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直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 後編

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直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 後編

次世代モデルではV型8気筒へシフト

戦後の上級サルーン、メルセデス・ベンツ300シリーズとベントレーSタイプ。生産台数を確認してみよう。

【画像】メルセデス・ベンツ300bとベントレーS1 最新のSクラスとフライングスパーも 全73枚

1955年から1959年に製造されたスタンダードスチール・ボディのSタイプ、S1は、ロールス・ロイスのシルバークラウドと合わせて5312台。当初はベントレーに支持が集まっていたが、1959年以降のS2とS3ではロールス・ロイスが逆転している。

一方、1951年から1962年に製造された300シリーズは、1万1430台。これには、4ドアカブリオレも含まれる。1950年半ばまで、売れ行きは好調だった。

1962年に11年が経過した300は、新しい600へフラッグシップの道を譲る。V型8気筒エンジンへ交代しながら。ただし、大排気量の直列6気筒は1967年まで別モデルへ登用された。

英国のクルーでは、オールアルミの6.2L V型8気筒エンジンが1959年に登場。6気筒エンジンは役目を終えるが、数十年の開発の成果といえる静寂性や燃費の良さ、信頼性の高さから、存続を望む声も少なくなかったという。

今回ご紹介するブラックのメルセデス・ベンツ300bは、1954年式。ロンドン・ハイドパークへ通じる、ボンドストリートのディーラーで販売されたクルマだ。

走行距離は4万7000km。2021年9月のオークションでは、4万3000ポンド(約666万円)で落札されている。やつれた300bをレストアするとしたら、こんな金額では済まない。そう簡単には手放したいとは思えない。

シェルグレーと呼ばれる深みのあるシルバーに塗られたベントレーS1は、1977年以来、信念を持つ一家が守ってきた2オーナー車。走行距離は5万9500kmを超えたばかりだ。

強権的な風格の300b 女王的な威厳のS1

多くのS1は、結婚式の送迎車両になるか、独自のスポーツカーを作るためにエンジンが抜き取られた。だが今回のS1は、新車時の見事な姿を湛えている。

中古のロールス・ロイス・シルバークラウドIIIを5000ポンドで買えた時代に、2代目オーナーは8000ポンドで入手したという。2021年4月のオークションでは、3万6500ポンド(約565万円)が付いている。

300bの初代オーナーは、豊かな財産と同じくらい、強い気持ちの持ち主だったに違いない。戦争の記憶が薄れない1950年代の英国では、ドイツ車を運転する人を白い目で見ることも少なくなかった。

独裁者の匂いは薄れていても、今でも黒い300bは007映画の悪役的な雰囲気がある。ベントレーS1と同じくらい大きく見えるが、実際は全長で300mm以上も短い。

車内は同等に広々としており、荷室も巨大。2本のスペアタイヤも飲み込むほど。メッキバンパーに付いた縦のオーバーライダーと三角窓、穴開き加工のスチールホイールが、300「b」の特長だ。

メルセデス・ベンツが大統領の強権的な風格を放つのに対し、長いボンネットに低いルーフラインが与えられたベントレーS1は、より女性的。威厳を漂わせる女王のようで、ドイツ車との直接比較は適さないように感じられる。

ベントレーは、多様に乗れる存在感の強いサルーンの需要を認識していた。太いCピラーで、リアシートの裕福なオーナーを隠すことができる。同時にプライベート・カーとして、フロントシートへの快適性にもこだわってある。

雇われ運転手の気分になるメルセデス

2台とも、インテリアには手仕事の丁寧さが漂う。内装の素材や仕上げは感心するほど。最上級のレザーが用いられ、リクライニング・シートにラジオ、高性能なヒーターとベンチレーションを備える。

300bは、ウインカースイッチを兼ねたホーンリングや、ルーフの前後に掛かる長いバー状のハンドルなど、独自の装備が面白い。印象的にドアが閉まり、集中シャシー潤滑機能も装備する。

一方のS1も、ピクニックテーブルにCピラー裏のバニティミラーなど、英国流の気配りが施されている。読者は、どちらの車内を好むだろうか。

メルセデス・ベンツのダッシュボードはクロームの装飾が多く、細かな造形が視覚的に少々うるさい。繊細な木目にシンプルでエレガントな造形のベントレーへ、筆者は惹かれてしまう。見た目に心地よく、よりリラックスできそうだ。

300bの運転席に座ると、雇われ運転手の気分になる。フォーマルな印象が強く、装備が充実しているとしても、運転を楽しむより業務を遂行している感じが強い。

コラムの4速MTは、当時では優秀なものだった。しかしミスシフトを避けるために、注意しながらレバーを動かす必要がある。

変速に慣れれば闊歩できる。6000rpmまで回転数も使い切れる。3速で130km/h近くまで加速でき、当時の最速サルーンの1台だったことを実感する。

速度が増すほど車重も気にならなくなる。ステアリングは低速域では重いものの、スムーズさとダイレクトさが増していく。旋回能力も、60年以上前の大型サルーンとしては望外に高い。

ブランドらしさが表れた上級サルーン

他方のベントレーS1は、4速AT。排気量も2.0L近く大きく、高回転域まで回さずとも、太いトルクを活かし洗練性を保ったまま力強さを引き出せる。ATはシフトアップに積極的で、機会が許せばトップギアを選ぼうとする。

S1にはパワーステアリングも装備され、ステアリングホイールは軽い。交差点でのひと仕事に感じるメルセデス・ベンツとは異なり、アンダーステアも隠してくれる。ブレーキも強力で、漸進的に効く。

2台とも走りは安定しているが、ベントレーのリアアスクルは入力に対し上下動が大きい様子。メルセデス・ベンツのフラットで落ち着いたホイールさばきは、現代車並み。その時代のサルーンとしては、驚くほど洗練されている。

メルセデス・ベンツの6気筒エンジンは、きめの細かい唸りを響かせる。ベントレーは、遠くで息使いが聞こえる程度。ほとんど音を発せず、操作に対し即座に反応し、加速する。300bもS1も、1950年代を代表する素晴らしいモデルだ。

メルセデス・ベンツ300bは、商用車やタクシー車両までを生産する、ダイムラー・ベンツ社のフラッグシップ。高水準の技術力と、妥協のない洗練性が、大きなリムジンへ投入されている。

他方のベントレーSタイプは、ブランド唯一のモデルという、贅沢な環境を活かし切っている。求める顧客を正しく理解し、比較できるようなブランドがない時代に、望み通りのクルマを生み出していた。

どちらも最上級。どちらも正解だった。

協力:マナー・パークク・ラシックス社

メルセデス・ベンツ300bとベントレーS1 2台のスペック 

ベントレーS1(1955~1959年/英国仕様)

英国価格:4669ポンド(新車時)/4万ポンド(約620万円)以下(現在)
生産台数:約3073台
全長:5385mm
全幅:1899mm
全高:1630mm
最高速度:170km/h
0-97km/h加速:13.0秒
燃費:3.5-5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:2032kg
パワートレイン:直列6気筒4887cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:非公表(170ps以上)
最大トルク:非公表
ギアボックス:4速オートマティック

メルセデス・ベンツ300b(1954~1957年/英国仕様)

英国価格:3500ポンド(新車時)/5万ポンド(約775万円)以下(現在)
生産台数:約7746台(W186型サルーン合計)
全長:5055mm
全幅:1838mm
全高:1600mm
最高速度:164km/h
0-97km/h加速:14.9秒
燃費:5.7km/L
CO2排出量:−
車両重量:1757kg
パワートレイン:直列6気筒2996cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:126ps/4500rpm
最大トルク:22.4kg-m/2600rpm
ギアボックス:4速マニュアル

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