ニュルブルクリンクで最終的な微調整
日産マーチ(マイクラ)には少し特別な思い入れがある、という読者もいらっしゃるだろう。残念ながら現在の日本では、現行の5代目(K14型)を購入することはできない。だが、約20年前の3代目(K12型)にも、欧州でしか買えない特別なマーチがあった。
【画像】日本未導入の1.6L版 日産マイクラ 160SR 最新マイクラとフェアレディZ 同クラスの和製現行ホットハッチも 全108枚
2005年から2008年にかけて、英国日産が提供していたのが、マイクラ 160SRだ。途中でマイクラ・スポーツSRへ一時的に改名されているが、160が示したのは馬力ではない。4気筒エンジンの排気量、1600ccへちなんだものだった。
現実的には113psと、期待ほどの最高出力は発揮しなかったものの、車重は約1tと軽量。0-97km/h加速を9.8秒でこなした。
それ以上に当時のドライバーを喜ばせたのが、コーナリング。シャシーのチューニングを手掛けたのは、英国のクランフィールドに位置する日産テクニカルセンター。Z33型フェアレディZ、350Zを欧州仕様にチューニングした、精鋭によるものだった。
彼らはノーマルのマイクラをベースに車高を落とし、スプリングレートをフロントで20%、リアで10%強化。リアのトーションバーは55%硬くなり、フロントのアンチロールバーも引き締めた。最終的に、ロール剛性は27%向上している。
さらに、トラクションコントロールを追加し、ステアリングの重み付けをプラス。ドイツ・ニュルブルクリンク・サーキットで、最終的な微調整が加えられた。
適度にホットで実用的なハッチバック
スタイリングは、テールゲート上のスポイラーとフロント・フォグライトなどで差別化。16インチの専用アルミホイールで、足元は飾られた。キャビンには、スポーツシートが2脚。ちなみに、パーキングセンサーも備わる。
完成したマイクラ 160SRの英国価格は、2005年でも安価といえた1万ポンド以下。「手頃な価格で運転が楽しく、装備は充実。適度にホットで、実用的なハッチバックをお探しなら、期待へ応える1台になります」。と、当時のAUTOCARは評価している。
3代目マイクラがこれほどの評価を得るとは、発表当時は誰も想像しなかっただろう。
残念なことに、マイクラ 160SRは英国でも極めて希少。もしこれに近い3代目をお探しなら、SXグレードが良いだろう。アルミホイールとスポイラー、アルミニウム製シフトノブ、フォグライトなどを装備し、2004年に登場している。
また英国仕様では、SVEも悪くない。パーキングセンサーやリモートロックなどが装備される、上級グレードだ。
新車当時、3代目マイクラの個性的なスタイリングには、賛否両論があった。日産は、見た目を優先して開発したことを認めていたが、少し未来を先取りしすぎていたのかもしれない。160SRのエンブレムが誇らしく輝く後ろ姿は、今では確かに格好良く見える。
新車時代のAUTOCARの評価は
マイクラ 160SRには優れた訴求力がある。エンジンは意欲的に回り、ステアリングホイールはノーマルより重めで、充分な感触が伝わってくる。
5速MTは、軽快に次のギアを選べる。シフトレバーのストロークは長めながら、正確にゲートを辿れる。シャシーは引き締まり、落ち着いていて機敏。荒々しい特性はなく、本当に運転が楽しい。
専門家の意見を聞いてみる
サイモン・ガズデン氏:LSカーセールス社
「先日、マイクラ 160SRを5000ポンド(90万円)で販売しました。2008年式で、走行距離は4万8000kmほど。年配の紳士が乗られていたクルマで、とても状態の良い1台でしたね」
「ABSシステムが不調になり、交換部品が見つからず車検が通らなくなったことを理由に、やむなく手放されたクルマでした。この年代のマイクラの部品は、入手が難しくなっています」
「調べたところ、マイクラ C+Cと呼ばれるコンバーチブル用の部品が使えるとわかったんです。新品で400ポンド(約7万円)もしましたよ」
「お問い合わせを沢山頂きましたが、最終的に160SRを購入した男性は、特別なマイクラだとは理解していませんでした。妻のために、高速道路を走れて信頼性が高く、ある程度の動力性能を持つハッチバックを探していただけのようです」
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
1.6Lエンジンは、タイミングチェーンでバルブが駆動されている。チェーンが伸びる可能性はあるので、エンジンからの異音がないか確認したい。冷間時にディーゼルエンジンのようにノイズが大きくなるなら、早めの交換を考えたい。
回転が安定しなかったり、吹け上がりがもたつく場合は、マスエアフロー・センサーの不調かもしれない。
トランスミッションとブレーキ
1速への入りが悪い場合は、エンジンマウントのヘタリが原因かもしれない。シフトレバーのストロークは長いものの、動きが軽く、正確にゲートを往復できるのが本調子。
ABS警告灯が点灯していないか確かめる。上記の通り、マイクラ C+Cの部品で修理はできる。
ボディ
雨水が侵入し、テールゲートのロックが不調になる場合があるようだ。
知っておくべきこと
マイクラ 160SRは非常に珍しい。もし特別な3代目をお探しなら、マイクラ C+C 1.6スポーツという選択もある。同じ1.6Lエンジンを搭載し、乗り心地もハンドリングも好ましい。フォールディングルーフはドイツ・カルマン社製で、ボタン1つで開閉できる。
装備内容は160SR以上。英国の中古車市場ではC+C 1.6スポーツの方が流通量は多く、お値段もお手頃だ。
ちなみに、マイクラ 350SRというワンオフモデルも2005年に作られた。ニスモがチューニングした350Z用のV6エンジンをミドシップし、最高出力は309psを誇る。トランスミッションは、日産アルティマ(マキシマ)用の6速マニュアルが組まれていた。
0-100km/h加速は5秒を切り、ナンバーを取得し一般道の走行を可能にしていた。「過剰なドラマチックさはなく、ただひたすら速い。地上最高のエンジンサウンドを響かせる」。と、当時試乗したAUTOCARはレポートしている。
英国ではいくら払うべき?
1500ポンド(約27万円)~1999ポンド(約35万円)
初期のマイクラ 160SRを英国では探せる価格帯。状態が良く走行距離の短い、マイクラ C+C 1.6スポーツも探せる。
2000ポンド(約36万円)~3999ポンド(約71万円)
走行距離は長めながら、状態の悪くないマイクラ 160SRを選べる価格帯。マイクラ C+C 1.6スポーツも多く出てくる。
4000ポンド(約72万円)以上
状態が良く、走行距離が短いマイクラ 160SRをお探しなら、この価格帯まで予算を増やしたい。
英国で掘り出し物を発見
日産マイクラ 160SR 登録:2008年 走行距離:4万3400km 価格:5000ポンド(約90万円)
英国の中古車市場で流通しているマイクラ 160SRで、最高値の1台。売り手によれば、ディーラーによる整備記録が一式残っており、走行距離も改ざんはないという。2オーナー車で、2010年以降は1人が大切にしてきたとのこと。状態は良さそうだ。
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