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【GT300マシンフォーカス】「同じ仕様で走ったことは一度もない」デビューイヤーのHOPPY Schatz GR Supraが抱えた苦悩と自信

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【GT300マシンフォーカス】「同じ仕様で走ったことは一度もない」デビューイヤーのHOPPY Schatz GR Supraが抱えた苦悩と自信

 スーパーGT GT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2022年シーズンの第7回はHOPPY team TSUCHIYAが走らせる『HOPPY Schatz GR Supra』が再登場。この企画二度目の登場となるが、シーズン中のアップデート、そしてテストでのクラッシュから復活を遂げた“ホピ子2”のデビューイヤーを振り返る。

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松井孝允移籍の衝撃。HOPPY team TSUCHIYA土屋監督の思いとTEAM MACHへの助け合いの輪

 スーパーGT GT300クラスを戦うGTA-GT300規定のトヨタGRスープラのなかで、やや異質の存在となるHOPPY Schatz GR Supra。LMcorsaのSyntium LMcorsa GR Supra GTとMax RacingのHACHI-ICHI GR Supra GTは、埼玉トヨペットGB GR Supra GTを祖とする“オリジナル”をベースとしているが、HOPPY Schatz GR SupraはHOPPY team TSUCHIYAの独自設計となる。

 ただし、GT300規定のGRスープラGTはトヨタがホモロゲーションを受けており、根幹となる部分は4台共通だ。そのなかで車両設計をHOPPY team TSUCHIYAの木野竜之介エンジニア、空力デザインを土屋武士代表が担当した。その違いを武士代表は「人の身体で言えば胴体の骨がまったく同じで、“手足”が違うという感じでしょうか」と語っていた。

 オリジナルの3台が、それぞれのデビューイヤーで勝利を手にしたのに対し、HOPPY Schatz GR Supraのデビューイヤーは厳しいものだった。2022年シーズンは、GTA-GT300規定車両の参加条件がパフォーマンスダウンの方向に改められたこともあるが、それ以上に“産みの苦しみ”を味わった。

 HOPPY Schatz GR Supraは2022年シーズン、第1回岡山公式テストには車両が完成せず不参加となり、第2回の富士公式テストでシェイクダウンを果たすが、開幕戦岡山の予選では駆動系トラブルにより出走することができなかった。そして第4戦富士の前に行われた鈴鹿タイヤメーカーテストに参加すると、ステアリング系のトラブルによって130Rでコントロールを失い大クラッシュ。幸いにもドライブしていた野中誠太に怪我はなかったが、「フロントまわりは全部作り直さないとけいない状況でした」と木野エンジニア。「ドライバーを危険な目に遭わせてしまったことを深く反省して、設計を見直しました」と続けた。

 プライベーターであるHOPPY team TSUCHIYAは、潤沢な資金があるわけではない。創意工夫を凝らせる独自設計としたのは、職人集団として「自分たちで作りたい」という強い思いとともに「コスト削減」が大きな理由にある。木野エンジニアが開発時の状況とクラッシュ後の改善策を明かしてくれた。

「この車両は、つちや(エンジニアリング)にあったかつての車両の部品などをうまく流用しながら設計しました。つちやの歴史は長いので(土屋)春雄さんが作った在庫もたくさんあります。できるだけ新作する部品を減らしてコストを抑えていました。ですが、少し無理やりといいますか、流用設計したことで構造上の穴がありました。設計ミスです」

「ステアリング系のトラブルは、三重に固定していたすべてが壊れてしまったことが原因です。当然、壊れると思って作っているわけではないですけど、安全に関わる部分はどこまで慎重になっても足りないんだなと反省しました。その部分は流用そのものをやめて、本来あるべきオリジナルの部品で作り替えたので、同じ症状は絶対に起こらないはずです」

 クラッシュによるフロントまわりの破損状況は激しく、フロントカウルの修復はもちろん、ダメージを負ったエンジンも載せ替える必要があった。チームはしっかりと直すことを優先し、第4戦富士の欠場を決断。フロントバンパー内やボンネットのダクト類も、流用の“一点もの”だったこともあり、「どうせ作り直すなら」と形状を見直し、よりクオリティが高いものに改めた。外観が大きく変わるような変更ではなかったが、その小さな変化が、GTA-GT300規定車両にとっては大きな変化になることを、その後チームは痛感する。

 3月下旬のシェイクダウン以降、職人集団は休むことなく車両を進化し続けてきた。「同じ仕様で2回走ったことは一度たりともない」と木野エンジニアは笑う。

 当初、リヤウイングの翼端板やディフューザーの両端は、ベニヤにウエットカーボンを貼り付けたものだったが、協力者に学んで自分たちで型を作り、設備を借りてチームスタッフのハンドレイアップによってドライカーボン製に変更している。HOPPY Schatz GR SupraはオリジナルのGRスープラGTよりも軽く作れたことがメリットのひとつだが、さらなる軽量化を果たした。車両重量はGTA-GT300規定のGRスープラGTに合わせなければならないが、バラストの調整で重量バランスを突き詰めることができるわけだ。

 また、エキゾーストエンドはオリジナル同様に横へと排気する形状だったが、車両に沿わせて排気を後ろに流す形状に作り直した。エキゾーストエンドの後方にはステンレス製のフィンを設置し、排気ガスを利用したダウンフォース増強デバイスとして機能させている。

 これらプラスアルファは、第3戦鈴鹿までの進化だ。走行後にラジエターを冷やす送風機を使い、ボディに糸を垂らして空気の流れ方や渦のでき方をスポット的にではあるが確認しつつ、小さなフィンなどの追加と修正を毎戦のように進めてきた。それらを積み重ね、第3戦鈴鹿の後にスポーツランドSUGOで行われたタイヤメーカーテストでチームは手応えを感じていた。しかし、その後の鈴鹿タイヤメーカーテストで、クラッシュを喫する。

■第5戦では予選結果に消沈も、決勝での収穫に手応え「クラッシュも無駄ではなかった」
 第4戦富士をスキップし、迎えた第5戦鈴鹿は“二度目のシェイクダウン”でもあった。その走り出し、土曜日午前の公式練習ではマイナートラブルが発生してしまい思うように走り込むことができなかった。それでも予選Q1はA組9番手、総合17番手と今季最上位のグリッドを得た。Q1A組突破に足りなかったのは、わずか1000分の9秒だった。

 しかし、チームはこの結果に消沈していた。グリッドは上がったが、第3戦鈴鹿よりラップタイムが落ちたためだ。

「全体的なダウンフォースレベルを上げようと、良かれと思いダクトの形状を変えたのですけど、エアロバランスが崩れてパフォーマンスが下がってしまいました。フロントのアンダーパネルも形状は同じですけど交換していて、個体差によってやはり変わってしまいます。剛性が落ちてたわんだり、下面を擦って形が変わったりします。レーシングカーは非常に繊細で、外観は同じでもダクト類などの変更だけでも(パフォーマンスに)影響します。特にフロントまわりは、リヤまでの空気の流れをすべて変えてしまうから難しいです」と木野エンジニア。

 2016年にマザーシャシー(MC)のVivaC 86 MCで、当時現役ドライバーだった武士代表とともにドライバーズチャンピオンとなった松井孝允も、MCとGTA-GT300規定車両の違いを証言する。

「どちらもコーナリングマシンですが、MCは軽さが一番の武器で『止まる・曲がる』でタイムを稼いでいました。GTA-GT300車両は下面である程度の自由度があるので、ダウンフォースの重要度は高いと感じます」

 また松井は、クラッシュ前後での走行フィーリングの違いも明かしてくれた。

「第5戦鈴鹿のレースウイークで走り始めて、『あれ? ダウンフォースが減ったな』というのが第一印象でした。あらためて、このスープラはダウンフォースで走るクルマだということを理解できました」

 ライバルのGTA-GT300車両の多くがCFD(流体力学)解析や風洞テストでエアロ開発を行っているのに対し、HOPPY team TSUCHIYAではその予算が組めない。富士のような直線が長いサーキットならダンパーストロークなどである程度の解析はできるというが、それ以外のサーキットでは「ドライバーのコメントと、あとは純粋にラップタイム、セクタータイム、ロガーデータの比較になります」と、木野エンジニアがあらためてエアロダイナミクスの難しさを吐露する。

 だが、第5戦の決勝を戦い終えたふたりの表情は明るかった。

「450kmをしっかりとレースペースで完走できたことは大きな収穫でした」と、多くの情報を得られたことに前を向く木野エンジニア。松井からは、その実を聞くこともできた。

「クラッシュするまでは、この部分が速かったんだなと、あらためて発見できました。このスープラが持っているポテンシャルを引き出すには、どの部分を伸ばしていけばいいか、より的を絞れたと思います。クラッシュも無駄ではなかったと、チームのみんなで分かち合うことができました」

 そして第6戦SUGO。HOPPY Schatz GR Supraは、ダクト類などをできる範囲でクラッシュ前の状態に戻してきた。そして、予選Q1A組で松井が6番手タイムを刻み、Q2では野中が6番グリッドを獲得。決勝は雨に翻弄される展開となったが、10位で初入賞を果たした。「ドライだったらもっと上の順位になれた自信はあったんですけど」と木野エンジニアは悔しさも口にするが、ヨコハマタイヤユーザーとしては2番手、GTA-GT300車両としては3番手という好結果だった。

 実質5戦目での入賞を木野エンジニアは早いと感じたのか? 遅かったと感じたのか?

「クルマを作っているときは開幕戦で勝つつもりでいましたからね(笑)。それは少し言いすぎですけど、1戦欠場して修理をしたら(クルマのキャラクターが)変わってしまって、三歩進んで二歩戻るみたいなシーズンでした。時間はかかりましたけど、やっとスタート地点に立てた感じです」

 結果的に、HOPPY Schatz GR Supraの2022年シーズンのベストリザルトは第6戦SUGOだった。チームは来季に向け、すでに動き出している。

「予定していることもありますし、やりたいことはいっぱいあります。できたらCFDをやりたいと思って、3Dスキャナーを自腹で購入しました。まだ、できるかは分からないですけどね。当然、未熟なところはありますが、僕もチームのみんなも、全員が自信を持ってやっています。みんなの志は高いです。だって、7戦6勝(1998年全日本GT選手権。つちやMR2はシリーズ6戦中5勝、オールスター戦でも優勝)の土屋春雄がいるんですから」

 HOPPY team TSUCHIYAは、偉大な先人の背中を追い続けている。

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