もくじ
ー 「いっぱいいっぱい。もう必死」
ー 野性に狂う602ps
ー スーパーカーリーグのカムバック賞
ー ゾンダに死角はあるか
ー 素晴らしいクオリティ
ー タフなクラッチと美麗なインテリア
ー ゾンダを味わう
ー ゾンダ株、続伸中
「いっぱいいっぱい。もう必死」
ゾンダFがいよいよそのリミットを超える瞬間は、実にあっけなくやってくる。ウォーニングのサインらしきものが点灯するわけでなく、またインターフェイスや路面の感触からその到来を感知することもできない。
予兆らしきものがナニもないまま飛ぶがごとくに、そして暴力的なまでの勢いでもってクルマがナナメになる。
この仕様のみが発生しうる602psのパワーは、とんでもなく強力だ。602psが後ろに履いた335/30のミシュランの(これまた強力な)グリップを打ち負かしてからの事態の進行はきわめて慌ただしい。
ひとたびテールが滑りだしたら最後、ドライバーは状況を冷静に判断するだけの余裕をほとんどもてなくなる。
カウンターステアを当ててドリフト姿勢をなんとかコントロールするだけでいっぱいいっぱい。もう必死。で、ひと息ついたあとになってようやく思考が戻ってくる。
いったい、自分はさっきナニをやっていたのか? ああそうだ。車重がゴルフGTIと同じで、パワーがゴルフGTIの3倍もあるクルマをワザと滑らせてみたんだった。われながら無茶なヤツ。
野性に狂う602ps
それにしてもワケがわからない。なぜって、冒頭にも書いたとおり、コトが始まるにあたってナンのザワつきも警告もないからだ。こういう感じは体験したことがない。ということで、ゾンダFでのコーナリングの開始から終了までに起こった出来事をもう1回おさらいしてみよう。
まずコーナー進入速度はすごく速い。でも、カーボン・セラミックのローターを擁するバケモノ級のブレンボがキョーレツに速度を落としてくれるから心配はない。というか、そのときはナンの警告も発せられない。
カーボンの車体がエイペックスをカットする前に、3速から2速へのシフトダウンを完了。それ以上は無理というくらいの正確さでもって。と同時にステアリングホイールをさらにもう少し切りこんで、横Gがピーク値に達する。
この段階でも、やはりすべては平和なままだ。出口に向けスロットルを開けていくと、まさにそのときコトは起きる。エンジンベイのなかでナニモノかが野生に目覚め、というか野生に狂い、かくして僕は全身全霊で対処しないといけないことになる。事態が平穏でなくなるのはホンの何分の1秒かの間でしかなく、したがって何分の1秒か後にはまた平穏になっている。
ゾンダFでドリフトをキメるのは、いってみればヒョウの頭をナデナデして戻ってくるようなものだ。腕をかみ切られたりすることなしに。つまり、そいつを手なずけるのに等しい。
FよりおとなしいSに乗ったときですら、パワーに不足は感じなかった。7.4秒の0-160km/h加速タイムを記録したのち293km/hをマークしたゾンダSは僕をビビらせた。
もっというと、あのときミルブルックのテストコースでさらに踏み続けていたら300km/h以上はでそうだった。そういうわけで、ゾンダSに対してすら、もっとパワーがあればいいのに、なんて思った覚えはない。
スーパーカーリーグのカムバック賞
でもあれは2002年のことだった。2005年の現在までの間にスーパーカー界の状況はガーンと大きく変わっている。すなわちフェラーリがエンツォをだし、ポルシェがカレラGTでそれに応酬したと思ったらメルセデスはSLRの車名をついに復活させてしまい、そしてブガッティももうすぐだしてくる。
1000psや400km/hという数字をモノ笑いのタネにしている連中にひとアワ吹かせるべくヴェイロンを。さらに、ここ数カ月の間にはまた別のクルマもでてくるはずだ。たとえばケーニセグとかグンパートとかエドニスとか。
そういうなかで、パガーニはちょっと日陰モノになっていた。とはいえ依然として、ゾンダS 7.3はこのテのクルマのなかでもっとも作りのよい、そしてまず間違いなく乗って最高にオモシロイもののひとつだった。
ただし、超特急クラスのサルーンでもだせるような550psぽっちではヒキが弱かった。もっと速いゾンダをださないことには、忘れられてもしかたなかった。
さらに速いゾンダを仕立てるにあたり、当初彼らはエンジン関係だけをやるつもりでいたそうだ。排気量7291ccから555psというSのチューンはまだ余裕たっぷりで、したがってそこからピーク出力を高めるのは困難な仕事ではなかった。
ということで吸気系を一新し、背圧のより低い排気系をつけ、あとはエンジン・マネージメントのプログラムをやり直しただけでアッサリ602ps/6150rpm。
エンジニアによればエンジン内部は690psまではイジらずにイケるそうで、ただしそこまでやるとパガーニのもっとも大きな美点を失うことになってしまうという。すなわち、驚くほど高いドライバビリティを。
ということでピークパワーは602psに落ち着いたわけだけど、それで開発が終わったわけでは全然なかった。エンジン単体でみれば十分にドライバビリティ重視といえる602psも、クルマ全体のなかでは突出していたから。
そして、602psをちゃんとこなすだけのクルマにSを仕上げる仕事は一筋縄ではいかなかった。パガーニの皆さんは完璧主義者で、エンジン以外の部分も徹底的にやり直さないではいられなかった。
ゾンダSとゾンダFのハードウェア上の違いをいちいち数え上げるような人はいないだろうけど、コンポーネンツのレベルでいうとFはその40%が新規だ。ほかのマニュファクチャーならきっと、白紙から作り上げたまったく別のクルマだといいはるだろう。
ゾンダに死角はあるか
ゾンダC12Sに関して、僕は不満なところがふたつあった。2002年のハンドリングデイでの体験でわかったことに、まずブレーキ(ローターはスチール製)は酷使するとヒドくフェードする。タイム的には悪影響はでていなかったけど、だからオッケーというものでもない。
それと、タイヤの性能がエンジンのパワーにマッチしていなかった。もちろん、足りなかった。攻めるとカンタンにオーバーヒートして仕事することを拒否し、あとはだらしない大アンダーステアか一転してオーバーステアになるかのどっちかだった。
たとえば履いているアルミ鍛造ホイールひとつをとってみても、ゾンダFに込められた彼らのレスポンスがいかにシリアスなものであるかよくわかる。そのリム径からしてフロント19インチ+リア20インチに拡大されているし、奥にはカーボン・セラミックのブレーキローターが見える。デカい。ロードカーにこんなにデカいローターがついてるのを見たのはエンツォ以来だ。
それも当然、というべきだろうか。なぜって、ゾンダFが使っているブレーキはエンツォ用のと同じものだから。ただし、より正確にいうと、生産ロットの最後の100台足らずを除けばエンツォのブレーキはこれほどスゴくなかった。
性能不足へのブーイングがでたのでそれを鎮めるべく途中からアップグレードされた、そのブレーキがゾンダFのと同じもの。そんなブレーキを使ってフェラーリ様は文句をいわなかったのかきいてみたところ、驚くべきことがわかった。というのは、既製品なんだそうですよ。ナンとまあ。
そういうことなら、ここはひとつウチのベンツCクラス用に20インチのホイールを揃えないと。でもって、そのブレンボを1台ぶん買ってつける。
ブレーキのセットと同じく、フロントのタイヤもまたアリモノだそうだ。255/35ZR19のミシュランは汎用品。ただし、リア用のタイヤ(335/30ZR20)を見るとそこにはお馴染みの記号が。純正装着タイヤにNで始まるホモロゲ番号をつけるメーカーは世界にひとつしかない。
でもって、それはポルシェ。要するに、ゾンダFのリアタイヤはカレラGTのリア用の流用であると。僕の発見に対し、パガーニのエンジニアはイタズラっぽくニヤリ。彼いわく、性能的にはブリリアントだそうだ。
素晴らしいクオリティ
Fはどこもかしこも違っている。ボディの基本構造以外はほとんどすべてが新しい、といっても大げさではない。
ヘッドライトからリアのディフューザーからスターターボタン(人類が知りうるうちで最良のイッピン)にいたるまで、とにかくあらゆるところに手が入っている。
もちろん手作り。細部まで手抜きのないその作りは素晴らしい。年間16台しか生産、いや製作しないという厳しい制約のもとでないとこうはならないだろう。
エアロダイナミクスのパッケージもまた、C12Sからは大きく変わっている。左右分割型のリアウイングはSのスタイリングの一大特徴だったけど、あれは抵抗がハンパじゃなくデカかった。
その点F用のウイングは、ダウンフォースのレベルがまったく落ちていない一方でドラッグははるかに小さい。ちなみに現状、Fの公称最高速度=345km/hはギアリングがその限定要因になっているという。
つまり、車体のドラッグやエンジンのピーク出力によってそこで打ち止めになっているわけではない。また、車体のドラッグを減らしたり車体上面のエアフローを整えたりするうえで決め手になったのはウイングというよりむしろリアのディフューザーのほうだ。
ゾンダFの後ろ姿に関していうと、その真ん中に集められた4本だしのエグゾーストパイプにツイツイ注目しがちでディフューザーはちょっと目立たないけど、そこが効いている。
あとそう、今回試した個体に関しては、その4本だしのエグゾーストパイプはチタン素材のものが装着されていた。マジですか!? 書いていながらまだ信じられない。皆さんも御存じのとおり、安くないですよチタンは。
このアイテムは近々でるFのクラブスポーツ仕様のためのもので、つけるとそれだけで30psアップする。クラブスポーツ仕様は車重も普通のFより30kg軽く、すなわち650psと1200kg。602psで1230kgの普通のFですら、混み合ったモデナの道で走らせるのはラクじゃないのに。
タフなクラッチと美麗なインテリア
ゾンダというクルマ、そのある1カ所に関してはスーパーカーの伝統に忠実だ。すなわち、クラッチが重たいこと。
かつて’80年代初期のカウンタックのクラッチペダルに関する記述(ストロングマン・コンテスト優勝者のジェフ・ケイプスを引き合いにだした比喩表現が使われていた)を読んだことをアリアリと思いだす。
昔のスーパーカーと変わってないところもあるわけだ。
実際、ゾンダのクラッチペダルを踏み込むのはそれだけで十分エクササイズになるくらいのタフな仕事だ。でも、ギアレバーの手応えに関しては違う。
シフトはもっとキレイに決まるしレバーのストロークももっと短いし、それからもっとキッチリ丁寧にシフトできるようになっている。操作することに伴う喜び、という点でもこっちのほうがはるかに上だ。
ゾンダFのインテリアがどんなだったか説明されたとしたら、きっとそれはヒドいものに思えるに違いない。キルティングの入った真っ赤なレザーとムキだしのカーボンファイバーと大量のウッドパネルとこれまた遠慮なくあしらわれたアルミニウム等々によってトリムされた室内が全体として破綻なくまとまっているなんて、説明だけきいたらとても信じられないだろうから。
ホラチオ・パガーニがいったいぜんたいどういうテクニックを駆使したのか僕にはまったくわからないけど、ウソでもなんでもなく実物はちゃんとまとまっている。
ゾンダを味わう
ゾンダFのインテリアは基本部分に関してはC12Sのと同じで、ただしディテール、わけても計器盤のあたりが大きく違っている。
わざわざタコメーターを注視せずとも的確なタイミングで変速できるようにとシフトライトが追加されているし、ギアポジションのインジケーターもある。ひょっとして、そのうちシーケンシャル・ギアボックスがついたりするのだろうか?
シートにギュッと抱かれ、両脚をゆったり伸ばし、見まわせば視界は良好。左右のミラーが新たにウイングマウントになったのも改善点。ナルディ製ステアリングホイールの位置はバッチリ完璧だし、同様にペダルボックス(世界一セクシーなデキのイッピン)の位置も素晴らしい。
公道用のセッティングで乗ると、ゾンダFの乗り心地はイイ。望外にイイ。オーリンズのダンパーは1本あたり4つの調整箇所があり、それらはプライマリーとセカンダリーとにふたつずつ振り分けられている。
パガーニ的には公道上ではフルソフトのセッティングがオススメで、その状態だとゾンダFの乗り心地はさしずめ17インチを履いたポルシェ・ボクスターのそれに似ている。ただし、突起の鋭いカドを丸めてしまう能力にかけてはあれほどビューティフルではないけれど。
ステアリングは速くて正確。Fでもギア比は変わっていないけれど、セルフセンタリングはほとんどしてくれなくなっている。クルージング重視度が高いと思われるSLRをふくめても、ライドコンフォートの水準がこれほど高いスーパーカーはほかにない。ゾンダF、ダントツに快適。
フルソフトのセッティングはトラクションを確保するうえでも有利だ。このクルマについているトラクションコントロールの仕事ぶりは相応に洗練度が高いのかもしれないけど、ゾンダFのスゴさをフルに体験したいなら電子制御の足枷はとっぱらってしまったほうがいい。
でもってその状態で2速フルスロットルが可能であるというのは、とりもなおさずグリップのスゴさを物語っている。2速では、というか3速でも、ゾンダFでのフルスロットル体験はハンパじゃない。
前の日に体験したポルシェ911ターボSは0-160km/hを8.5秒でこなすけっこう速いクルマだけど、それと較べてもゾンダFのパフォーマンスは別モノだ。同じカテゴリーに入れるのは無理がある感じ。まったく別世界。
孤高の存在であるマクラーレンF1とその他大勢のスーパーカーとの間に拡がるギャップを埋めることができるクルマがあるとしたら、それはゾンダFだ。体感上の速さはエンツォとまったく同ベルで、ということはカレラGTより上。
ゾンダFはまたその音が素晴らしい。ナニモノをもってしてもかえがたい。すなわちミッドレンジではフェラーリよりもボリュームたっぷりで、トップエンドではポルシェほどはレーシングしていない。
というか、フェラーリとポルシェのいいところを両方あわせたのよりもさらにエッチな音がする。今回僕が全開全負荷にできたのは3速までで、4速は途中までしか踏めなかった。速度でいうとメーター上230km/hあたりが上限だったけれど、それでもSに対するFのパフォーマンス上のアドバンテージはしっかりと確認することができた。
ゾンダ株、続伸中
ということで、パガーニの将来は明るい。彼らはたんにエンジニアリングのスキルが高いだけでなく、大メーカーにはできないようなやりかたでもってオーナーの期待によりピッタリとフィットしたスーパーカー体験を提供しようとしているようだから。
エクスクルーシブ(排他的)であることの重要性はホラチオ・パガーニが常に強調しているところで、実際パガーニのクルマはシャシーナンバー60が完成間近という程度にしか世にでていない。つまり、いまのところ彼は理想に忠実でありつづけているということだ。
パガーニ・ゾンダの購入を思い止まらせる要因があるとしたらそれは唯一、知名度の低さゆえの売るときの安さ(への不安)のみ……という時期がかつてはあった。が、そうした状況も終わりつつある。その数の多さが災いして、たとえばSLRやカレラGTの中古価格はガタ落ちしている。
しかしパガーニの場合、現在のペースでいくと、過去24カ月間にポルシェが作ったカレラGTと同じだけの数のゾンダを作るにはあと78年かかることになる。つまり、ゾンダ株はずっと安定して高配当ということだ。
万が一、オーナーが無茶な踏みかたをしてクルマをぶっ壊しでもしないかぎり。
パガーニ・ゾンダFのスペック
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