「名車病」は難病、不治の病だと感じる
いつまでも乗り続けていたいと思うクルマ。それが名車だ。これといった定義などいらない。1台だけもいいし、私のような浮気性は、次から次へと「自分の名車」が現れて、何とか手に入れたいといつも思案を巡らせる。過去に所有したモデルは重複も含めおよそ80台。まだほしいクルマがあるのだから「名車病」は難病、不治の病である。
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2024年3月の時点で最も気に入っているのは1966年式のロータス・エランSr.II・FHCだ。かれこれ7年前にレストアプロジェクト途中のクルマを譲り受け、そこから好みのコンディションまで仕上げてもらった。昨年ようやく完成し、少しずつ楽しみ始めている。
昔からロータスは嫌いじゃない。『サーキットの狼』はもちろん、JPSカラーのF1マシンに憧れたクチだ。とはいえロータスといえばヨーロッパ、エスプリあたり、なんなら直近のエリーゼが気になるといった具合で、それ以前のエランや初代エリートなどには正直さほど興味はなかった。
とある雑誌の取材で初めて試乗した初代エリートに衝撃を受けた。美しいスタイルはもちろん、1950年代後半にもうすでにこんなにも楽しいモデルを作っていたのかと、感心を通り越して心酔してしまった。そのクルマは京都のロータスマイスターの所有で、結局その後に彼を頼って京都移住を決めてしまったのだから、クラシック・ロータスは人生の節目であったともいえる。私のエランのレストアも彼がプロデュースした。
実際にエランを買うまでに移住後6年を要している。その間、ロータスマイスターのガレージで月に一度はパーティを楽しんでいたというのに、である。英国車に目覚めつつも、昔から好きだったイタリア車への想いもまた断ち切りがたかった。
スーパーカーブームを経て、子供の頃の憧れだった12気筒マシン、フェラーリ365BBとランボルギーニカウンタックLP400の2台を同時にガレージへ収めていた20年前が、MYブームの絶頂だ。2台は昭和40年世代の最高峰。もちろんスーパーカーへの熱い想いはいまも変わらない。けれど、所有欲という意味では頂点2台持ちで一旦落ち着いた。時を同じくしてクラシックカーラリーイベントに出場し始めたため、クルマの趣味にも徐々に変化が現れる。
イタリア、日本、アメリカの後に辿り着いた英国車
それでもイタリア車が一番。興味は次第にアルファロメオやフィアット、ランチアといった非スーパーカー・ブランドにも及んでいった。
日本車も大好きである。中でも第2世代スカイラインGT-Rは私のシゴト人生にも大きな影響を与えた。そう、名車には人の輪を広げ、人生を変える力がある。フェアレディZもS30の240ZGやZ32にハマった。そして人生最初の愛車でもあるセリカXX(60型)は、いまもなお所有する「私の名車」だ(最初のXXとは別のクルマだが)。
日本車の次はアメ車である。実は大のV8OHV好きで、とくにマニュアルミッションで操るスモールブロックが好み。一時はビッグ3それぞれのV8を積んだ代表車(プリマス・クーダAAR、シボレー・コルベットC2、デトマソ・パンテーラ)を同時に所有した。
英国車はあくまでも「その次」に過ぎなかった。ベントレー・コンチネンタルRや同Tを好んだこともあったけれど、それはあくまでもあの時代のベントレーが好きだったというだけ。心が英国車全般(MGやヒーレー)にまで及ぶなど想像もできなかった。
移住したのち、アルファロメオ・ジュリエッタスパイダーを手に入れた。雑誌の取材で衝動買いした個体で、私の人生には取材=購入といった例に事欠かない。中古車ショップへの取材は、私の場合、つねに「危険」が伴っている。一期一会というフレーズが私は大好きなのだ。
チェレステ・ピニンファリーナという淡いブルーにひと目惚れした。1950年代のモデルだから、クラシックカー・ラリー参加にもちょうどいい。これから戦前モデルを目指す(とその時は思っていた)身には絶好の通過点だと考えた(クラシックカー・ラリーにおいて出走順はだいたい年式で決まる。早くスタートしたほうが後々何かとラクなことと特別ボーナス点もあるから、ラリーにハマると結局みんな戦前志向になっていく)。
毎年春と秋に岡山で開催されている「ベッキオ・バンビーノ」というラリーにほぼ毎回出ている。スパイダーで妻と参加したときのことだ。スペシャルステージがサーキットで行われ、ドライバー役を妻に託してみた。そして、快調にスパイダーを走らせた妻が放ったひと言が強烈だった。
「カッコいいクルマだけど、運転が面白くないわね」
確かにこの時代のアルファロメオはスパイダーもクーペもフツーの乗用車=ジュリア・ベルリーナがベースだ。乗って楽しいと思うにはそれなりのチューンが必要で、妻はそれを見事に見抜いた。
そんなとき妻と同じ年式のロータス・エランが見つかった。彼女がすんなり受け入れたのは必然だった。そこからマトモに走るまで7年も要するとは彼女はもちろん知るよしもなかったけれど。
【プロフィール】
にしかわじゅん/奈良県生まれ、京都在住。クルマを歴史、文化面から技術面まで俯瞰して眺めることを理想とする自動車ライター。大学では精密機械工学部を専攻。輸入車やクラシックカーなど趣味の領域が得意ジャンル。AJAJ会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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