7代目「ファントム」から始まったグッドウッドにおけるロールス・ロイスの歴史
ロールス・ロイス・モーター・カーズがグッドウッドで本格的な生産を開始した当初、生産モデルは7代目となる「ファントム」1種類のみであった。
Sクラスや7シリーズではなくレクサスの「LS500h」を選ぶ理由
2003年1月1日午前0時1分、完成した最初の車が新しいオーナーに引き渡される特別なセレモニーが行われた。
この歴史的な瞬間以来、グッドウッドでは20種類ものモデルやバリエーションが創造され、手作業で製造されてきた。これは毎年1モデルずつに相当する。
今日のロールス・ロイスのモデル・ファミリーは、デザイン、テクノロジー、素材、手法における、20年にわたる絶え間ない革新と進歩を反映している。
ファントムと、その兄弟モデルのファントム・ドロップヘッド・クーペ、ファントム・クーペに続き、より親しみやすいゴーストは、ロールス・ロイスが1904年の創業以来、生産してきた車の中で最も販売台数の多いモデルとなっている。
製品ファミリーは、ロールス・ロイスのポートフォリオの中で最もパワフルなモデルであるレイス(2013年)と、最も魅惑的なモデルであるドーン(2016年)を経てさらに成長し、2018年には「SUVのロールス・ロイス」カリナンが加わった。カリナンは、現在、世界で最も魅力的で人気の高いラグジュアリー製品のひとつと見なされている。
ファントムを除く現行の全モデルに、ブラック・バッジ仕様が用意されている。ロールス・ロイスというブランドをより破壊的、反抗的に表現したいという新しいタイプのオーナーのために創られたこの常設のビスポーク・シリーズは、現在、ロールス・ロイスの総生産量の3分の1以上を占めている。
2003年以降、ホーム・オブ・ロールス・ロイスの設計チームとエンジニアリング・チームは、数々の実験的な車を生み出してきた。伝統に従い、こうしたエクスペリメンタル・モデルには、1950年代までロールス・ロイスの技術者が試験・開発時の機密保持のために使用していた「EX」という名称と、特徴的な赤地に銀色の「RR」バッジが与えられた。
これらの車は市販を前提としたものではないが、ロールス・ロイスの歴史上、技術的にきわめて重要で商業的にも成功した製品を生み出すプロセスの基礎となってきた。
また、ロールス・ロイスのビスポーク技術の粋を集めたコーチビルドの傑作2台も、20台のリストを飾っている。オーナーから個別に制作の依頼を受け、完全な手作業で作られたこの2台は、ブランド創成期のコーチビルドの伝統を受け継ぐと同時に、デザイン、エンジニアリング、製造、工芸の最新技術を駆使して、真の芸術作品に仕上げられている。
スペクターは、ロールス・ロイス史上初の完全電気自動車である。2030年以降、ロールス・ロイスのすべての新型モデルが完全電気自動車となる、新しい技術時代の幕開けを告げるものでもある。
まだ正式な生産が始まっていないスペクターは、厳密には2003年から2023年の間に生産される20車種の中には含まれないため、後掲のリストには登場しない。しかし、スペクターはモデル・ファミリーの発展における次の進化のステップであり、将来的に続くすべての車を支えるテクノロジーとフィロソフィーの基礎となる車でもある。
20年にわたる絶え間ない革新と進歩を反映した20台
1. ファントム(2003年)
初代「グッドウッド・ファントム」は、現在で自動車史上最も長い歴史を持つネームプレートの7代目モデルであった。テクノロジー、快適性、パフォーマンス、そして特徴的な「マジック・カーペット・ライド」を融合させたこのモデルは、その後のすべてのモデルに新しいスタンダードをもたらした。
2. 100EX(2004年)
チャールズ・ロールズとヘンリー・ロイスとの初めての出会いから100周年を記念して作られたのが100EXで、これはBMWグループ傘下のロールス・ロイス・モーター・カーズが初めて製作したエクスペリメンタル・モデルでもあった。9リッターV16エンジンを搭載したこのモデルは、生産の予定はないが、名高いファントム・ドロップヘッド・クーペの直接的な前身モデルとなった。
3. ファントム・エクステンデッド(2005年)
2005年3月のジュネーブ・モーターショーで発表されたファントム・エクステンデッドは、「スタンダード」のファントムより250mm長くなった。これにより、リア・キャビンのレッグルームが拡大され、特にショーファードリブン・カーを好むオーナーに人気のモデルとなった。
4. 101EX(2006年)
100EXと同様、この実験的なプロトタイプは、ファントムのアルミニウム製スペースフレームを短くしたものをベースに、カーボンファイバー複合材で作られたボディ・パネルが組み合わされていた。その後、6.75リッターV12エンジンを搭載した ファントム・クーペとして最終的に生産され、不朽の名声を得ることになる。
5. ファントム・ドロップヘッド・クーペ(2007年)
グッドウッドで生産されたモデルの中で最も人気の高いモデルのひとつであるファントム・ドロップヘッド・クーペは、デビューと同時に世界を驚かせた。100EXを踏襲した個性的なスタイリングに加え、キャビンを囲む内装のウッド・パネルが、レーシング・ヨットのデッキに着想を得たチーク材のトノカバーへと流れるように繋がっているのが特徴。
6. ファントム・クーペ(2008年)
これはピラーレス構造の本格的なハードトップ2ドア・クーペで、このタイプのロールス・ロイスが生産されるのは20年以上ぶりのことであった。ドロップヘッドの兄弟車と同様に、このファントム・クーペにも、エクスペリメンタル・モデル101EXで開発されたデザインの特徴や構造技術が多く取り入れられている。
7. 200EX(2009年)
2009年3月のジュネーブ・モーターショーで発表された200EXは、より親しみやすく、ドライバー志向のロールス・ロイスを求めるオーナーの声に応えたエクスペリメンタル・モデルであった。
8. ゴースト(2010年)
ロールス・ロイスの新しい世代のオーナーのためにデザインされたゴーストは、シンプルで現代的なデザインと、エフォートレスでダイナミックなパフォーマンスですぐに賞賛を浴びた。そして現在に至るまで、ロールス・ロイスの歴史上、最も商業的に成功したモデルとなっている。
9. 102EX(2011年)
ファントム・エクスペリメンタル・エレクトリック(EE)と呼ばれるこのワンオフの電気自動車プロトタイプは、ロールス・ロイスが次世代の自動車に適した技術を探求するきっかけとなった。世界初のスーパー・ラグジュアリー・バッテリー電気自動車として、この車は世界中を巡り、オーナーや愛好家、メディアの反応を測る役目を果たした。
10. ゴースト・エクステンデッド(2011年)
ショーファードリブン・カーを好むオーナーの声に応え、ロールス・ロイスはゴーストのエクステンデッド・バージョンを導入した。ゴーストならではのスポーティな走行特性を維持しながら、後部座席の乗員にさらなるスペースと快適性を提供。
11. レイス(2013年)
ファストバックのレイスは究極のグラン・ツーリスモとして、ロールス・ロイスの共同創設者、チャールズ・スチュワート・ロールズ卿にインスピレーションを与えた「大胆な開拓者精神、冒険心、スピードへの愛情」を体現している。
12. ドーン(2016年)
ドーンは、4人乗りスーパー・ラグジュアリー・コンバーチブルの決定版として、大人4人が完全な快適性を享受しながら移動できるように設計されている。ドーンのルーフはデザインと技術の最高傑作であった。「サイレント・バレエ」と名付けられたほど静かな動作で、わずか22秒で開閉し、50km/h以下であれば走行中も操作可能。ルーフを閉じると、ロールス・ロイス・レイス並みの静粛性が実現する。
13. ブラック・バッジ・レイス&ブラック・バッジ・ゴースト(2016年)
ブラック・バッジ・ファミリーは、ロールス・ロイスのアンファン・テリブル(反逆児)を世の中に送り出し、同ブランドの「あるべき姿」に対する認識を覆した。これらのモデルは、よりパワフルで、よりダイレクトで魅力的なドライビング・エクスペリエンスを提供するために特別に設計されており、さらに、ビスポーク・パーソナライゼーションの機会をほぼ無限に提供する。
ブラック・バッジ仕様のレイスとゴーストには、トルクの増強、独自のエアサスペンション設定とドライブシャフト、インテュイティブ・スロットル・レスポンス、より歯切れが良く迅速な8速オートマチック・トランスミッションが採用されている。その結果、ロールス・ロイスの「マジック・カーペット・ライド」の本質的な要素を損なうことなく、より機敏で スポーティなドライビングを体験できるようになった。
14. 103EX(2016年)
おそらくグッドウッドで生産された最も過激なエクスペリメンタル・モデルが、ロールス・ロイス・ビジョン・ネクスト100(コードネーム103EX)だろう。この車は、ラグジュアリー・モビリティの未来についてのロールス・ロイスの妥協のない見解を示すものであった。完全な電気駆動で、完全な自律走行能力と強化された 人工知能を備えたこの車は、電動化とエフォートレスで高度にパーソナライズされた移動の両方の観点から、ロールス・ロイスの将来の方向性を明確に表明していた。
15. 「スウェプテイル」(2017年)
ロールス・ロイスは、「自動車のオートクチュール」と評された壮麗な「スウェプテイル」でコーチビルドの芸術的な技を復活させた。1920~30年代のコーチビルド・ロールス・ロイスやレーシング・ヨットに着想を得て創られたこの特徴的な2シーター・クーペは、パノラミック・ガラス・ルーフやコーチ・ドアの後ろに隠されたアタッシュケースを備えている。
16. 8代目ファントム(2017年)
名車やラグジュアリー製品の殿堂において、ファントムほど尊敬を集めているモデルはほかにはない。そのため、新しい時代に向けてファントムを大胆に生まれ変わらせるという課題は、細心の注意を払って取り組む必要があった。その結果、新世代の感性の変化に対応しながらも、「世界最高の車」としての地位を確かなものにする象徴的な存在感を維持するファントムが誕生した。
17. カリナン(2018年)
カリナンは、まさに「SUVのロールス・ロイス」であり、若く成功した富裕層を地球の果てまで究極の快適さで運ぶために設計・製造された車。「Effortless, Everywhere(どこにでも、エフォートレスに)」のケイパビリティ、無限のビスポークの可能性、レクリエーション・モジュールを含むユニークなライフスタイルを提供する装備により、地球上で最も魅力的なラグジュアリー製品のひとつになっている。
18. ブラック・バッジ・カリナン(2019年)
カリナンに、よりパワフルな6.7リッターV12エンジン、ブラックの22インチ鍛造アルミホイール、パンテオン・グリル、スピリット・オブ・エクスタシーのマスコット、ロールス・ロイスの工場出荷車としては初のペイント・ブレーキ・キャリパーなど、新しいダークな個性が与えられた。
19. 新型ゴースト(2020年)
ロールス・ロイスは、新型ゴーストを発表するにあたり、成功した新興世代が、新しいラグジュアリーの作法を体現した車を求めていることに対応。その結果、ミニマルなデザインを優先し、素材本来の魅力を大切にする美学が生まれた。また、この車は、魅力的でダイナミックなキャラクターを持ちながら、リア・スイートの静粛性と快適性を損なわないように設計されている。
20. ボート・テイル(2021年)
ボート・テイルは、ロールス・ロイス・コーチビルドの複雑さと大胆さの新たな領域を開拓し、技術と創造性の点で非常に要求度の高いプロジェクトとして、約4年の歳月をかけ完成した。この完全ハンドメイドの車は、ロールス・ロイスの将来の方向性と戦略の中心をなすコーチビルドへのコミットメントを示す、まさに「objet d'art(芸術品)」と呼ぶにふさわしいものであった。
関連情報:https://www.rolls-roycemotorcars.com/
構成/土屋嘉久
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