隣の芝生は青く見える。自動車ディーラーの営業マンをしていると、他社製品が非常に良く見えてくるものだ。時に、ないものねだりになってしまうこともあるが、冷静に考えても、やはり羨望の眼差しを向けてしまうクルマは非常に多い。
今回は、日産のクルマに絞って紹介していこう。トヨタ営業マンが日産のクルマを見た時に、どのような印象を抱くのか。表立って明かされる事の無い、内なる思いをお伝えしていく。
プレサージュがトヨタにあれば……ディーラーマンが語る!! あの時トヨタに欲しかった日産車3選
文/佐々木 亘、写真/NISSAN、TOYOTA、HONDA
■出来の良いステーションワゴンは欲しいクルマの筆頭格「ウイングロード」
2018年まで販売されていた日産 ウイングロード。コンセプトを大きく変えずに売り続けられるステーションワゴンはトヨタ販売店から見ると羨ましかった
トヨタで名車が生まれにくい唯一のカテゴリーがある。ステーションワゴンだ。
カローラフィールダー、カルディナ、クラウンエステートなど、いいステーションワゴンが無いわけではないが、イマイチヒットにつながらない。
他メーカーの売れ筋ステーションワゴンは、トヨタ販売店からすると、喉から手が出るほど欲しい存在だ。車格は小さめ、室内は広め、そしてお値段低めならいうことは無い。
この条件を満たしてくるのが、日産のウイングロードである。4.5m以下の全長で、全幅は5ナンバー枠に収まる1,695mmとコンパクト。
マーチにも使われたBプラットフォームを使っており、ステーションワゴンだがフロントノーズが非常に短い。そのため室内長は長く、広々だ。ワゴンというよりも低いミニバンというほうが、シルエットのイメージがしやすいかもしれない。
2018年まで販売が続けられ、最終型でエントリーモデルは180万円前後から、最も高いライダーでも240万円以内で売り出された。
価格相応のシートや内装だが、ところどころに「おっ」と思わせる装備があり、当時ミニバンに大きく流れていった若年層を引き込む魅力を持っている。トヨタとしてはカローラフィールダーで応戦する形だったが、取り扱うのはカローラ店だけだ。その他チャネルでは、勝負になるクルマが無い。
カローラフィールダーも、ターゲット層の年齢が高く、若々しさが薄い。その点、20代~30代へ向けて、機能やデザインを全振りしたウイングロードは、ターゲットが分かりやすい。これは長く売れ続けるクルマだろうと感じていた。
実際、ウイングロードは3世代22年の間、日産の屋台骨を支えたクルマだ。長い間、コンセプトを大きく変えずに売り続けられるステーションワゴンが、トヨタ販売店にいると欲しいと思う、クルマの筆頭格である。
■オデッセイ対抗の高級ロールーフミニバン「プレサージュ」
2009年まで販売されていた日産 プレサージュ。当時トヨタで扱っていたエスティマではホンダ オデッセイと渡り合うには厳しく、プレサージュのようなクルマがあればと思っていた
一般的な「箱型」ではないミニバンが売れた時代。その中でも上級モデルに位置していたプレサージュは、まさに隣の青い芝だった。当時はホンダ・オデッセイやマツダMPVなどと凌ぎを削り、エスティマとも戦いを繰り広げたクルマである。
内外装にはデザインで高級感を与え、オデッセイには絶対的な広さでは劣るものの、シートや内装の作り込みは、ライバルから頭一つ抜けた存在だったと思う。
簡単に収納できる3列目シートや、ガラス部分だけが開閉できるバックドアなど、使い勝手の良さも際立つ。価格の面では、オデッセイやエスティマよりも安価に抑えられているのだ。それでいて安っぽさを感じさせないのは、当時の日産がもつ上手さだったと思う。
お金をかければ、もちろんいいものが作れるが、最小限のコストで満足してもらえるクルマを作るという点では、プレサージュに勝るクルマが見当たらない。
販売現場にいると、最終的には価格の勝負となってくる。買う側には良質廉価で提供するが、第三者が見ればしっかりと高級ミニバンしているプレサージュ。オデッセイと勝負するにもエスティマでは厳しい面が多くあり、プレサージュのようなクルマがあればと、何度考えたことだろう。
■100%EVはプリウスの衝撃と同等「リーフ」
2010年に初代が登場した日産 リーフ。「100%電気」というリーフの登場は、ハイブリッドの先陣を切ったプリウスの衝撃に勝るとも劣らないものだった
ハイブリッドカーを全面的に押し出し、電気自動車には消極的だったトヨタ。水素自動車の開発は進められていたが、電気自動車がトヨタから登場する日は、ずっと未来の事だろうと、営業マン時代の筆者は考えていた。
こうした中、バッテリーEV(BEV)で先陣を切ったのが日産だ。リーフの登場は、電気の「で」の字もなかったトヨタ販売店にとって、非常に重いものだった。
初代登場時には満充電で200km(実際には100km超)を走行するにとどまった性能も、改良やモデルチェンジを繰り返し、今では最大450km(WLTCモード:リーフe+の場合)と、ガソリン車の満タン時に近い距離を走行できるようになっている。
自宅で充電し、ガソリンスタンドへ立ち寄る必要が無いというのは、地方都市でクルマを使うユーザーにとって大きなメリットだったと思う。
比較的生活に余裕があり、戸建てに住むユーザーにとって、オール電化の住宅に変え、充電スタンドを完備するというのが一種のステータスにもなっていた時代だ。トヨペット店・トヨタ店、そしてレクサスでは「まだトヨタは電気自動車を作らないのか」というユーザーの声を、何百何千と聞いてきたことだろう。
思い返せば技術の日産に、トヨタ販売現場は苦しめられることが多かった。e-4WDやアラウンドビューモニター、ハンズフリーオートスライドドアを筆頭に、近年ではハンズオフ機能が搭載されたプロパイロットなど、トヨタに無かった装備が多数ある。
その度に「なぜトヨタには無い?」と聞かれ、応酬話法を考える日々が続く。
今でもBEVについては、日産の独壇場に近い。SUVのアリア、そして軽自動車ではサクラを登場させ、100%電気自動車のイメージはますます強くなった。
今、現役バリバリの脂が乗り切ったトヨタ営業マンたちが、一度は羨望の眼差しで見たことがある日産車は、間違いなくリーフである。
* * *
今回挙げた3車種以外にも、時代ごとに羨ましく思う日産車は数多くあるだろう。販売現場で思う羨望は、ユーザーの想いにも似た部分があると思う。各社の色は残しつつも、技術や商品力で切磋琢磨し、日本の自動車業界が、一段底上げされること願っている。
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みんなのコメント
いい車でしたが、同車格帯のエスティマ、オデッセイ、MPVの方が人気あったと思う。