映画『フォード vs フェラーリ』の真の主役とは
2020年1月10日、映画『フォード vs フェラーリ』が全国ロードショーを迎えた。伝説の1966年のル・マンに至るまでのフォードとフェラーリの企業戦争の裏側、そして狂気ともいえる60年代のレースの迫力を描き出した大作だ。
勝利の女神を微笑ませたマーク2の完成【フォード GT40はいかにして神話になったのか。Vol.3】
2020年の第92回アカデミー賞では作品賞を含む4部門にノミネート。編集賞と音響編集賞の2部門で栄誉を獲得している。2020年4月1日には先行デジタル配信をスタートし、5月2日にはブルーレイ+DVDセットを発売するという。
キャロル・シェルビー役をマット・デイモン、ケン・マイルズ役をクリスチャン・ベイルが演じ、リー・アイアコッカやヘンリー・フォード2世、ダン・ガーニー、エンツォ・フェラーリ、ジャンニ・アニェッリ、フランコ・ゴッツィ、ブルース・マクラーレンにデニス・ハルムという60年代モーターシーンの英雄が揃い踏みする。
作中ではフォードとフェラーリの戦い、フォード陣営とドライバーの戦いと、男同士のぶつかり合いにメインスポットが当てられている。しかし真の主役は間違いなくフォードが作ったGT40というクルマそのものだ。では、一体フォード GT40はどういうクルマだったのか。60年代の伝説となったGT40というクルマそのものの歴史を数編に分けてふり返ってみたい。
フェラーリと袂を分かったフォードの決断
1963年5月22日、一枚のニュースリリースが発行された。内容は情報に乏しく、どこか要領を得ないものだった。
「フォード・モーター・カンパニーとフェラーリは、先刻より協業の可能性について交渉を行ってきたが、その交渉が双方の合意により保留となったことをここに表明する」
その1ヵ月後、ハイ パフォーマンス & スペシャル モデルズ オペレーション ユニットが発足。その使命は「セブリングやル・マンといった主要なロードレースで勝利するポテンシャルを持ったレーシングGT」を設計し製造することだった。
エリック・ブロードレイとジョン・ワイヤーの加入
彼らがまとめた「GT プログラム ブック」が社内へ回覧されたのは6月12日のこと。その中に描かれていたのがGT 40の初期デザインコンセプトだった。
ハイ パフォーマンスユニットの最初の仕事は、マシンを作ることのできるチームを形成することであった。選ばれたのは、ローラ・カーズのエリック・ブロードレイ、アストンマーティンのレースマネージャーとして1959年のル・マンを制した(ドライバーはキャロル・シェルビーだった)ジョン・ワイヤー。
チームは4部門に分けられた。フォードのエンジニアのロイ・ランとブロードレイは車両の設計と製造を、ワイヤーはレーシングチームづくりを、シェルビーはヨーロッパにおけるフロントマンを担当。1964年のル・マンまであと10ヵ月と迫っていた。フォード モーター カンパニーのチームは、フェラーリが数十年かけて築き上げたものを、わずか10ヵ月で達成しようとしていたのだ。
テストドライバーはブルース・マクラーレン
工房はロンドンの南、ブロムリーにあるブロードレイのガレージに落ち着いた。ロイ・ランはまずブロードレイのローラの車高を2インチ落とし、全高をわずか40インチ(約1016mm)に設定してから全作業に取り掛かった。最初に生産された7台のVINナンバーは「Ford GT」で始まっていたが、その後の車両には「Ford GT40」で始まるVINナンバーが付けられていた。
最初にテストコースでドライバーを務めたのは、ニュージーランド人ドライバーのブルース・マクラーレンだった。
4月までに最初の1台が完成するや、車両はすぐにニューヨークへと船で送られた。マスタングのローンチに先んじてプレス向けに発表を行なうためであった。
4月中旬に行われたル・マンのタイムトライアルでは、このクルマは素晴らしいスピードを叩き出している。しかしエアロダイナミクス性能に問題があり、高速域でのコントロールが非常に難しかった。マクラーレンとともにテスト走行を行ないながら、スポイラーの装着をはじめとした改良策が講じられた。
1964年のレースシーズンへ挑む準備は整った。
速さを実証すれども、未熟だった耐久性
しかし、チームの面々を待ち受けていたのは失望だった。フォード GT40は確かに速かった。だが耐久性に欠けていたのである。1964年5月13日のニュルブルクリンク1000kmではサスペンションが故障して未完走。同年のル・マンではフィル・ヒルがラップレコードを樹立したもののコロッティ製ギヤボックスが高速走行の負荷に耐えられなかった。
スタートから14時間後には、3台すべてのGT40がリタイアを喫していた。年の瀬のバハマ・ナッソーのレースでも期待外れの結果となり、ディアボーンはプロジェクトの拠点をアメリカへ戻す決定を下す。結果、キャロル・シェルビーがオペレーションを担当し、ロイ・ランがエンジニアリング面での運営を見ることになった。(つづく)
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