■なぜ? テスラが「世界一」になれた理由とは
2020年7月2日、「テスラ、トヨタを抜いて世界一に」という内容の見出しが経済系メディアを中心に紙面を飾りました。
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たしかに、日本でも都市部を中心にテスラの「モデルS」や「モデルX」、あるいは最近納車が開始されたコンパクトセダン「モデル3」を目にする機会は増えています。
しかし、未来的なデザインや先進的な機能の数々はたしかに魅力的ではありますが、「世界一の自動車メーカー」といわれるとピンとこないのが実情です。
実際に、レクサスやダイハツなども含んだトヨタグループの2019年の新車販売台数は約1074万台にも達するのに対し、テスラは約36万7500台と大きな開きがあります。これはいったいどういうことなのでしょうか。
今回、テスラが自動車メーカーのなかで世界一となったのは「時価総額」についてです。
時価総額とは、発行株式の総数に株価を掛けたものであり企業価値を図る指標とされています。世界的な自動車メーカーのほとんどは株式公開をしている上場企業であり、基本的には誰もが株を購入することができます。
ある企業の株を購入したい人が増えれば増えるほど株価は上昇し、反対に株を手放したい人が増えれば増えるほど株価は下がる仕組みです。
その結果、テスラの時価総額は、上場しているNY証券取引所の7月1日時点で、2100億ドル(約22兆円)を越え、トヨタを抜き去りました。
現実的ではありませんが、テスラを子会社化するにはその50.1%、つまり11兆円強のお金が必要ということになります。つまり、簡単にいえば、テスラの株を買いたい人が増えたため、「世界一の企業価値をもつ自動車メーカー」となったのです。
しかし、まだ納得がいかないかもしれません。たしかにテスラは近年人気かもしれませんが、世界中でクルマを販売しているトヨタやフォルクスワーゲンあるいはGMと比べても企業価値が高いというのはにわかには信じがたいものです。
自動車業界に参入して10数年の新参者が、名だたる古参メーカーたちを追い抜いた背景には、自動車メーカーの中では異端児ともいえるテスラ独自のビジネスモデルが関係しています。
●自動車業界のビジネス構造をくつがえしたテスラ
現在、自動車メーカーは日欧米を中心に数多くありますが、基本的なビジネスモデル、つまりお金を儲ける仕組みは似通っています。
簡単にいえば、「クルマを作ったコストに利益を乗せて売る」という構造です。製造原価や販売コストを引いた純粋な利益は、普通車であれば数十万円程度、高級車であれば数百万円におよぶ場合もあるようですが、軽自動車などでは数万円程度といわれています。
そのため、多くの自動車メーカーは「付加価値を付けて高くても買ってもらえるようなクルマをつくる」か「できるだけ安くつくって数多く売る」という方向に別れます。トヨタグループの例でいえば、「レクサス」は前者、「ダイハツ」は後者です。
この仕組みのもとでは、「つくって売る」を繰り返し、その儲けを新型車の開発や、新工場の設立費用に充てることになります。したがって、たくさんつくってたくさん売れる自動車メーカーである、トヨタのような企業が優れた企業として判断されます。
ちなみに、多くの自動車メーカーの起源を見ると、自動車以外の事業で資産を築いた人間が、それを元手に工場を立ち上げたという場合がほとんどです。
しかし、テスラの場合は異なります。テスラは、トヨタのように過去に多くのクルマを販売してきたわけではありません。また、テスラの創業者であるイーロン・マスク氏は、たしかに資産家ではありましたが、個人の資産だけでテスラを立ち上げたわけでもありません。
マスク氏は、株式市場、つまり投資家から投資を受けることでテスラを立ち上げる資金を調達しました。テスラは2004年に750万ドル(約7億5000万円)、2005年に1300 万ドル(約13億円)を投資家から調達し、その後も数十億円単位の投資を毎年のように受けています。その資金をもって、クルマの開発や生産をおこなったのです。その結果、上述の通り、2019年にテスラは世界で約36万7500台を販売しました。
ですが、その実態は売れば売るほど赤字ともいわれています。これまでの自動車メーカーのビジネス構造であれば、クルマを販売して利益が出ないのでは企業として問題があるといわざるを得ません。
ただし、テスラの場合は、投資家から資金を得ることが目的なので、極端にいえばクルマを売って一般消費者から目先の利益をとる必要がありません。そのため、将来テスラがEV市場で一人勝ちする時代が来たときに、しっかり利益を確保できればよいという考えなのです。
この、投資マネーを元手にするという点こそが、テスラが自動車メーカーとして異端児といわれる最大の要因です。
■なぜ、人々はテスラに投資する?
では、なぜ投資家たちはテスラに投資をするのでしょうか。
自動車関連企業を中心に投資をしているある個人投資家は、次のように分析します。
「多くの投資家たちは、いずれ電気自動車(EV)が主流となる時代が来たとき、EVメーカーとしてはすでに世界最大級の実績があるテスラの企業価値がいまよりもはるかに高まると期待しているからでしょう。
さらに、稀代の起業家ともいわれるイーロン・マスク氏に対する期待も大きな要因のひとつといわれています。
もちろん、多くの自動車メーカーも電動化の時代に向けて準備をしていますが、良くも悪くもエンジンに頼ってきた自動車メーカーにとっては、急速な時代の変化に対応できないのではという懸念もあります。
その点、15年足らずで世界的な自動車メーカーと肩を並べる存在となったテスラは、マスク氏の強烈なリーダーシップと鋭い嗅覚で、どんな事態でも柔軟に対応できるのではと期待があります」
一方で、最近の株価高騰は単なる一過性のものであり、実態を反映していないと指摘します。
「テスラのような新興企業の株価は、さまざまな要因で乱高下を繰り返します。今回、テスラが時価総額で『世界一の自動車メーカー』になったのは、おそらく世界的なコロナウイルスの影響で多くの企業の業績が下がるなか、投資家たちがより期待のできる投資先を探した結果ではないかと思います。
実際に、テスラの株価はコロナウイルスの影響が大きくなった現在でも上昇を続けています。しかし、この数か月でテスラそのものがなにか大きな変化があったわけではありません。
そういう意味では、テスラはマネーゲームのなかで動いているだけであり、潮目が変わったら急激に株価が下がる可能性もあります」(前出の個人投資家)
※ ※ ※
テスラが世界一の自動車メーカーといっても、それは株式市場における「期待感」からであり、実体をともなっているわけではありません。
実際に、JDパワーが2020年6月24日に発表した自動車初期品質調査ランキングでは、今年から調査対象となったテスラは最下位に沈んでいます。
にもかかわらず株価は上昇を続けていることから、自動車メーカーとしての企業価値と、そのメーカーのクルマが良いクルマであるかどうかはあくまで別の話であることがわかります。
しかし、先述の個人投資家は次のようにも話します。
「たしかに、クルマそのものを見ればテスラには課題も多いかもしれません。しかし、これからは『良いクルマを作っていれば売れる』という単純な時代ではありません。
電動化や自動運転、シェアリングエコノミーなど、自動車メーカーは今後さまざまなものに対応していく必要があります。
その点、歴史ある巨大企業よりも、フットワークが軽く、なおかつカリスマであるマスク氏率いるテスラに期待してしまうのもやむを得ないのかもしれません」
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日本人からみれば、要はバブルの典型だ。