オーストラリア大陸を代表する“聖地”マウントパノラマで、10月5~8日に開催されたRSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップ最大の祭典『レプコ・バサースト1000』は、元7冠王者ジェイミー・ウインカップとペアを組んだブロック・フィーニー組(トリプルエイト・レースエンジニアリング/シボレー・カマロZL1)が終盤のトラブルで涙を呑み、代わって僚友の王者“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン/リッチー・スタナウェイ組が勝利を飾り、来季NASCAR挑戦を表明したチャンピオンが最後の“Great Race(グレートレース)”制覇を成し遂げた。
例年シーズン終盤戦に組み込まれるカップ制の耐久レースも、前戦『ペンライト・オイル・サンダウン500』に続き2戦目となり、引き続きペア登録のコ・ドライバーを迎え入れてシリーズの“魂”とも呼ぶべきバサーストでの第10戦を迎えた。
名門DJRが“ワイルドカード”マスタング披露。シモーナ・デ・シルベストロの98号車はイエローに/RSC
その記念すべき大会60周年のレースウイークを前に、チャンピオンシップに参戦するフォード陣営は、最新型のマスタングとシボレー・カマロZL1の性能調整に関する『Parity Review System(パリティ・レビュー・システム/同等性評価)』に疑義を唱え、シリーズに対し異例の変更要求を連名で提出。しかしスーパーカーの技術部門は一定の事実であることを認めながら、これを「拒否する」決議と声明を発表した。
そのリリース書き出しには「継続的な分析の結果、スーパーカーは独立したCFDパートナーであるD2Hグループと協力し、第7世代フォード・マスタングとシボレー・カマロZL1の間には依然として格差があることを認めています」と記された。
「したがって、技術的な同等性はまだ達成されていません。フォード・マスタングに提案されている空力的変更は、格差を是正する措置であると関係者全員が認めていますが、今週末の『バサースト1000』には実装されません」
しかしシリーズはGen3規程導入初年度の今季、たびたび話題に上がる『同等性評価』の審査基準を満たしておらず、今回の決定は規制に沿っていると主張した。
「年間を通して、我々の技術部門はパリティ・レビュー・システムに従い、同等性を管理してきました。このシステムは規則や規制に基づいて性能調整を評価し、実施するプロセスとして機能します」
「システムには連続5ラウンド、または連続8レースで潜在的な不均衡が評価されるトリガーポイントがあります。システムに概要が記載されているトリガーの規定数は現時点では満たされておらず、週末の『バサースト1000』に対してパリティ調整が行われる余地はありません」
■予選ではシボレーのコステッキが驚異的ポールタイム
こうして始まった週末は、金曜FP3こそマット・ペイン(ケビン・エストーレ組/ペンライト・レーシング/フォード・マスタング)が僚友デビッド・レイノルズ/ガース・タンダー組との1-2で気を吐いたものの、その他のセッションはほぼカマロ軍団が首位タイムを奪う展開に。
そのまま予選トップ10シュートアウトでも、今季トリプルエイト陣営のレッドブル・アンポル・レーシングと2強を形成してきたコカ・コーラ・バイ・エレバスのブロディ・コステッキ(デイビッド・ラッセル組/エレバス・モータースポーツ/シボレー・カマロZL1)が、ターン1出口でコースをハミ出しながらも、終盤セクターに向け猛烈な勢いで“山の頂上”を越え、前戦勝者フィーニー組を約コンマ5秒も突き放す驚異的ポールタイムを刻んでみせた。
「ターン1ですべてを投げ出したと思ったよ」と安堵の表情で認めたコステッキ。「でもダッシュボードにはタイムデルタが表示されていて、挽回する時間が少しあると思った。ちょっとしたミスで大損するだろうと思っていたんだけどね」
「クルマは頂上まで素晴らしかった。そこからは“放り出すように”丘を駆け下り続けて(ダウンヒル最後の)“ザ・ディッパー”を通過できてとてもうれしかった。“コンロッド”(ストレート)を下りるときは良いラップを走っていると分かっていたから、そこから詰める必要はなかったね」
迎えた決勝は、シグナルオフからフロントロウ2番手発進を決めた最強の“チームマネージャー”でもあるウインカップがダッシュを決めリードを奪うと、27周目に最初のセーフティカー(SC)が発動。ここでポルシェ契約ドライバーのエストーレがターン1でコースオフし、姿を消してしまう。
さらに、このSCピリオド中に首位フィーニーを追い抜いたとして、レイノルズ組のマスタングにペナルティが課せられ、ペンライト・レーシングのもう1台も大きくポジションを失うことに。
その後もアクシデントにより2回のSCで仕切り直しが入るなか、背後のSVG/スタナウェイ組の97号車を引き連れ1-2体制を守り続けたフィーニー/ウインカップ組の88号車にも、終盤136周目に悲運が襲う。
この日のワイルドカード枠となっていたクレイグ・ラウンズ/ゼイン・ゴダード組(トリプルエイト・レースエンジニアリング/シボレー・カマロZL1)の888号車にも出ていたギアレバー・ライザー(ベースプレート)のひび割れ症状が首位快走の88号車にも発生し、失意のフィーニーは残り25周でマシンを降りることに。
■絶対王者SVGは過去4年間で3度目のグレートレース制覇
決勝を通じて出走28台のうち24台が完走し、メカニカル関連のDNFは2台だけというGen3規定の高い信頼性が印象付けられたレースながら、なぜかトリプルエイト陣営の3台にのみこの症状が見受けられ、最終的にコステッキ/ラッセル組を20秒近く引き離してトップチェッカーを受けたSVG/スタナウェイ組の97号車も、レース後にはライザーに亀裂があったことが明かされるなど、終盤はクルマを労りながら薄氷の勝利を収める結果となった。
「僕らは週末を通して最速のクルマではなかったが、レースカーに向けて努力したんだ」と15年ぶりに“祭典”を連覇したドライバーとなり、過去4年間で3度目のグレートレース制覇を成し遂げたSVG。
「何て気分だろう……。リッチー(・スタナウェイ)は1日中素晴らしい仕事をしてくれたし、チームも良かった。ブロック(・フィーニー)、ジェイミー(・ウインカップ)、そして88号車のクルーたちのことを思うと本当に頭が下がる思いだ。レッドブル・アンポル・レーシング、ありがとう。ファンの皆のおかげで最高だった。本当に寂しくなるよ。この場所が大好きだ。また戻ってくるよ……」
一方、一時は現役引退を表明して表舞台を去りながらも、来季はペンライト・レーシングでフルタイムに復帰するスタナウェイも、バサースト初勝利というキャリア最高の勲章を手にした。
「あのとき(20代での引退表明)は間違いなく正しい決断をしたと感じていた。後悔はしていないし、実際に休暇を楽しんでいたんだ。退いてから(昨季の)ワイルドカードのチャンスまでの間に、復帰するという考えに対してオープンになれるだけの充分な時間があった」と改めて振り返ったスタナウェイ。
「そして刻が進むにつれ、フルタイムでレースに戻りたいという確信がますます強くなった。2018年、2019年の頃はかなり自分への信頼が低くなっていて、基本的な運転の仕方を忘れてしまったように感じていたんだけどね。今、このような素晴らしいチームに加わり、大きな自信を取り戻せた。すべてに感謝している」
これで2023年のグレートレース表彰台は、2位コステッキ/ラッセル組に続き、3位アントン・デ・パスカーレ/トニー・ダルベルト組(ディック・ジョンソン・レーシング/フォード・マスタング)が分ける結果となり、スタンディングでは首位コステッキに対しSVGがその差を131ポイントに縮める展開に。
続くRSC第11戦は、10月27~29日にサーファーズ・パラダイスのストリートサーキットで『ブーストモバイル・ゴールドコースト500』が開催され、従来のエンデューロ・カップ登録ラウンドには戻らず、レギュラーフォーマットの250km×2ヒート制が予定される。
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