出口戦略をしっかり描いたエンジン設計思想
独特のエンジンサウンドを奏でる、アウディの直列5気筒エンジン。そこにジャーマン・エンジニアリングのこだわりを感じる。いまでは珍しくなった直列5気筒エンジンだが、誕生した時点でも珍しい存在だった。
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初搭載車は1976年のアウディ「100 5E」(排気量2.1リッター、最大出力136馬力)。アウディの上級車である「100」が2代目へにフルモデルチェンジするタイミングで、次世代アウディを象徴する技術となった。1978年には2リッターディーゼル、さらにディーゼルターボへと進化していく。
80年には世界ラリー選手権で活躍した「クワトロ」が、直列5気筒のハイパフォーマンス性を知らしめた。90年代にいったん姿を消した直列5気筒エンジンは2009年、「TT RS」に搭載されて復活した。その後もRS向けのスペシャルな存在という位置付けを確立した。
そもそも、直列5気筒という発想は70年代当時、アウディ、フォルクスワーゲンはもとより世界で主流だった直列4気筒に対して、効率的なパワーアップを図ることが目的だった。排気量アップと、エンジンの重量・大きな(形状)とのバランスをいかに保つかが、エンジニアの腕の見せ所だ。
単に新エンジンではなくクルマの「新しい開発手法」から生まれた
そこで、エンジン開発の基本を考えてみる。
エンジン設計の教科書を紐解くと、古典的な手法としては、まず気筒の大きさとなるボア×ストロークを決める。どのようなエンジン特性にしたいのか、エンジンレイアウトをどうするか、競合他社はどのようなアレンジなのか、さまざまな要因を考慮する。
近年では、気筒内の燃焼についての研究が進んでいるため、理想的な燃焼に近づけるためのボア×ストロークという考え方も含まれてくる。さらに、気筒内の設計からコンロッドの設計となり、各気筒との間隔について冷却方式を加味するなど、エンジン全体への設計という流れだ。
こうした古典的なエンジン開発手法は、自動車開発が長年に渡り、エンジン第一主義があったことに由来する。60~70年代の高度経済成長期に活躍した、自動車メーカーOBたちは「社内でエンジン屋が幅を利かせていた」という話を口にする。
エンジンが決まり、車体が決まり、そしてボディデザインへと移る。こうした古典的な自動車開発の発想では、アウディの直列5気筒エンジンは生まれなかったはずだ。70年代当時、アウディが目指したのは、最初に出口戦略として、クルマとしてベストパッケージングを考え、そのなかでもっとも適したエンジンを発想していくこと。そこから生まれた、他に類のない直列5気筒という設計思想を単なるアイディアではなく、量産へと結びつけたことが、当時としては先進的かつ画期的だった。
そうした考えに基づけば、これからのエンジン開発においては、厳しい環境規制への対応で電動化が進み、その上でクルマ全体のベストパッケージングを発想することになる。
一方、電動化が進むことで他社との差別化が難しくなり、メーカーの個性をいかに維持するべきかという点でのブランド戦略が必須である。アウディの直列5気筒エンジンについては、今後の電動化の流れとアウディの独創性というブランド価値とのバランスが重要となる。
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