ロータリーエンジン(RE)とは、三角形のローターが繭型のローターハウジング内部にて回転運動することで動力を得る内燃機関のこと。この方式のエンジンは古くから研究されていたが、1957年に西ドイツのバンケル博士がNSU社(当時の西ドイツにあった自動車・二輪車メーカー。半軌道車のケッテンクラートを生み出したことで知られる)とともに発明したのが始まり。
当初はローターの回転運動でハウジング内部にひっかき傷ができ、長時間の運転に耐えられないなどの問題を抱えていたが、日本の東洋工業(現マツダ)がライセンスを取得し、多数の問題を解決。1967年に初の2ローターエンジンを搭載したコスモスポーツを発売した。
そのため「ロータリー=四輪車」というイメージが強いのだが、実際にはバイクにロータリーエンジンを搭載したモデルも発売されていたのである。
そのどれもが短命だったり成功作とは言えなかったりしたが、確かに「未来」を夢見させてくれたモデルたちであった。
今回は、REを搭載した稀少なバイク5モデルを紹介していこう。
【画像ギャラリー10点】短命に終わったRE搭載バイク5モデル
ドイツ発のRE搭載二輪車 ハーキュレス・W2000(西ドイツ/1973年)
西ドイツのフィヒテル・ウント・ザックス(’60年12月にREライセンス取得。これは世界で2番目になる)が開発したシングルローター、303ccの汎用の強制空冷RE(KM914型)をベースに、BMW製二輪車に使われていた4速ミッションを組み合わせて搭載。’73年に発売されたのがハーキュレスW2000である。
車体が軽量なため、かなりキビキビした走りを見せた。車名の「W」はバンケルの頭文字で、「2000」は2000年という未来を見据えて採られたとされる。総生産台数1784台。
なお写真右にあるエンジンがフィヒテル・ウント・ザックス製の強制空冷RE。W2000生産時には設計が改められ、294cc仕様のKC27型として搭載された。
国産唯一の市販RE二輪車 スズキ・RE5(日本/1974年)
日本製で唯一の市販RE二輪車(輸出専用)。日本らしく、真面目にREのネガを消していったら補機類の塊のようになってしまい、車重が増大して乾燥重量で230kgにもなってしまった。
この数値は当時の750~900ccクラスに相当し、REパワーの恩恵を薄めてしまった。初期型(写真)はジョルジェット・ジウジアーロによる特異なデザインで、後期になると同社製GT750と共通のメーター/テールまわりに変更され少し普通になった。
総生産台数は6000台ほどと公式には言われる。
世界初の2ローター二輪車 バンビーン・OCR1000(オランダ/1977年)
オランダ人ヘンドリック・バンビーン(現地発音ではファンフィーンに近い)が設立したバンビーン社は’73年、RE二輪車の開発に着手する。
イタリア・モトグッチの車体にマツダ10Aを搭載した車両など数種を試作し、その後生産拠点を西ドイツに構え’77年に市販化。同車は世界初の市販2ローターRE二輪車となった。車名にもある1000ccの2ローターREは、シトロエンのGSビロトールに搭載されたコモトール製で、装備で車重330kgの巨漢ながら走りはなかなかに強烈だった。
だが高価であり、40台内外の生産のみで終了。マンガ「熱風の虎」に出てきたため、その数の割には有名にモデルである。日本国内には2台現存する。
ノートン・クラシック(イギリス/1988年)
マツダの次に、REに固執したのがイギリスのノートンだったと言える(謎に包まれたロシアのメーカーを除いて、だが)。
西独フィヒテル・ウント・ザックスの生産設備を引き継ぎ、2ローターREを開発してまずは’80年代前半に警察車両のインターポールに搭載。同車の総排気量は294cc×2の588ccで、1ローターあたりがハーキュレスW2000と同一であることがわかる。その後’88年に市販化したのが、写真のクラシックである。
このクラシックをベースに、フルカウリングモデルとしたコマンダーも存在する。
ノートン・F1(イギリス/1991年)
ノートン・クラシックに搭載された588ccの2ローターREを水冷化し、レーサー的な車体に搭載したのが’91年のF1である。’89年のTT-F1で優勝したノートンワークスのREレーサー、RCW588のJPSカラーが与えられ、95psという高出力で強力な走りを見せた。
なお、ミッションの設計変更によりシャフト1本を追加、空冷時代とはエンジンの回転方向が逆になっている(タイヤの回転方向と逆)。当時日本国内では450万円(!)で販売され、現存車両もある。
ヤマハ、カワサキ、ホンダもチャレンジしていた 日本メーカーの試作ロータリーエンジン搭載車
NSU社とロータリーエンジンのライセンス締結した国内メーカーはマツダだけではない。
ロータリーエンジンは一般的なレシプロエンジンよりも軽量かつハイパワーということもあり、国内二輪メーカーもライセンス締結するなどしてRE搭載バイクの開発を行っていたのである。
結果として市販されたのは前述のスズキ・RE5のみだったが、程度の差こそあれ各メーカーが「次世代を担うハイパワーユニット」としてロータリーエンジンに注目していたことは確か。
各メーカーがどのようなマシンを開発していたのか、貴重な写真とともに紹介していこう。
ヤマハ RZ201
東京モーターショーで大々的に発表し、市販直前までこぎつけながら、オイルショックの影響で中止となったヤマハのRZ201。
吸気にオイルを混合するCCRシステム採用の2ローターREは、ヤンマーディーゼル(マツダと同じ’61年2月にライセンス締結)との共同開発で330cc×2。
カワサキのRE試作車
カワサキは’72年からREの開発に着手し、同年10月にNSUとライセンス締結。448cc×2の試作2ローターREを’74年4月に完成させた。
早々に目標値の85psをクリアし、11月に実車に搭載して最高速テストなども行ったが翌年に開発を中止。写真の試作車は現存する。
ホンダのRE試作車
ホンダはNSUとライセンス締結せず、あくまで研究として’72年にREを試作した。125ccクラスのA16、50ccクラスのA24の2種類のREを試作し、A16は同社製CB125に搭載して試験まで行った(写真の車両)。
だが、いずれも「メリットに乏しい」と判断して開発を中止した。
いかがだっただろうか?
今後レシプロエンジン以外の内燃機関が生み出される可能性はまずないものの、もしまったく新しい方式のハイパワーエンジンが突如現れたら……。そう考えれば、当時REが誕生したときの衝撃がどの程度のものだったのか想像できるだろう。
残念ながらロータリーエンジン搭載バイクが今後登場する可能性はほぼないし、ロータリーエンジン搭載車両がラインアップから姿を消して久しいが、マツダが鋭意開発中とウワサされるのロータリースピリット満載の新世代RE車にお目にかかれる日は、もしかするとそう遠くないのかもしれない。
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