サーキット専用車というフェラーリの新たな戦略
最初から限定生産を前提としたスペチアーレとして「エンツォ フェラーリ」を発表すると、フェラーリはさらに興味深いプロジェクトを立ち上げる。それはコンペティツィオーネでもストラダーレでもない、つまりレースにも参加できなければ、オンロードを走行することもできないモデル。それが使えるのは、カスタマー自身によるサーキット走行のみ。エンツォをベースに製作された、そのサーキット走行専用モデルとは2005年に発表された「FXX」である。
ハイブリッド時代に突入「ラ フェラーリ&SF90ストラダーレ」(2013-2019)【フェラーリ名鑑】
FXXは29台の限定生産
FXXのベースとなるエンツォが誕生した時、多くのファンはそれをベースとしたコンペティツィオーネ、すなわちレースカーの誕生に期待したが(実際、後にエンツォのマセラティ版として登場するMC12は、GT1カテゴリーでGT選手権に参戦している)、その夢は叶わなかった。だが、実際にこのFXXを見ると、それはまったく不可能な話ではなかったのではないかという印象を受ける。
FXXの限定生産は29台の予定で行われ(後にミハエル・シューマッハのための1台が加えられた)、そのカスタマーは「ピロータFXX(FXXドライバー)として、納車後2年間にわたってフェラーリによる徹底したホスピタリティのもと、このFXXの走りをサーキットで楽しむ権利が与えられた。
その2年間の期間が終了すると、フェラーリはさらにFXXの性能を高めるためのエボリューション・キットを提供。さらに2年間のフルサービスによる走行が可能になった。それはカスタマーにとっても、そして走行後にデータ・ロガーから39項目のデータが得られるフェラーリにとっても、いずれも有益な仕組みだった。
FXXのミッドに搭載されたエンジンは、最高出力が800ps以上と発表された、6262cc仕様のV型12気筒自然吸気。これと6速のF1マチックからなるパワーユニットはミッドシップされ、もちろん後輪を駆動する。タイヤはスリックとレイン用が、いずれもブリヂストンから供給された。
第2弾はFRをベースにした「599XX」
そして次世代のスペチアーレ、599でもXXプログラムは用意された。2009年のジュネーブ・ショーで初公開された「599XX」が次なるXXプログラムの主役。こちらはもちろん、FRの基本設計を599からそのまま受け継いでおり、搭載エンジンは9000rpmがレブリミットとなる、700ps仕様のV型12気筒。フェラーリが所有するフィオラノのテストトラックを、FXXよりも1秒速い1分17秒00でラップしたというその実力は、パワーとともにエアロダイナミクスの進化を伺わせる。
ちなみにこの599XXがもつエアロデバイスで最も興味深いのはアクティブフローと呼ばれるダウンフォースの可変システム。アンダーボディのデュフューザーには無数の穴が開いており、その穴からエアを吸い込み、テールライトからグリルへと変化したダクトを通じて排出する。さらにリアエンドではシンセティックジェットと呼ばれる気流の発生装置も備えられており、これでドラッグ低減を実現したという。
システム出力1050psを誇る「FXX K」
現在のXXプログラムの主役は、ラ フェラーリをベースに製作された「FXX K」と、その「EVO」バージョンだ。発表は2014年のことで、EVOは2017年にパッケージ・オプションとして(一部モデルは完成車として)登場している。生産台数は32台とされ、ミッドに搭載されるV型12気筒、6262ccエンジンは860psを発揮。そして、Kが意味するところであるHY-KERSにとるエレクトリックモーターのアシストを得て、システム全体では1050psのパワーを出力する。
フロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンクというサスペンションの構成に変化はないが、ブレーキはFXX K専用にブレンボ製の大径カーボンセラミックディスクが与えられた。車重はわずか1165kgとされているから、その運動性能は驚異的なものであることは確かだ。
【SPECIFICATION】
フェラーリ FXX
年式:2005年
エンジン:65度V型12気筒DOHC(4バルブ)
排気量:6262cc
最高出力:588kW(800ps)/8500rpm
最大トルク:686Nm/5750rpm
乾燥重量:1155kg
最高速度:345km/h
フェラーリ 599XX
年式:2009年
エンジン:65度V型12気筒DOHC(4バルブ)
排気量:5999cc
最高出力:515kW(700ps)/9000rpm
フェラーリ FXX K
年式:2014年
エンジン:65度V型12気筒DOHC(4バルブ)
排気量:6262cc
最高出力:772kW(1050ps)
最大トルク:900Nm
乾燥重量:1165kg
※メーカー公表値のみ掲載
解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
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