イタリアの「パワー・構造・デザイン」3大名匠の結実 ランチア・ラリー
日本への正規輸入も途絶えて久しく、本国でも苦戦を強いられている、イタリアのランチア。復活の声は常にあるが、その熱望の背景にあるのはラリーでの活躍だろう。古くはフルビアに始まり、スーパーカーのなかでも別格となるストラトス。絶頂期を迎え、まさに暴れまくったランチア・デルタ・インテグラーレまで、伝説のモデルが目白押しである。
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そのなかで1980年代のWRCで活躍したのがランチア・ラリー、通称「037ラリー」だ。あらゆる力を世界一に向けて押し出していった名車、そこにはアバルトも一翼を担っていたのだった。
パワー闘争のなかアバルトは本領発揮
1980年代のWRCは過渡期というか、大きな転換期を迎えており、目玉であるグループBが始まったのは1982年のこと。グループBといえば、その後数年間で車両の大パワー化と4WD化に伴い一気に過激化、最終的に大規模な死亡事故が起きてしまい、廃止されてしまうカテゴリーだが、そこへランチアが放ったのが「037ラリー」だ。
アウディクワトロを皮切りに、各メーカーが4WDモデルを投入するなか、ランチア・ラリーは旧来からのミッドシップを採用。WRCでは活躍した最後のミッドシップ・リヤドライブとされている。
開発を担当したのは、かのアバルト。フィアットに吸収され、事実上の消滅となっていたと思われていたが、ランチア・ラリーでその実力が健在であることを見せつけることになった。ちなみに037ラリーと呼ばれるのは、ランチア・ラリーがあまりにも漠然とした車名だったために使われた通称で、アバルトの開発コード、SE037に由来するもの。イタリアではティーポ037とも呼ばれるが、ティーポはタイプのことである。
結局のところ、ミッドシップで参戦したのは予算や4WDの技術がまだなかったわけでもあり、実際構造はとてもシンプルだ。しかし勝つべき方策は込められ、シャーシは名門・ダラーラが担当、モノコックのキャビンの前後にモリブデン鋼のチュブラーパイプを組み合わせたフレームが構築されている。
そこに「フィアットツインカム」と呼ばれ熟成されていた2リッター直4エンジンを搭載しているのだが、横置きではなく縦置きにすることで、コーナーでのコントロール性を向上させてもいる。さらにイタリア語で「ボルメトリコ」と呼ばれるルーツ式スーパーチャージャーを組み合わせることで、競技モデルでは300馬力程度を出していた。
ターボではなくスーパーチャージャーとしたのは、当時大サイズのターボとした場合のターボラグが問題となっていたこともあり、ターボを使っているライバルたちへの対抗策の処置。ラリーでは下からキッチリとパワーが出るスーパーチャージャーを重視した結果だった。ただ、競技用のスーパーチャージャーを作ってくれるメーカーがなく、アバルトが自製したとされる。
また、ランチア・ベータクーペに似た伸びやかなデザインはピニンファリーナが担当したもの。ランチア・ラリーは、イタリアを代表するアバルト、ダラーラ、ピニンファリーナが結集して作り上げたクルマと言っていい。
世界ラリー選手権タイトル獲得の実績
WRCでは苦戦するかに思えたが、名門の意地もあって、1983年にはマニュファクチャラーズタイトルを獲得するなど、善戦。進化を続けるライバルに対抗して、マシンも排気量のアップやスーパーチャージャーの大型化によって、エボ2からエボ3へと進化して、パワーも最終的には350馬力を超えていたようだ。ただ、4WD化の波にはあらがえず、1985年のシリーズ途中で、4WDモデルのランチアS4にその座を譲り、役目を終えた。
総生産台数は参戦に必要とされるホモロゲ取得の最低台数である200台ほどとされるが、諸説あって確かなところは不明だ。200台のなかには、競技用のコンペティチオーネ以外に、ストラダーレと呼ばれる市販モデルも含まれている。ストラダーレのスペックはもちろん、コンペティチオーネよりも大人しいもので、出力は205馬力に抑えられ、車重も200kgほど重たかった。また内装もスウェード張りになるなど、ある程度の快適性も確保されていた。
オークション1億円落札の例も
コンペティチオーネは50台ほどが実戦投入されたと言われ、合計で200台作られたとしてもストラダーレは150台程度が存在する計算になり、日本にも10台ほどが「ガレージ伊太利亜」によって輸入された。
現在の取引価格についてだが、旧車の高騰が続く現在ではランチア・ラリーも例外ではなく、海外のオークションでは低走行距離のノンレストア車ではあるが、1億円で落札されて話題にもなった。
イベントでは見かけることもたまにあり、超レアとまでにはいかない。だがもし実車を目にすることがあれば、至るところに入れられたABARTHの文字などにも注目してみてほしい。本物だけが放つ強烈なオーラを感じるはずだ。
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