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原始的V8サウンドの裏にある“最先端”は「日本も取り入れるべき」。小林可夢偉が触発された『知られざるNASCARの世界』

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原始的V8サウンドの裏にある“最先端”は「日本も取り入れるべき」。小林可夢偉が触発された『知られざるNASCARの世界』

 8月13日にアメリカ・インディアナ州のインディアナポリス・モーター・スピードウェイで行われたNASACARカップ・シリーズ第24戦に23XIレーシングのトヨタ・カムリで出場した小林可夢偉。予選ではトップから約1秒差と健闘を見せたものの、決勝は2度にわたってライバルからの追突を受けるなど厳しい展開となり、33位で初のカップ・シリーズ参戦を終えた。

 予選後には現地からZoomでのインタビューに応じてくれたが、決勝を終えて改めて感じた『NASCARの世界』について、スーパーフォーミュラ第7戦の現場で話を聞いた。

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■ストックカーは“全然違うもの”。20年ぶりの操作も

 初めてのカテゴリー、初めての車両、さらに初めてのサーキットでのレースを「すごくいい経験をさせてもらいました」と可夢偉は振り返る。

「意外にみんなウェルカムで、他のドライバーも『どうだ?』と声をかけてくれコミニュケーションも取れましたし、結果は置いておいて、レース中も単独だったらペースも悪くなかった。正直、20分の練習だけで初めて走るサーキットということで、僕自身何も期待していなかったけど、『これは、ちゃんとやればいけるんじゃないか』という感覚はしました」

 およそ1500kgの重量があるストックカーは、これまで可夢偉が戦ってきたフォーミュラカーやスポーツカーとはまったく異なる乗り物だったという。事前の実走テストは1回、予選前のプラクティスもわずか20分という状況のなか、レースウイークは驚きと発見に満ちていたようだ。

「ストックカーは、いままで僕らが乗ってきたクルマとは全然違うものです。たとえば、ピットレーンのスピードリミッターが付いていませんし、(点火)カットがないからアップシフト時はアクセルを自分で戻してシーケンシャルを操作しなければいけません。そんなの、FT(フォーミュラ・トヨタ。可夢偉は2003年に参戦)のHパターンのとき以来じゃないですか」

 クルマを操るうえでポイントとなるのはやはり車重の部分が大きかったようだが、レースが始まると細かい部分でもさまざまな経験をすることになった。

「たとえば前にクルマが走っていると、ブレーキが熱くなって止まりにくくなるというのも知らなかったですし、タイヤもロングランしたことがなかったから、走りながら『なるほど、こういうタイヤね』と分かった感じでした」

「一番の問題は、当てられたときにスピンターンして戻ったら、もうそれでリヤタイヤの温度が上がってしまって全然グリップしなくなるんですよ。2回、それをやられたから、本来のパフォーマンスを自分のなかで見られなかったのは悔しいですね」

 さらにコクピットの中では、スポット参戦ならではのマイナートラブルにも見舞われる。

「水(ドリンク)が飲めなかったんです、ホースが短くて。コーションのときにボトルを取って飲むのかなと思っていたら、みんなは実は長いホースをつけていたみたいで(笑)。しかも、こんな70何周もコーションが出ないなんて思っていなかったし、最後は結構暑かったです。過酷だったけど、すごくいい経験させてもらいました」

■夢のある世界。フル参戦は無理だけど……

 カップ・シリーズ初のレースウイークを終え、可夢偉が感じているのは確かな手応えだ。日本からはこれまで『やや遠い』 ところにあったと言えるNASCARの世界。可夢偉はその距離を縮めようとしている。

「『NASCARなんて全然無理』ではなくて、『ちゃんと準備して、経験を重ねれば、イケるんじゃない?』というのが見えたし、『あそこで勝つ日本人とか出たら、すげぇぞ』という夢のある世界だなと感じました」と可夢偉は目を輝かせる。

「NASCARってすごい世界だよ、というのを日本のいろんな人に知ってもらいたいです。実際、V8エンジンの音も迫力ありますし、『やっぱりモータースポーツってこれじゃない?』という部分も感じてもらえるところがあると思う」

「確かに『当てられているのにペナルティが出ない、フェアじゃない』というのもあるかもしれないけど、それは置いておいて、『それでも速いヤツが勝つんだよ』でいいじゃないか、となればいいなと思いますし。アメリカのレースらしさをすごく感じられていい経験だったし、僕もチャンスがあればもっと出たいと思います」

 現時点で将来のさらなる参戦計画が具体的に持ち上がっているわけではないが、やはり今回のスポット参戦はひとつのきっかけになりそうだという。

「今回は簡単に言うと、お金をチームに持ち込んで乗った形ですが、今回乗れたことで、チームも『一緒にスポンサー探して、乗るチャンスを作ろうよ』という会話も始まっています。いちドライバーとして、チームとスポンサーを獲得して乗る、というのがNASCARのビジネススタイルだから、今後はちゃんとそこに入っていけるように。自分はフル参戦することは無理だけど、ちゃんとタイミングを見て、どうやってやれるかは今後も検討していきたいし、若い人たちにはそういう世界があるということを、しっかり繋いでいきたいなと思います」

■NASCARに感じた、モータースポーツが『世の中のためになる』可能性

 なお、可夢偉はレース翌日、ノースカロライナ州シャーロットに位置するチームのファクトリーでシミュレーターとミーティングを行っている。

 これは可夢偉自身の次なる参戦機会に備えるものではなく、チームのシミュレーションの精度を上げるためのルーティンの確認作業なのだという。毎週のようにレースが繰り返されるうえに、レースウイークの走行時間が少ないNASCARでは、チームのシミュレーション技術と、そこから導き出される持ち込みのセットアップがリザルトを左右するからだ。

「シミュレーションのクオリティを上げるために、行く前にも、レース後にもシミュレーターに乗って、『何が実際(の走行)と違うのか』という評価をするんです」と可夢偉は説明する。

「20分のプラクティスしかなく、その10分後に予選という世界では、持ち込みセットアップで勝負するしかない。それには、シミュレーションの精度を上げるしかありません」

 シミュレーションに重きが置かれるNASCARの世界に触れた可夢偉は、「日本のモータースポーツでも、本質は取り入れるべき」と語る。シミュレーション技術の向上が、自動車メーカーにとって今後の生命線となっていくと考えられるからだ。

「データに基づいてシミュレーションの精度を上げることができれば、自動車会社も『作って・壊して』ではなく、コンピューターのシミュレーションで『ドライバーがこういうものを求めているから、こういうクルマを作ろう』となっていく。だから、モータースポーツが、もっといいクルマ作りに貢献できる可能性があります」

「僕は(今回NASCARを)経験して『日本のモータースポーツも、本来はこれを取り入れるべきじゃないのかな』と純粋に感じたし、スーパーフォーミュラも、もしそういう貢献ができるのであれば、いいクルマを作るためのツールのひとつになるんじゃないか、と」

 今回の経験を「レースに出られる云々だけじゃなく、日本のモータースポーツが本当に世の中のためになるためには……という部分でも、何かが見られた」と総括した可夢偉。次なる参戦機会だけでなく、今回の経験が今後にどう活かされていくのかも、とても楽しみだ。

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