9月に入っても、まだまだ暑い日が続きますが、9月というと熱心なクラシックカー愛好家にとって夏のしめくくりのようなイベントである新潟県糸魚川市の日本海クラシックカーレビューを忘れてはなりません。
日本海クラシックカーレビュー2019
なぜ、旧いクルマのデザインは秀逸なのか?[part1:ヘッドライト編]
今年も全国から、実動状態でオリジナルコンディションを保つ名車が約200台、フォッサマグナミュージアムに集まりました。
ちなみに、当日は糸魚川市の隣の妙高高原でも妙高ヒルクライム、静岡でもLOVE Classic Cars Awardと複数の大規模なクラシックカーイベントが開催された模様です。
昨年に続いて今年も、宿は「ペンションおはよう」に泊まりました。ちなみに今年は同じくエントラントの方のルーチェのほかに、ギャラリーの方がケイマンで来ていました。
ペンションは糸魚川からは少々離れているため、翌朝は早起きしなければいけないにもかかわらず、宿泊者全員クルマ好きとあってついついラウンジで夜更けまで話し込んでしまいます。
希少なオリジナルコンディションの名車達
直前まで天気が危ぶまれたものの、当日朝には薄曇りにまで回復。この状態で天気がもってくれれば過ごしやすくて好都合かなと思っていたのですが、開会式が始まると次第に晴れ間が見え、開会式が終わり午前のメインイベントのジョイフルラリーが始まる頃には真夏のような天気に逆戻り…。まだまだこの時期のイベントは天気が良すぎるというのも少々考え物です。(苦笑)
日本海クラシックカーレビューといえばオリジナルコンディション重視のイベントとあって、今回もオリジナルコンディションを保った希少な名車がエントリーしていました。
▲1966年型フォードマスタングコンバーチブル
まず目に入った車両はターコイズブルーの1966年型フォードマスタングコンバーチブル(アメリカ)。やっぱり初代セリカオーナーとしては、コンセプトやマーケティングに大いに影響を受けた初代マスタングは気になる存在です。
7月2日のマスタングの発案者リー・アイアコッカ氏の訃報もまだ記憶に新しいという方も多いのではないでしょうか。
通常グレードごとに固定されているエンジン、トランスミッション、内装の組み合わせをすべて自由に決められ、豊富なオプションを用意したフルチョイスシステムはセリカのみならず世界中の自動車メーカーに影響をもたらし、スペシャリティクーペというカテゴリーを確立しました。しかし1970年代に入ると栄光のアメリカ自動車産業にも次第に陰りが見え始めます。マスタングはアメリカ自動車産業が世界のトップランナーだった黄金時代の最期の象徴ではないでしょうか。
▲1974年型モーガン4/4 4シーターモデル
こちらは、筆者の地元名古屋で「ノリタケの森クラシックカーフェスティバル」を主催し、モーガン専門店アウトブルー(http://www.autoblue.co.jp/)を営んでいる小田さん所有の1974年型モーガン4/4 4シーターモデル(イギリス)です。
ご存じの方も多いと思いますが、1936年から21世紀に入って20年近くなる今日に至るまで基本設計から製造工程まで一切変更しないまま、ボディパネルはハンマーによる鈑金成形。今や乗用車には使われることのなくなったラダーフレームシャシー。キャビン部分は木工職人による手作りの木製フレームを使った内装を使用するなど、古めかしいボディデザインとともに頑なに守り続けています。
この車両が新車だった1974年当時ですら、もうすでに「新車で買えるクラシックカー」で筆者の幼少期に読んだ1970年代の自動車図鑑でも「戦前のスポーツカーの伝統を現代に伝えるクルマ」と紹介されていたように記憶しています。
▲1975年型パンサーJ72
1975年型パンサーJ72(イギリス)パンサーは1970~80年代にイギリスで活動していた、いわゆるバックヤードビルダーと呼ばれる少量生産自動車メーカーです。隣のモーガンと同様、1970年代当時ですでにレトロデザインだったこのクルマ。1930年代のジャガーSS100をモチーフにし、1930年代のクラシックカーのプロポーションを再現すべくラジエターの搭載位置をフロントアクスルよりも後退させるなど専用設計のフレームを用い、エンジンはジャガーXJシリーズのエンジンを使用し、内装はコノリーレザーを奢るなど凝ったものです。
このパンサーも筆者の幼少期の自動車図鑑でクラシックデザインのボディに最新のエンジンを搭載したクルマとして紹介されていた記憶があります。
1960年代後半から1970年代にかけても一度世界的な「クラシックカーブーム」のようなものがあったようで、バックヤードビルダーを有する国の中には既存、新造のシャシーにクラシックカーデザインのボディを纏い、中身は最新のエンジンやトランスミッションで中にはエアコンやオートマチックトランスミッションを装備したレプリカ車が数多く輩出されたことがあります。
事実上大資本の自動車メーカーに自動車生産を独占された日本においても、ごく少数ながら好事家やカスタムカービルダーの手によって、中古のダットサンや軽トラック等のラダーフレームを持つクルマにクラシックカーを模した自作ボディを架装するというケースもあったようです。
▲1927年型ロールスロイスファンタムI(イギリス)
日本海CCRの名物日本ロールスロイス&ベントレーオーナーズクラブの和田会長のロールスロイスですが、パンフレットを見ると当初は1910年のシルバーゴーストでエントリーしていたようで、諸事情によりファンタムIがピンチヒッターになった模様です。
優れた性能、静寂性からロングセラーとなったシルバーゴーストの後継モデルとして1925年に登場したのが、現在に続くファンタムシリーズの初代となる「ファンタムI」です。ゴースト以降ロールスロイス社はゴースト(幽霊)のように静寂性の象徴として実体の無いものを好んでブランドに使用し、後継モデルは幻、亡霊を意味するファンタムと命名されます。
諸説ありますが、ロールスロイス創始者の一人フレデリック・ヘンリー・ロイスが1933年に逝去した際に、永遠の喪に服すという事でフロントグリルのダブルRのオーナメントの色が赤から黒に変更したと言われており、この車両は1925年型のため変更前の赤いオーナメントになっています。
▲1955年型メルセデスベンツ190SL(R121型・ドイツ)
シルバーアローの伝説を彷彿とさせるSLロードスター、外見は通称「ガルウィング」の300SLと共通ですが、こちらは「ポントン」「ダルマベンツ」と呼ばれるW121型のコンポーネンツをベースにロードスターとして発売、直列4気筒1.9Lエンジンの110馬力と300SLとは遥かに大人しいスペックですが、ほぼレーシングスペックの300SLと違い、商業的には大成功を納めます。
1963年には、より安全性を高め、機械式インジェクションの直列6気筒2.3Lエンジンを搭載しパワフルになったW113型、通称「パゴダルーフ」にモデルチェンジします。
▲1973年型ポルシェ911カレラRS(ドイツ)
ダックテイルスポイラーと呼ばれる特徴的な空力パーツを持つ、いわゆる「ナナサンカレラ」です。ナナサンと言えば白のイメージが強いですが、このスピードイエローはこの車両の新車当時の純正色だそうです。
現在ではカレラは911の一般グレード名のようになっていますが、元々は1950~1954年にメキシコで開催された公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」にちなみ、1963年末に登場。日本では第二回日本グランプリでスカイラインGTと死闘を演じたホモロゲモデルのポルシェカレラGTS(通称ポルシェ904)に与えられたスペシャルモデルの名前です。911カレラRSもまた、市販の911Sをベースに軽量化、エンジンの排気量アップ、軽量フライホイール等レース用のチューニングを施したツーリングカーレース参戦前提のホモロゲモデルです。
前日泊まった「ペンションおはよう」に宿泊していたケイマンのオーナーの方が、ナナサンカレラに乗った事があると話していたのですが、「エンジンのレスポンスがレーシングカーそのままで、公道を走ることをまったく考えていない」という事だそうです。
国産も少しご紹介!今年のレーシングカー展示は…?
今年のレーシングカーの展示はホンダコレクションホールの全面協力によりロータスホンダ99TとマクラーレンホンダMP4/6が展示されていました。
▲ロータスホンダ99T(1987年)
ドライバーは日本人初のレギュラードライバーとなった中嶋悟とアイルトン・セナ。この車両は1987年のシーズンに製作されたもので、エンジンは前年までのルノーV6ターボからホンダのV6ターボに変更、有名なJPSカラーはこのシーズンよりキャメルカラーとなります。
当時圧倒的な強さを誇り、一時は1500馬力をたたき出したと言われるホンダ製V6ターボエンジンですが、1988年を最後にターボは禁止となります。(2014年より回生機能を持った特殊な1.6Lダウンサイジングターボとなります。)
▲マクラーレンホンダMP4/6(1991年)
ターボ禁止はホンダ一強を阻止するためと言われていますが、NA3.5Lに一本化されてもなおホンダの強さを阻む者はありませんでした。1991年シーズンはアイルトン・セナの開幕4連勝に始まり、セナの要求を受けシーズン中もエンジン、シャシーともにアップデートを重ねます。
1991年8月5日本田技研創業者本田宗一郎が逝去し、ハンガリーGPでセナは腕に喪章を巻いてレースに挑んだことも話題になりました。そしてこの年、セナは3度目のドライバーズタイトルを獲得しますが、それは同時に生涯最後のドライバーズタイトルとなります。
▲1967年(昭和42・日本)トヨタ2000GT
いわゆる初期型トヨタ2000GTです。場所柄なのか品川管轄のトヨタ2000GTは一桁ナンバーのまま大切に乗り継がれているクルマが多いように思います。
あまり知られていないのですが、初期型トヨタ2000GTの砲弾型ミラーの外側はメッキ仕上げ。内側は防眩仕様の艶消しガンメタの二色。後期型はガンメタ一色という違いがあります。
まだまだ、残暑が厳しい中車内には扇風機が置かれていました。ちなみにトヨタ2000GTに冷房が純正オプションで設定されるのは後期型になってからです。
日本海CCRといえば交通安全パレードです。今年は残暑が厳しく例年にも増してクルマにもドライバーにも負担が多かった事かと思います。ついついエアコンに甘えていた筆者も、ふと水温計を見て100℃近くまで上がっている事に気づいて慌ててエアコンを切った一幕も。(でも、動き出してラジエターに風さえ当たればすぐに水温が下がるのは流石トヨタ車)
▲1969年(昭和44・日本)日産フェアレディZ432R
今回の大賞は群馬県桐生市から参加の金子さんのフェアレディZ432R。今回この432Rを含めてS20型エンジンを搭載したZ432は3台、国内版S30型Zのフラッグシップとして投入されたZ432の432は4バルブ3連キャブレターツインカムを意味するとされています。
しかし扱いにくくレース用前提エンジンのS20と大陸向けのグランドツーリングとして企画されたZでは相性が悪く、生産台数は430台。結局国内仕様のフラッグシップも輸出仕様と同じ2.4Lが導入され、レースシーンでもチューニングの幅が広く、トルクの太い2.4Lが主流となります。
そのため当初はレース用目的のみで販売されていた432Rが不良在庫を抱えることになってしまい、建前上レース目的でしか販売しないとされていた432Rが(一説には30台程)一般ユーザーにも販売されたと言われています。
外観上の変更点はわかりにくいですが、外鈑パネルは軽量化のため標準よりも薄い鋼鈑を使用し、ラジオ、ヒーターは省かれ、アクリルウィンドウを採用、レース用の100Lタンクが装備され、キースイッチがセンターコンソールに装備されているのが最大の識別点です。
今年はお台場のニューイヤーミーティングが最後というアナウンスがありましたが、一方で新しいイベントも増えており糸魚川でも11月3日には1975年~1989年のクルマを対象にした糸魚川ネオクラシックカーフェスタが開催され、今までの日本海CCRの対象から外れていた、比較的新しめのクルマに門戸を開いたイベントが開催されるそうです。
毎週のようにどこかでクラシックカーイベントが開催されるこれからの季節。読者の皆様の地元でもクラシックカーイベントが開催されるかもしれません。その際はぜひ足を運んでみてはかがでしょうか。
取材協力:ペンションおはよう
〒399-9301 長野県北安曇郡白馬村みそら野
TEL:0261-72-7368 FAX:0261-72-8987
Mail:ohayo@hakuba.ne.jp
公式サイト:http://web.hakuba.ne.jp/ohayo/
[ライター・画像/鈴木 修一郎]
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