マッスルからエコロジーへの転換
環境規制に対する自動車業界の反応はまちまちだが、必ずしも歓迎ムードというわけではないだろう。反発するメーカーの声を聞いていると、1970年代初頭の米国のことを思い出す。
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戦後、米国市民は大都市を覆うスモッグなどから環境問題を強く意識するようになり、1968年の大統領選挙ではそこが重要な争点となった。
勝利した共和党のリチャード・ニクソンは1970年の一般教書演説でこう述べた。「自動車は大気汚染の最大の原因である。適切な制御には、エンジン設計と燃料組成のさらなる進歩が必要だ。我々は研究を強化し、より厳しい基準を設定し、執行手続きを強化しなければならない」
その2か月後の環境保護イベント、アースデイ(Earth Day)には2000万人もの人々が参加し、抗議の声を上げた。
同年12月、ニクソン大統領は民主党の法案である大気浄化法に署名し、環境保護庁(EPA)を設立した。
すでに各メーカーは、1967年から1970年までに排出ガスを70%削減することを求められていたが、新法案では1975年までに炭化水素を0.41g/mi、一酸化炭素を3.4g/miに90%削減し、1976年までに窒素酸化物(NOx)を0.41g/miに削減することが義務付けられた。
これをクリアするのに必要な技術はまだ存在しなかった。しかし、規制がイノベーションを喚起した。
新法案に対し、フォードは次のような声明を発表した。
「本法案は、1975年1月1日以降の自動車生産を妨げる可能性がある。たとえ生産を停止しないとしても、自動車価格の大幅な上昇につながる可能性がある。米国の産業全体に甚大な影響を及ぼし、米国経済に取り返しのつかないダメージを与えかねない。しかし、その見返りとして、大気の質はほんの少ししか改善されないだろう」
「これは、自動車による大気汚染を抑制する決意がどれだけあるかという問題ではなく、またどれだけの費用をかけるかという問題でもない。どれだけの費用をかけ、どれだけの人員を割り当てても、1975年までには実現不可能だと考えている」
「米国の自動車産業は今、輸入車の台頭を食い止めるための重要な努力を始めている。性急で思慮の足りない法律によって、きれいな空気を実現するために必要以上の値上げを余儀なくされれば、輸入車との闘いは敗北しかねない」
内燃エンジンが技術的に限界に達しているのではないかと考えた米国の自動車メーカーは、ハイブリッド車、EV、そして蒸気自動車に目を向け始めた。
2年後、雰囲気は少しも変わっていなかった。「1975/1976年の基準は技術的にも工学的にも大失敗だ」とクライスラーの環境担当責任者は会議で訴え、ゼネラルモーターズの担当者もそれに同調した。
各メーカーは毎年、規制値が段階的に引き下げられるたびに法廷闘争を繰り広げた。その一方で、商品の魅力を大幅に下げざるを得ない。
低圧縮比、二次空気導入装置(「スモッグポンプ」)、排気ガス再循環装置、点火時期遅延装置、サーマルリアクターなどの対策が開発・実施され、米国車ははるかにパワーダウンし、全体的に走りも悪くなった。
その代表例がフォード・マスタングで、1973年に最高出力250psのV8ポニーカーから、最高出力100psの超軽量な4気筒エコノミー “クープ” に変身した。
フォード、GM、インターナショナル・ハーベスターをはじめとするメーカー各社は期限延長を求めたが、政府は断固として譲らなかった。予測された通り、期限までに基準を満たすことができなかったため、1977年にジミー・カーター率いる民主党政権は1981年までの延長に合意した。
1970年代にかけて、米国の自動車産業は研究開発とリコールに多大なコストを費やし、その一方で、クリーンで小型の自動車を開発した日本メーカーは市場シェアを大きく伸ばした。その後、米国のGDPは4倍になったが、大気汚染は70%減少し、何百万人もの人々の生活を改善している。
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