現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 第1四半期決算へのトランプ関税の影響【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

ここから本文です

第1四半期決算へのトランプ関税の影響【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

掲載 1
第1四半期決算へのトランプ関税の影響【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

車のニュース [2025.08.15 UP]


第1四半期決算へのトランプ関税の影響【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●マツダ、フォード

【2025年夏】今後の動きも要チェック! 国産ニューモデル最新情報9選

 2025年第1四半期発表の自動車メーカー各社の決算発表が行われ、国内メーカーのほとんどが利益をダウンさせた。第1四半期の3ヶ月を通して、トランプ関税により、米国向け輸出に25%関税が課されたことが原因である。ただしこの状況が長く続くわけではない。価格は相対的なものだからだ。

 そもそも関税とは輸入品に課税して売価を高くすることで、相対的に安い国産の販売を促進することが目的である。当然のこと輸入車が高くなり、国産車が安くなければ成立しない。

 欧州や韓国など、日本以外からの米国への輸入車は多少の税率の差こそあれ課税対象となるはずで、日本と条件はイーブン。中国に至っては100%課税で、米国マーケットから締め出しを食っている。


マツダは2026年3月期の業績予想として、496億円の関税負担を想定している(マツダ「2026年3月期 第1四半期決算」資料より抜粋)
 つまりトランプ関税下の米国内市場で課税された日本車と競合するクルマは、他国からの輸入車ではなく「実質的に米国内で製造される米国車と他国籍車」だ。ところが、20年ほど前から国際分業化が進み、米国内生産のクルマも人件費の安いメキシコからの部品調達がコスト削減の主要手段となっている。米国内産のクルマのかなりの部品がカナダやメキシコ製なのだ。

 これはUSMCA(米、カナダ、メキシコの非関税貿易協定)を利用した国際分業生産システムだったが、今回の一連のディールの中で、紆余曲折の末、米政府は「USMCA圏内からの輸入でも、金額ベースで米国製でない部品代(例えば50%)は課税対象にする」という無茶な要求を突きつけて紛糾中。これがまだ決着していない。

 もし本当にUSMCA圏からの部品比率に応じた課税対象になるのであれば、日本からの輸出車のみならず、他国からの輸入車も、米国国内生産車も、多少の税率の違いこそあれ全部課税されることになる。

 天秤の両側に比較対象が乗るまでどちらが上がるか下がるかはわからない。いずれにしてもUSMCAの扱いがどうなるかに依拠するので、それまでは日本が有利とも不利とも言えない。当然巷間に膾炙(かいしゃ:知れ渡り評判になっている)する個社に対する悲観論も楽観論も根拠がないことになる。

 それでもひとつ言えるのは、国籍単位で考えれば米国の自動車メーカーはかなり純度の高いドメスティックブランドであり、日本でも欧州でも中国でもASEANでも、およそ海外で売れない。つまり販売台数のほぼ全数が米国内販売であり、ほぼ例外なく今回の関税政策に巻き込まれる。一方で日本のメーカーは、仮に米国で利益が飛んでも、母国や他国では従来通りのビジネスができる。そう考えるとあながち日本が不利とは限らないように思える。

 では何故国内各社は、第1四半期利益を大きく減らしたのかと言えば、この3ヶ月の方針として、ひとまず関税25%を価格転嫁せずに、利益から吐き出したからだ。8月7日には関税率が15%に下がる見込みだったが、自動車についてはその発動日が例外で未定ということで、まだ25%が続いている。今回の交渉は米国側が押したり引いたりを繰り返し、落とし所が一向に決まらない。その中で経営判断をする側は大変だと思う。


マツダ防府工場から自動車専用船に積み込む様子
 無論いつまでも、価格転嫁を回避したまま引っ張るわけにはいかない。ただしできればどこの社も、価格転嫁の先頭を切りたくない。できれば、USMCAの交渉が不調に終わって、米ビッグ3辺りが値上げの口火を切ってくれることを待っているのだ。

 また日本メーカーの経営層数名に取材したところ、仮に関税が続くとしても、米国への生産移管は考えにくいという。米国の高い人件費と物価を織り込むと、仮に当初の25%の関税だったとしても日本で作った方が安いというのだ。

 結局、今回のトランプ大統領の無茶な政策の根本にあるのは、米国の賃金が高いことに端を発している。USMCA圏で、カナダやメキシコに製造業がシフトしたのは米国の人件費、土地、物価が高いからに他ならない。上で述べた経営陣の発言に鑑みれば、米国が日本の人件費に対抗するためには25%の関税でも補正しきれないということを意味する。

 実際、こうやって関税をかけて、各種製造業が米国内回帰を図れば、人件費の需給が締まってより高騰するだろう。完全な逆風を自分で呼ぶことになる。政策や規制で経済の自然規律を動かそうとすると莫大なコストがかかる。それは台風や地震のエネルギーと戦うくらい大変なことだと思うのだ。


フォード社のジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は2025年2月の決算説明会で関税について「米国で大きな戦略転換を行い、新工場を建設する必要が出てくる」とコメント。米国企業も大きな影響を受けると懸念を表明した
 ということで、長期的にはトランプ関税は米国に大きなインフレを招くことが予想され、米国民の支持が受けられないと思われる。雇用を増やし、所得を上げるための政策のはずが、おそらくは企業の健全な発展を妨げ、物価高を招く。この関税を根本的に見直さない限り多分そのルートは避けられないと思われる。

 ただし結果が出るまでにはある程度時間がかかる。それまでの過渡期においては、個社それぞれに振り回されることになるだろう。そこは我慢のし所だと思うので、強い意志を持って耐えてくれることを祈る。

文:グーネット

関連タグ

【キャンペーン】第2・4金土日は7円/L引き!ガソリン・軽油をお得に給油!(要マイカー登録&特定情報の入力)

こんな記事も読まれています

メルセデス、最初の公式写真公開 2026年にメルセデスは12年ぶりにGクラス カブリオレを復活させる!最新情報をお届け!
メルセデス、最初の公式写真公開 2026年にメルセデスは12年ぶりにGクラス カブリオレを復活させる!最新情報をお届け!
AutoBild Japan
「埼玉の新しい大幹線」がついに東京へ延びる! 「新東京所沢線」道路形態あきらかに「最終の仕上げをしています」
「埼玉の新しい大幹線」がついに東京へ延びる! 「新東京所沢線」道路形態あきらかに「最終の仕上げをしています」
乗りものニュース
499万円! 新「小さな高級車」発表! 全長4.3m“ちょうどいいボディ”に「専用の内外装」採用! パワフルな1.5リッター「直4」搭載! アウディ「A3スポーツバック」アーバンスタイルエディション登場!
499万円! 新「小さな高級車」発表! 全長4.3m“ちょうどいいボディ”に「専用の内外装」採用! パワフルな1.5リッター「直4」搭載! アウディ「A3スポーツバック」アーバンスタイルエディション登場!
くるまのニュース
メルセデスベンツ『Bクラス』、「Urban Stars」追加…AMGライン標準装備で575万円から
メルセデスベンツ『Bクラス』、「Urban Stars」追加…AMGライン標準装備で575万円から
レスポンス
レッドブルの黄金コンビが解散? ランビアーゼ、来季はフェルスタッペンの担当レースエンジニア退任か
レッドブルの黄金コンビが解散? ランビアーゼ、来季はフェルスタッペンの担当レースエンジニア退任か
motorsport.com 日本版
レンジローバー・スポーツ2026年モデル登場!『P530』&『SV』追加【ビスポークサービス導入】
レンジローバー・スポーツ2026年モデル登場!『P530』&『SV』追加【ビスポークサービス導入】
AUTOCAR JAPAN
ヤマハ「YZF-R9」欧州で2026年モデル発表 創立70周年記念カラーに注目 SNSで反響
ヤマハ「YZF-R9」欧州で2026年モデル発表 創立70周年記念カラーに注目 SNSで反響
バイクのニュース
NEXCOが大激怒「告発も考えます!」 「4年で21回も“不正通行”」した超・悪質事業者を名指しで発表! ルール“完全無視”で「規格外車両」を何度も運行 是正指導を公表
NEXCOが大激怒「告発も考えます!」 「4年で21回も“不正通行”」した超・悪質事業者を名指しで発表! ルール“完全無視”で「規格外車両」を何度も運行 是正指導を公表
くるまのニュース
事故るとパニクるのは仕方ない! それでも覚えておきたい事故直後にやるべき3つの行動
事故るとパニクるのは仕方ない! それでも覚えておきたい事故直後にやるべき3つの行動
WEB CARTOP
高市政権で最悪化する日中関係! トヨタ・日産が直面する中国「戦略資源」報復――サプライチェーン断絶の危機を考える
高市政権で最悪化する日中関係! トヨタ・日産が直面する中国「戦略資源」報復――サプライチェーン断絶の危機を考える
Merkmal
また!? アメリカ肝いりの新型艦計画「やめます」「代わりは急いで造れるものを」 鍵は日本にあるのでは?
また!? アメリカ肝いりの新型艦計画「やめます」「代わりは急いで造れるものを」 鍵は日本にあるのでは?
乗りものニュース
オトナの余裕を感じるよね! 快適に、ゆったりトコトコ走れるミドルクラスのネオ「レトロバイク」3選
オトナの余裕を感じるよね! 快適に、ゆったりトコトコ走れるミドルクラスのネオ「レトロバイク」3選
VAGUE
「800万円!? 」「チャンバー美しい…」公道仕様の2スト250cc新車ネイキッドが販売中
「800万円!? 」「チャンバー美しい…」公道仕様の2スト250cc新車ネイキッドが販売中
WEBヤングマシン
ポルシェ『911カレラT』、「Sonderwunsch」プログラムでカスタム…台湾の自然美を表現
ポルシェ『911カレラT』、「Sonderwunsch」プログラムでカスタム…台湾の自然美を表現
レスポンス
BMWグループに新CEO、ミラン・ネデリコビッチ氏が2026年5月就任へ…オリバー・ツィプセ氏の後任
BMWグループに新CEO、ミラン・ネデリコビッチ氏が2026年5月就任へ…オリバー・ツィプセ氏の後任
レスポンス
フォード、低価格EVにルノーの技術採用へ 欧州市場シェア回復急ぐ 『フィエスタ』後継車も登場か
フォード、低価格EVにルノーの技術採用へ 欧州市場シェア回復急ぐ 『フィエスタ』後継車も登場か
AUTOCAR JAPAN
“6年ぶり復活”のトヨタ「ルミオン」に「新型モデル」登場! “シエンタより大きい”「全長4.4m級コンパクトミニバン」に「ぐっと良くなった」「存在感ある」声も! 新たな南ア「3列7人乗りマシン」が話題に
“6年ぶり復活”のトヨタ「ルミオン」に「新型モデル」登場! “シエンタより大きい”「全長4.4m級コンパクトミニバン」に「ぐっと良くなった」「存在感ある」声も! 新たな南ア「3列7人乗りマシン」が話題に
くるまのニュース
日本人レーシングドライバーから見たドイツ道路事情と日本車の実力【みどり独乙通信】
日本人レーシングドライバーから見たドイツ道路事情と日本車の実力【みどり独乙通信】
Auto Messe Web

みんなのコメント

1件
  • krn********
    安心の池田さんの記事。日本の各自動車メーカーだけでなく、米国メーカーたちの本音までしっかり拾い上げていて、この業界の動きがよくわかる。個人的に某自動車メーカーの株主であり、関税の動きに伴う各社決算情報は注視してるが、今年の決算内容は各社苦しむだろう。しかしこれで終わるはずもなく、各社の血の滲む努力でなんとか立て直してくれると信じている。目先の株価に踊らされることなく、しっかり各社を応援したい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村