F1参戦2年目を迎えたローガン・サージェントに対して数ヵ月間、チャンスを与えてきたウイリアムズだが、F1オランダGPでのクラッシュにより、ついに更迭を判断。シーズン残り9戦に向けて後任として選ばれたのはチームの育成上がりの若手フランコ・コラピントだ。果たしてウイリアムズの判断は妥当なのだろうか?
■そもそもサージェント解雇は正しかったのか?
■急遽F1デビューが決まったフランコ・コラピント……特例に次ぐ特例でスーパーライセンスを手に
サージェントのウイリアムズでの立場は以前から微妙なモノだった。
すでにカルロス・サインツJr.が2025年にフェラーリからウイリアムズへ移籍することが決まっていたため、サージェントは2024年シーズン限りでF1を降りることになるかもしれないと思われる中、後半戦開幕を告げるオランダGPを迎えた。
ただ、そのオランダGPで事件は起こる。サージェントは雨降りしきるフリー走行3回目で大クラッシュ。チームが首を長くして待っていたアップデート版マシンを大破させてしまった。
ただウイリアムズとしては、この1年半の間サージェントの一貫性の無さに耐え、サマーブレイク中には代わりのドライバーを手配する猶予もあった。チーム代表のジェームス・ボウルズは、サージェントが本番ではないフリー走行で、不必要なミスで甚大な被害を被るクラッシュを喫した後、すぐにドライバー交代に向けて動いた。
オランダGPでのサージェントのクラッシュは、日本GPのフリー走行1回での出来事を彷彿とさせた。この時も同じように、タイヤがコース脇の芝生にはみ出し、マシンのコントロールを失っていたのだ。
F1チームが経験の浅いドライバーに声をかける際によく言われるのは「一度くらいミスをしてもいい。ただ、同じミスは繰り返さないこと」というモノ。サージェントは残念なことに、同じミスを繰り返しすぎたのだ。
サージェントは昨年から攻めすぎる傾向が強く、安定した週末を送り上位グリッドからスタートするチャンスを逃していたことから、ボウルズ代表が2年目のシートを与えたときは驚きの声も上がった。
しかしウイリアムズは、安定感さえあればサージェントにはスピードがあり、チームメイトのアレクサンダー・アルボンのペースに接近することができると見ていた。
F3時代にサージェントは、当時のチームメイトで現在はマクラーレンでF1初勝利を挙げたオスカー・ピアストリを追い詰めたこともある。可能性を秘めたドライバーだったのだ。
しかし、サージェントは十分な頻度で才能を発揮することが叶わなかった。シーズン開幕当初はアルボンにスペック面で厳しい戦いを強いられていたが、オランダGPでのクラッシュを見れば、スペアパーツ不足に悩まされてきたチームにとって、その判断が賢明なことだったと分かる。
サージェントはメディアとのやり取りの中で、この不平等な扱いや、成績の伸び悩み、そして最終的にサインツJr.となった自身の後任候補にまつわる雑音に、目に見えて不満を募らせていた。オーストリアGPのフリー走行でアルボンがマシンを大破させ、チームにスペアパーツがないことから、身代わりとしてマシンから降ろされたサージェントとしてはさぞ士気が下がったに違いない。
しかしサージェントは同等のパーツを手に入れた後も、経験豊富なアルボンに予選成績では完敗。F1での入賞は昨年のアメリカGPでの1ポイントのみとなった。
オランダGPでウイリアムズが行なった大型アップデートは、その苦しい状況を打破しようと行なったモノ。最低重量に到達していないマシンでシーズンスタートを切ったチームは、ようやくポイントを獲得する機会が増えるかも……そう信じており、それを実現できるドライバーがふたり必要だったのだ。
ボウルズ代表と彼のチームは、新レギュレーションがF1に導入される2026年から先を見据えているかもしれないが、コンストラクターズランキング9番手に低迷している現状を挽回するために必死であることも事実だ。
「シーズン途中でドライバーを交代させることは軽々しくできる決断ではないが、この決断によって、ウイリアムズが残りのシーズンでポイント争いを展開する上で、最高のチャンスを得ることができると信じている」とボウルズ代表は語った。
「マシンには大きなアップデートを投入したばかりで、非常にタイトな中団争いの中で、ポイント獲得のチャンスを最大限に活かす必要がある」
サージェントの後任はルーキーでいいのか?
苦しい現状を打破するために、ウイリアムズはアルボンと並んですぐにポイント争いができる速くて安定した手腕の持ち主が必要だった。ただ選ばれたのはルーキーのコラピント。一見すると不可解な判断のように思える。
アルゼンチン出身の21歳コラピントは、チームの育成プログラムから今年はFIA F2に参戦。アブダビでのルーキーテストに参加した後、今年のイギリスGPではフリー走行1回目に出走し、F1公式セッションデビューを果たした。
motorsport.comがコラピントのFP1出走に関してボウルズ代表に訪ねた際、彼はこう答えていた。
「非常に好調なF2シーズンのご褒美だった。我々が強力な若手ドライバープログラムを持っていると改めて認識するのは好きなことだ」
「ドライバーをマシンに乗せるのが早すぎると、“やけど”を負うと私は考えている。現代のF1では、ルーキーがリザルトに関して苦戦を強いられているのが分かるはずだ」
「実際、彼らに対する我々の投資や取り組みは、いかに旧車で走らせてあげられるか、ステップアップできると我々が選んだ時に事実上最強のポジションにいるかを確かめる準備にどれだけ時間をかけられるかだ。今のところ、フランコに我々は提供できていない」
F1デビューを果たす時にコラピントが“最強の状態”でいられるかどうかは分からない。しかしイギリスGPで堅実な仕事をし、その後のメディア対応でも大人びた印象を与えていた。
コラピントは失うモノが何も無いとわかっている。滑り込んだウイリアムズのシートは、残り9戦の出来にかかわらず、2025年にはサインツJr.のモノになることが決まっているからだ。
しかしウイリアムズは、チームの若手育成プログラムに衆目を集めるだけでなく、コラピントがF1とF2の両方でどんな走りを見せるのか気になっているに違いない。
また、ウイリアムズはサージェントの後任を選ぶ際に“よりどりみどり”という状況ではなかった。コラピント起用が発表される前には、メルセデスのリザーブドライバーで世界耐久選手権(WEC)にはアルピーヌから出場するミック・シューマッハーや、レッドブルのリザーブドライバーであるリアム・ローソンが候補に挙がっていた。
メルセデスのトト・ウルフ代表のように、低迷したハースでの2シーズンではシューマッハーの真の実力が見えていなかったと感じる者もいれば、F2チャンピオンながらF1シートを掴めなかったフェリペ・ドルゴビッチなどとは異なり、F1のチャンスを手にしていたと主張する者もいる。
またシューマッハーのF1でのクラッシュの多さから、ウイリアムズはまた不安定なドライバーに手を焼くことを恐れたかもしれない。
昨年、負傷したダニエル・リカルドの代役としてアルファタウリからF1代役出走を果たし、印象的な成績を残したローソンも、ウイリアムズにとっては最も論理的な選択肢だったはずだ。
レッドブルは来年、ローソンに対して陣営内外を問わずF1シートを提供することを約束しているよう。今季の残り9レースに出場する機会を与えることは、すでに結果を出せることを証明していたとしても、完璧な準備期間になったはずだ。
しかしローソンがレッドブルのリザーブドライバーとして、2チーム4シートをカバーするということが、契約締結に至らなかった原因だと考えられる。
「どの条件かにもよるだろうが、もし我々が彼を必要とするならば、かなり早くに戻すことができる」
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はそう語った。
「しかし、もし彼らが来週末にドライバーを必要としているのであれば、我々はそれに対してオープンだ」
残り9レースで一貫性と結果を求めているウイリアムズにとって、レッドブル陣営の4名のドライバーのうちひとりが欠場すればローソンを急遽返さなければいけないという状況は、リスクが大きすぎたのかもしれない。
実績のないコラピントを起用する大胆な決断もまたリスクではあるが、どの判断が吉と出るか凶と出るかは時間が経ってみなければ分からない。しかしウイリアムズには、育成上がりのサージェントの続投を断念したとはいえ、少なくとも将来有望なアカデミー生の才能を開花させようという気概があるようだ。
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