2021年9月10日、北米で公開された「新型WRX」。WRXは、スバルこだわりの「シンメトリカルAWD」が生み出す個性的なパフォーマンスカーであり、ラリーをはじめとするモータースポーツファンからの熱烈な支持を得てきたモデルだ。
それだけに、新型への期待は高かったのだが、公開された新型WRXのデザインは評価が分かれるところとなった。特に注目されたのは樹脂のフェンダーアーチモール。セダンなのにSUVっぽい雰囲気となっているのだ。
今はSUV全盛の時代だ。この新型WRXの樹脂フェンダーアーチモールは、「SUV人気にあやかった」ものなのだろうか。スバルの狙いを探ってみよう。
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:SUBARU、Audi
[gallink]
低コストパーツ代表から機能美の象徴へ
樹脂むきだしの無塗装バンパーやドアミラーは、商用車ではよく見られる仕様だ。乗用車では最近見られなくなったが、かつては低グレードモデルのスタンダードな仕様だった。
しかし、乗用モデルをベースとした「クロスオーバーSUV」が登場すると、乗用モデルとの差別化を表現するのに、樹脂パーツが用いられるようになった。たとえば1999年に登場したアウディオールロードクワトロは、ベースモデルのアバント(ワゴン)より高くなった車高と大径タイヤを収めるためにフェンダーアーチモールが取り付けれたが、ボディカラー同色とはせず、樹脂そのままのデザインで登場した。
1999年に登場したアウディオールロードクワトロ。ベースモデルのアバント(ワゴン)とはイメージが異なり、タフさが強調されている
この流れは、他メーカーのクロスオーバーモデルにも波及し、現在ではデザインの一つとしてすっかり定着している。もちろん樹脂だからといってチープな印象というわけではなく、オフロードを走ったときにタイヤが跳ね上げた砂や石からボディを守る、といった、機能美としての意味合いが強い。
しかし、WRXはスポーツセダンだ。今クロスオーバーSUVが流行していることと、AWDメカニズムがウリのスバルであることを差し引いても、WRXの樹脂フェンダーアーチモールはなかなかの衝撃だ。しかし、この新型WRXについて調べていくと、これは単にデザイン上の理由だけではないということが分かってくる。
スペックには表れない進化を果たした新型WRX
新型WRXのコンセプトについて、スバルは「初代以来4世代に渡って受け継いできたWRXらしさを継承しつつ、さらなる高みを目指し、パフォーマンスカーとしての価値、そして実用的なセダンとしての価値を進化させたモデル」と、している。
そのコンセプトを実現させるため、WRXとして初めてスバルグローバルプラットフォームを採用したほか、フルインナーフレーム構造や構造用接着剤を使用することで、高剛性化を実現。ハンドリング性能や乗り心地、走りを向上させている。また、エンジンは2.4L直噴ガソリンターボで、最高出力は271ps。トランスミッションは6速MTと8速マニュアルモード付きCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」が搭載される。
と、新型WRXは、スペック面ではかなり控えめな印象ではあるが、メカニズムは確実に進化している。実は、今回の樹脂フェンダーアーチモールも、このメカニズムの進化のように、「スペックには表れない進化」のひとつなのだ。
エンジンパワーは控えめながら、スバルグローバルプラットフォームとフルインナーフレーム構造でシャシー剛性を大きく向上させており、パフォーマスが期待できる
樹脂パーツにこそWRXのこだわりが
新型WRXでは、「スポーツサイドガーニッシュ」と呼んでいる、フェンダーアーチモール。新型WRXでは、このフェンダーアーチモールや、サイドシルプロテクターなどの樹脂パーツに、ヘキサゴンパターンの「空力テクスチャー」が採用されている。
この空力テクスチャーは、スバルBRZ/トヨタGR86のフロントバンパーにも採用されているものなのだが、その面に当たる空気の剥離を抑え、大きな渦の発生を防ぐ効果がある。ぱっと見では分からないほど精緻で微妙な表面処理なのだが、これにより乱流の発生を抑制し、操縦安定性を向上させることができるという。
また、フロントフェンダーの後部とリアバンパー後部にはエアアウトレット(排気口)が設けられている。これにより車輪付近の空気が外に排出され、前輪タイヤの揚力を抑えて操縦安定性を向上させることができる。
フェンダーはボディカラー同色にしてカッコよく仕上げることもできるだろうが、塗装すると模様の隙間に塗料が入り込んでしまい効果が無くなることもあり、この「空力テクスチャー」を有効なものとするために、細かな模様を実現できる樹脂成型で作ったフェンダーをそのまま使うことにした、と考える方が、WRXにとっては自然だろう。
つまりこの樹脂製のフェンダーアーチモールは「ハイパフォーマンスカー」として重要なパーツの一つであり、機能性を優先させた結果だと考えられるのだ。
ちなみに、WRX STI NBRレースカー2019 年モデルでも、ボディ表面にザラザラした「サメ肌塗装」をしていた事例もある(ダウンフォースなどに違いは出ていないそうだが、ドライバーは走行性能に違いを感じていたとのこと)。機能美に強く惹かれる筆者としては、WRXのそんなこだわりを見せつけられると「悪くない」と感じる。
新型WRXの樹脂パーツには、ヘキサゴンパターンの「空力テクチャー」が備わっている。ぱっと見はわからないが、空気の流れを整え、操縦安定性を向上させる効果が期待できる
スペックだけにこだわらない、スバルならでは
新型WRXが、パフォーマンスモデルとしての機能という意味でフェンダーに樹脂パーツを採用したことは、スペックだけでは語れないスバルならではの個性、といえるだろう。デザインとしては賛否両論分かれるところだが、もっと機能性をアピールすることで徐々に受け入れられていく可能性もある。
ただし、日本仕様の詳細はまだ明らかにされておらず、そのままのデザインで登場するかは不明である。日本に導入される際にはぜひそのままで、スバルのこだわりを徹底的に見せつけてほしい。
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みんなのコメント
ダメだったのでしょうかね?
折角だから、ボディー色と同色にしたいってユーザーもいると思うんですけどね。