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「たら?れば!」へ想いが巡る シアタ208 CS メキシコ・クーペ(1) フィアットV8のスポーツレーサー

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「たら?れば!」へ想いが巡る シアタ208 CS メキシコ・クーペ(1) フィアットV8のスポーツレーサー

見送られた1954年のカレラ・パナメリカーナ

イタリアの小さな自動車メーカー、シアタ社の特別な208 CS メキシコ・クーペには、大きな可能性があった。メキシコで開かれていた公道レース、1954年のカレラ・パナメリカーナで、クラス優勝を掴んでいたかもしれない。

【画像】フィアットV8のスポーツレーサー シアタ208 CS メキシコ・クーペ 同時期のクラシックたち 全124枚

ところが、アメリカ・ロサンゼルスまで運ばれたことは間違いないのだが、出走することはなかった。必要最低限の装備が与えられた、低く狭いコクピットへ腰を下ろすと、「たら?れば!」へ想いを巡らさずにはいられない。

ステアリングホイールの奥に、大きなイエーガー社製メーターが並ぶ。フロントガラスは低くワイド。オスカやポルシェのファクトリー・チームを相手に、フィアット社製2.0L V8エンジンと5速MTを載せた小さなクーペは、快走を披露できたはず。

アメリカ人ドライバー、アーニー・マカフィー氏のスキルも低くはなかった。しかし、ワンオフで仕上げられたアルミニウム製ボディは、メキシコの山脈や砂漠を見ることはなかった。

その70年後、2024年のグッドウッド・サーキットを、208 CS クーペが駆ける。軽量化の穴が無数に空いたシャシーに、イタリア・トリノで組まれた、フィアットV8用ティーポ104ユニットが載る。約725kgと車重は軽く、好バランスでシャープだ。

6000rpmまで勢いよく吹け上がり、最高出力は142ps。エッジの効いたエグゾーストノートが、キャビンを満たす。ウォーム&ホイール式のステアリングラックは、適度な重さと感触で、高速コーナーを導く自信を高める。

ロータスへ通じるスピリット

サスペンションは、前後とも独立懸架式。ブレーキはドラムだが、感心するほど頼もしく効く。市販仕様のシアタ208は、ベスト・ハンドリング・スポーツカーだと北米の自動車メディアから高評価を集めたが、それを頷かせる。

1台のみ仕上げられたファクトリー・マシンは、マフラーにサイレンサーが備わらず、V8エンジンの音響を包み隠さず放出する。高回転域まで引っ張ったボリュームは、グッドウッド・サーキットの騒音規制を犯しているかもしれない。

速度が上昇するほど、圧巻の落ち着きが顕になり、さらに高速域へ誘う。シートポジションが低く、70年も前のモデルだとは思えない。イタリアン・ブランドというより、ロータスへ通じるスピリットを感じる。

呆れるほど軽いドアを開き、体をねじりながら降りる。サイドガラスには、マカフィーの名が記された、赤いステッカーが当時のまま貼ってある。

アメリカ・カンザス州生まれの彼は、西海岸でシアタの輸入代理店を営んでいた。若き映画スター、スティーブ・マックイーン氏も顧客として抱えていた。

マカフィーは1930年代後半から、内陸の干上がった湖で流線型のホッドロッドをドライブし、最高速に挑んでいた。10代の頃に記録を更新し、1949年には億万長者を相手にレース・イベントで勝利。アメリカの西海岸では一目置かれる人物になった。

1953年のレースには間に合わなかった

自身のカスタム・ワークショップを立ち上げると、裕福なカーマニアたちが注目。不動産業で財を成したトニー・パラバノ氏や、石油業で成功したビル・ドヒニー氏もマカフィーを慕い、事業資金の支援を得て、シアタ・ディーラーの開業計画が進められた。

1952年のニューヨーク・モーターショーで、25台の輸入が決定。シアタの創業者、アンブロジーニ家は、盛大な祝賀会で新しいビジネスを歓迎したという。

とはいえ、シアタ社は無名なブランドだった。1952年のカレラ・パナメリカーナで、フェラーリ340 クーペをドライブし5位完走を果たしていた彼は、1953年のレースをシアタで戦い、認知度を高める作戦を立てた。

しかし、208 CS メキシコ・クーペの完成は間に合わなかった。出場は翌1954年へ延期されたものの、前述の通り走ることはなかった。

11月19日からのスケジュールに遅れたという説はあるが、10月16日にカリフォルニア州パームスプリングスで開かれたロード・レースには参戦している。1500cc以上のクラスで7位に入っているから、恐らくこれは違うだろう。

その2週間後には、同州モレノバレー郊外の空軍基地で開かれた、オレンジ・エンパイア・スポーツカー・レースにも出場。ホワイトとブルーに塗り分けられたドラマチックなボディは、観衆の話題をさらった。だが、完走はできなかったようだ。

フェラーリ500 モンディアルで参戦

ピストンに関わるエンジン不調が原因だった、という説もある。だが、最も信ぴょう性が高い理由は、フィアットがV8エンジンの生産を終了したことだと考えられる。シアタへの供給も停止し、アメリカで知名度を上げる必要性は、ほぼ消滅したといえた。

シアタ208はハンドメイドで、最終的な生産数は50台。その内、スパイダーが35台を占めている。マカフィーが依頼した208 CS メキシコ・クーペが、最後の1台になった。シャーシ番号は、BS537だ。

その頃の彼は、ロサンゼルス中心部、サンセット・ブルバードにフェラーリの正規ディーラーを立ち上げてもいた。最終的に、ドミニカ共和国の外交官、ポルフィリオ・ルビローサ氏とペアを組み、フェラーリ500 モンディアルへ変更し参戦している。

かくして、スタートから16kmを過ぎたところで、500 モンディアルはオーバーヒート。早々にカレラ・パナメリカーナをリタイアしているが。

レース後、マカフィーはフェラーリの輸入へ専念。ユニオン76ブランドの石油王、ドヒニーの希望へ応えるように、121 LMもオーダーした。鮮やかなブルーの塗装にホワイトのラインが入り、4.4L直列6気筒エンジンをフロントに搭載。これは極めて速かった。

マカフィーは、その121 LMを1956年のレースに向けて準備した。スポンサーへちなんで、ゼッケンは276番。カリフォルニア州サンタバーバラのイベントでは、マセラティ300Sを0.05秒差でしのぎ勝利し、強さを証明することでビジネス拡大へ繋げた。

この続きは、シアタ208 CS メキシコ・クーペ(2)にて。

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