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「走りはドイツ車」な英国車 飛行機から自動車へ ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ(1)

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「走りはドイツ車」な英国車 飛行機から自動車へ ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ(1)

走りはドイツ車 インテリアはイギリス風

80年前の世界でも、自動車産業は競争が激しかった。英国のとある新興メーカーは、二者一択に悩んでいた。小さな部品1つまでこだわり、徹底的なオリジナリティを追求するか、設計担当者を他社の自動車工場へ出向かせたり、優れた既存部品を活用するか。

【画像】「走りはドイツ車」な英国車 400 ドロップヘッド・クーペ 個性的なブリストル 戦前のフレイザー・ナッシュ-BMWも 全116枚

前者の手法で成功を掴んだのは、エットーレ・ブガッティ氏だろう。後者を選んだ人物には、キャロル・シェルビー氏が挙げられる。だが、ブリストルのジョージ・スタンリー・ホワイト氏は、両方を組み合わせようと決断した。

膨らんだフェンダーが、エレガントにカーブを描く。前方からは、直列6気筒エンジンの唸りが響く。ソフトトップが綺麗に後方へ折り重なった、ブリストル400 ドロップヘッド・クーペは、そんな手法で生み出された1台だ。

丸みを帯びたフロントノーズの中央には、縦に長いキドニーグリルが備わり、1930年代のBMWを想起させる。小気味よく回る粘り強いエンジンと、驚くほどクイックなステアリングが、その印象を強める。

手のひらや足の裏へ伝わってくるのは、明らかにドイツ・バイエルンの息吹。ところが、上質なインテリアは一転して英国風。ボディと同色に塗られたアールデコ調ダッシュボードや、白いメーター類は見当たらない。

残存する400として最古のドロップヘッド・クーペ

バルクヘッドいっぱいに木材が渡され、黒いメーターが中央に並ぶ。シートは風合いのいいコノリー・レザー張り。オリジナルのBMWより洗練され、保守的でもある400 ドロップヘッド・クーペは、居心地がすこぶる良い。

頭上には青空が広がり、木々の緑が周囲を流れていく。400 サルーンの車内は少し窮屈だが、フロントガラスの位置は低く、雰囲気は開放的。サイドウインドウを降ろして、分厚いウッドトリムで飾られたドアに肘を載せたくなる。

風の巻き込みは、意外なほど少ない。シートポジションと、空力特性にも多少配慮されたボディのおかげで、激しく髪が舞い踊ることはない。喜びで心が満ちる。

こんな魅力を知っていたのか、競合メーカーもオープンスポーツを次々にリリースした。ジャガーにAC、アストン マーティン、MG、トライアンフなどが、戦後のブームを形成していった。

400のサルーンは、緩いサスペンションで乗り心地はマイルド。優しくボディを傾ける。クリーム色のドロップヘッド・クーペでは、趣あるエンジンサウンドとエグゾーストノートを豪快に響かせ、エネルギッシュさがプラスされている。

このドロップヘッド・クーペは、英国の産業史へ重要な1ページを刻んだ。1947年前半に製造され、シャシー番号は400/1/004が振られている。ブリストル・エアロプレーン(BA)社が自動車製造へ乗り出したことを記念する、貴重な1台だ。

モーターショーへ向けて、最終プロトタイプとして4番目に作られ、残存する400としては最古。戦後の工業遺産の1つといっていい。

事業の多様化で進出した自動車生産

BA社は、航空機メーカーとして第二次大戦前から英国最大規模を誇り、開戦後は需要へ応えるように事業を拡大していった。双発の戦闘機、ブリストル・ボーファイターと、同じく双発の爆撃機、ブリガンドを大量に生産。最盛期には7万人の労働者を抱えた。

しかし同社のゼネラルマネージャー、ホワイトは、終戦後の舵取りに早くから悩んでいた。民間航空機への転換だけでは、従業員の維持は難しいと考えていた。彼は多様性を好み、自動車に強い関心を抱いていた。

開戦して間もない1941年から、アルヴィスやERA、アストンマーティンといったブランドへ、彼は買収協議に関する手簡を送っている。実りはなかったようだが。

終戦を迎えた1945年、レジナルド・バードン・スミス氏とともに、ホワイトは共同最高経営責任者へ就任。事業の多様化は、緊急性を帯びていた。

既に、商用の貨物機に加えて、ヘリコプターとプレハブ建築の生産へ進出していた。だが、自動車部門も必要だという考えは変わらなかったらしい。

幸運にも社内には、自動車の生産と販売で10年以上のキャリアを持つ、ドン・オールディントン氏という人物がいた。航空機の生産部門で、検査官を努めていた。

遡ること1929年、兄のハロルド・オールディントン氏は、AFN社の常務取締役へ就任。スポーツカー・ブランド、フレイザー・ナッシュの経営へ関わるようになっていた。

手を組んだブリストルとフレイザー・ナッシュ

しかし、1934年のレース、クープ・インターナショナーレ・デ・ザルプで、BMWのロードスターにフレイザー・ナッシュは惨敗。ハロルドはドイツ・ミュンヘンの工場へ向かい、英国におけるBMWの販売・製造に関する独占的な契約を取り付けた。

グレートブリテン島へ戻ると、独自モデルの生産をやめ、フレイザー・ナッシュ-BMWというブランドを設立。英国仕様として僅かな改良を施し、第二次大戦で生産が途絶えるまでに、600台以上を販売した。終戦後も、その数台が残っていた。

ホワイトは、これにチャンスを見出した。ブリストルの上層部による協議を経て、BMWの技術を導入することが決定。1945年後半までに、BA社はAFN社の株式の過半数を取得し、協力体制が組まれた。

両社の上層部はミュンヘンのBMW工場を訪れ、亡命を望んでいた技術者、フリッツ・フィードラー氏を招聘。残されていた設計図や大量の部品も、輸入された。

かくして、ブリストル400の設計がスタート。スタイリングは、1930年代後半に量産されていたBMWの3モデルを参考に、ブリストルのデザイナーが担当。エンジンにトランスミッション、ボディやシャシーなど、大部分を自社製造する準備が進められた。

専門的な技術が必要なアイテムは、ロッキード社やルーカス社など、英国のサプライヤーを頼った。ドイツ・メーカーが含まれなかったことは、注目に値するだろう。

この続きは、ブリストル400 ドロップヘッド・クーペ(2)にて。

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みんなのコメント

1件
  • furima-jirosan
    日本にもこの記事にある400のクーペをはじめ、自動車評論家・(故)川上完氏が所有されて
    いた406など数台のブリストル車が輸入されております。

    初期のブリストルのエンジンは、ドイツからエンジニアと共に技術導入されたBMWの直6
    エンジンがベースだったわけですが、最初このエンジンのヘッド周りを見た時、戦前からの
    技術とはいえすでにツインカムになっていたのかと思いましたが…実はこのエンジン、
    OHVだったんですね。

    下方に吸気する側は一般的なOHVのメカニズムですが、排気側は吸気側同様長いプッシュ
    ロッドでまず連絡用のロッカーアームを駆動し、そこから短いプッシュロッドを横に渡して
    排気側のロッカーアームを駆動してバルブを開閉するという…
    しかも燃焼室もほぼ半球型になり出力も向上すると…えらい凝った設計になっておりました。

    しかしこの複雑なOHVのメカニズム、各部のクリアランス調整等がさぞ難儀な事でしょう…
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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