーツモデルには望めない魅力で、大きな武器になる。今はチューニングパーツが数多く用意されているから、自分好みのライトウエイトスポーツに仕立てることが可能だ。
最新の技術を用いてチューニングすれば、不安なく豪快な攻めの走りを楽しめる。自分好みに仕上げて乗れば、一生の良きパートナーになってくれるだろう。
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