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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】青旗処理と同時にタイヤ管理、バトルを展開。大きな可能性を感じさせたミック

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】青旗処理と同時にタイヤ管理、バトルを展開。大きな可能性を感じさせたミック

 コロナ禍でのカレンダー変更により、今年も開催が決まったF1ポルトガルGP。昨年舗装された路面の状況は改善されておらず、低いグリップでアップダウンの激しいコースを走る難しい週末となった。ルーキーふたりにとっては厳しい週末が続くが、それでもレース終盤にミック・シューマッハーが見せたバトルは見事だった。そんなハースの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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グロージャン、夢のメルセデスF1走行が母国フランスGPで実現へ。2019年タイトル獲得車W10でデモラン

2021年F1第3戦ポルトガルGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝19位
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝17位

 今年も新型コロナウイルスの影響でカレンダーが変更になり、昨年に続いてポルトガルでの開催となりました。昨年のコラムでも書きましたが、このアルガルベ・サーキットは起伏に富んでいてただでさえ難しいサーキットなのに、グリップが非常に低くふたりとも金曜日のFP1では特に手こずりました。昨年舗装された路面は1年経ってもう少しよくなっているかと思ったのですが、予想以上にグリップが低かったです。

 そして午後のFP2では予報どおり風が強くなったので、さらに新たな要素が加わった(起伏+低グリップ+風)状態になり、新人ふたりにとっては本当に大変でした。それでもミックは難しいクルマで果敢に攻めていたと思います。イモラでの反省点を活かして、走り出しからなるべく早い段階でクルマの限界に挑戦しようという姿勢がよく現れていました。チームからの意見をすぐに取り入れて、実行に移す能力には本当に感心します。ニキータも難しい状況でなんとか頑張っていましたが、彼は安定しないクルマにミック以上に苦労していました。

 金曜の夜には走り方も含めてよくデータを見直しました。特にニキータは改善することが山積みだったので、何がドライビングで解決できるのか、何をクルマのセットアップで解決しなければいけないのかをよく話し合いました。比較的ミックは金曜のクルマで満足していたのですが、データをみると、とてもじゃないけどレースができるクルマではないというのは明らかだったので、レースを見据えて変更を行いました。

 ふたりともFP3ではクルマの安定性が大きく改善されているのが感じられ、金曜からのセットアップ変更の方向性が正しかったことが確認できたうえに、ニキータは自信を取り戻してきて一歩前に進むことができました。ミックは15番手という順位でしたが、特に順位は重視していません。アストンマーティンの2台はトラックリミット違反によりソフトタイヤでタイムを出せていませんでしたし、ウイリアムズの2台も予選になればエンジンのパワーを上げてくることがわかっていたからです。

 予選では1周目にタイムを出すにはタイヤの温まり方がまだいまいちよくなかったので、2周目にタイムを出すことを目標としました(1周目に10秒ぐらい遅く走りながらタイヤを徐々に温める方法です)。またトラックリミットでタイムを抹消される可能性があるので、なるべくラップタイムを記録する機会を与えようと、計4周するラン(準備→プッシュ→リチャージ→プッシュ)を2回行うプログラムを組みました。

 ミックはタイヤの一番グリップが出るおいしいところを使い切れず、タイムが伸びませんでした。上手くやればあとコンマ3秒ほどいけたと思います(1分20秒1あたり)。ニキータは過去2戦に比べてうまく走っていたのですが、最後のアタック周の最終コーナーで3台のクルマに引っかかってしまい、タイムが出せませんでした。ミックのコンマ5秒落ちの1分20秒6あたりが今回の限界だったのではないでしょうか。まだすべてをまとめて実力を出し切るというところまではいっていませんし、決して満足できる予選結果ではありませんが、それぞれにいいところ・可能性は確実に見えてきています。

■次のページ:プレッシャーを与えつつ青旗処理も確実にこなし、最後はミスを誘ってオーバーテイク
 決勝レースでは、ミックはよくやってくれました。第1スティントでニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に詰まっていた時も、タイヤをきちんと労わって無理をしませんでしたし、第2スティントではメルセデスPUのウイリアムズを抜くことがかなり困難でフラストレーションが溜まっていたにも関わらず、しっかりとプレッシャーをかけ続け、最後はラティフィのミスを誘いました。

 またラティフィにアタックをかけながらも常に青旗を上手く処理しなければなりませんでしたが、これも上手くやりました。3戦目にして、とてもいいレースをしてくれたと思います。先にも書きましたが、彼の凄いところはスポンジのように物事を吸収してどんどん実行に移していくところです。一緒に仕事をしていてとても楽しいですし、大きな可能性を感じさせます。

 一方ニキータですが、やはりまだミックと同じようなペースでは走れませんが、第1スティントはスムーズにまとめました。第2スティントでは青旗を掲示される回数が多くなることが目に見えていたので、それを避けるために再度ピットインしてソフトタイヤに履き替えました。この方が彼にとってもチームにとっても良い情報が得られると思ったからです。

 ニキータがこの2度目のタイヤ交換を終えてピットアウトした際にペレスが2秒後ろにいたのですが、レースエンジニアからの指示が遅れ、3コーナーでペレスを妨害してしまいました。チームが正確な情報を的確なタイミングで与えなかったゆえに起こったことなので、ニキータ自身に非はありません。今回の彼は落ち着いて比較的安定したレースができていたと思います。次の課題は全体的なペースアップですね。

 全体的に見て、ミディアムタイヤの保ちがよかったように見えるかもしれませんが、こちらとしては想定通りです。ミックは第1スティントでうまくタイヤを労わってはいたものの、ラティフィの後ろで詰まっていたのでやはり少し磨耗が進んでいました。32周目にピットインしましたが、タイヤだけの観点で言えば、もう少しいけたと思います。

 しかしこの周はちょうどジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)とラティフィがセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)の青旗でタイムを落としていたところで、ピットインすればこのウイリアムズの2台の前に出られるチャンスだったのでミックをピットに入れました。作業もうまくいき、ギリギリでしたがウイリアムズの2台を逆転して、彼らの前でコースに戻りました。ハードタイヤの温まりがいまいちで、残念ながらすぐに抜き返されてしまいましたが、これが最善策だったと考えています。

 ニキータをその前の31周目でピットインさせたのは、レースリーダーのルイス・ハミルトン(メルセデス)が迫ってきていたからです。青旗を振られる前にピットインしてタイムロスを防ごうと思っていたのですが……。今年のクルマの競争力では、どうしても青旗対策が戦略の一部になるのでこのあたりをうまく活かさないといけないです。

 次は連戦でバルセロナです。ここでも確実に次のステップをふんでいきたいと思います。

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