2023年1月10日に海上自衛隊の護衛艦「いなづま」が山口県の周防大島沖で座礁、さらに1月20日には海上保安庁の第九管区に所属する巡視船「えちご」が新潟県柏崎市沖で座礁と、このところ船の事故が続いている。座礁の詳しい原因については公表されていないので、ここでは触れない。とはいっても艦船が座礁事故を起こすのは何らかの運行上の問題があったからだろう。
護衛艦や民間船がどのようにして航海を行っているのかは、なかなか知る機会がない。そこで今回は船の航法や船を動かす艦橋の設備、艦橋で働く乗員について取り上げてみる。
道路のように車線も案内板もない海。いったい艦船は、どのように航海を行うのか?
文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊、US NAVY
■航法は船を目的地に到達させるための方法
艦船が沿岸海域を航海しているときは、地形や陸上の物標、航海標識などの目印となる物を観測して船位を決定(自船の位置を決定)し、海図で確認しながら航行することで目的地に到達する。
しかし、物標のない大洋上を航行する場合はそうはいかない。緯度・経度の分かっている出発地から目的地に向っての針路や航程(道のり)を算出して航路(どのように航行していくか)を決定し、航海中には針路と航走距離から推測位置を求め、観測などで現在の船位を決定して航路に従っているかを確認する。針路を修正したり、航路から外れる場合は、現在の船位と針路・速力から未来位置を求めて航行することになる。
長距離の航海において艦船がどのように航行していくかというルートの取り方の代表的な例が、航程線航法や大圏航法で、軍・民間ともに使用されている。簡単説明しよう。
<航程線航法>
針路を一定にして航走する航法で、出発点、到着点の経度・緯度を基にして船の針路や航程を算出して航行を行う(漸長緯度航法ともいう)。これは、針路は子午線と船首尾線の交角にあり、子午線は全て極に集中するので針路を東西あるいは南北にとった場合を除いて、螺旋状に極に収束していくという性質を利用している。針路を細かく修正する必要がない航法だが、航行する距離が長くなる。
<大圏航法>
地球の中心を通る平面と球面の交線を大圏といい、地球の中心を通らない平面と球面の交線を小圏という。地球を球と考えたとき、地球上の2点間の最短距離はその2点を通る大圏の弧の長さになることを利用した航法。大圏を航海して両地間(出発点と目標点)を最短距離で航走できる航法で、大圏に沿って変針を行いながら航行する。最短距離で目的地に到達できるため航行距離の短縮や燃料の節約ができるが、細かい針路修正が必要になる。
いずれの場合も針路や航程を計算する必要がある。昔は対数表を使って手計算でこうした航法計算を行っていたが、今日の艦船では船内に航法計算機や航法計算プログラムが組み込まれた測位システムなどが搭載されているので、簡単に算出できるようになった。針路や航程は海図に記入され、それに従い航海を行う。
■船位を決定する方法
艦船がどの航法により航海を行うとしても、まず船位を決定できなければならない。これは緯度・経度で表すか、特定地点からの方位、距離などで示される。船位を決定する方法には以下のようなものがある。
六分儀を操作するアメリカ海軍の水兵。六分儀は物標の高低や夾角などを測定するための航海機器で、天測でも使用される。航法装置が大きく発達した現代でも、各国の海軍で航法の基本として六分儀の扱いを訓練する
(1)陸測による船位の決定法
陸上の物標の方位、距離から「位置の線」を決定する、2つの物標の水平夾角から「位置の線」を決定するなどの方法で「船位」を得る。「位置の線」とは船位がその線上に存在する直線または曲線のこと(Position Line)。2本以上の位置の線の交点が船位になる。この方法は沿岸海域を航行する際にしか使えない。
(2)天測による船位の決定法
太陽や月、恒星など天体の位置を観測して船位を決定する方法。原始的な方法だが航法の基本であり戦闘などで航法装置が使用できなくなった場合に備えて、各国の海軍では今でも訓練を行っている。
(3)電波による船位の決定法
地上に設置された無線航法支援設備から発信される電波を利用して船位を決定する方法。電波方向探知機を使う方法からロラン、デッカ、オメガがあったが、これらは今日では使用されていない。
(4)衛星による船位の決定法
航法衛星から発信される信号電波を使用して船位の決定を行う方法で、一般的には航法衛星システム(NSS:Navigation Satellite System)といわれる。最も有名なのがアメリカが開発したGPS(Global Positioning System:全地球位置把握システム)。
(5)慣性航法装置による船位の決定法
慣性航法装置は外部からの航法支援装置による支援を必要とせずに船位が決定でき、自立航行を可能にする。主に航空機や潜水艦で使用され、水上艦艇ではあまり使用されない。
■GPSとはどんなもの?
軍民間を問わず最も使用されているのがGPSだ。GPSは、それまでの自己の位置を決定するという作業を大幅に軽減してしまった。カーナビやスマートフォンにも使用されており、いまやわれわれの日常生活にも浸透している。
GPSは、いつでもどこでも高い精度で自己の位置を知ることができる、GPS衛星(航法衛星ナブスター)を使用した航法システムである。システムは軌道上に配置されたGPS衛星と、それぞれの衛星が発信する信号情報を衛星に送りコントロールする制御局、発信する信号情報が正確であるかどうかを監視するモニター局で構成されている。
航法データとなる信号を発信するGPS衛星は約30機、高度20200kmの衛星軌道上に配置(各衛星は赤道から55度傾斜した軌道傾斜角を取り、12時間で地球を一周するように配置)され、各衛星は識別信号、宇宙空間に置ける現在位置、原子時計による現在時間などの情報を発信し続けている。利用者は、GPS受信機で4つの衛星から発信される情報を受信して自己位置(緯度・経度の座標、時間)を簡単に求めることができる。
GPS衛星が最初に打ち上げられたのは1978年2月のこと、最初のブロックIシリーズから現在のブロックIIIシリーズまで打ち上げられている。
1991年の湾岸戦争では、地形の目標となる指標が何も無い砂漠でもアメリカを中心とする連合国部隊がGPSを使い自己位置を把握、縦横無尽に活躍したことでもお馴染みになった。GPSを使用すれば友軍の位置や敵部隊の位置を同一座標系の地図にリアルタイムで表示することも可能なので、作戦の立案等で多いに役立った。
GPS衛星の発信する信号電波には、高い精度を持つ軍用のPコードと誤差データを加えて精度を落とした民間用のC/Aコードがあったが、2000年代に入ってC/Aコードから誤差データを加えるSA操作が解除され精度があがっている。今日では航空機から艦艇、砲弾までGPSを利用しており、軍では当然として、民間でもに欠かせない航法装置になっている。
■日本独自の衛星測位システム
アメリカが開発したGPSは世界中で使用されているが、各国でも自前の衛星測位システムを開発・運用を進めている。戦争などでGPSが使用できなくなった場合に備えたり、GPSでは不確実となる地域での位置情報を補うためだ。EUではガリレオ、ロシアではGLONASS、中国では北斗衛星導航系統(北斗衛星測位システム)という全地球衛星型の航法衛星システムを運用している。
日本でも地域衛星型だが、独自の準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)という衛星測位システムがある。
準天頂衛星システムはGPSのように全地球規模で航法衛星を配置するのではなく、準天頂軌道を周回するように設定した航法衛星で局地的な位置情報を提供するもの。日本の準天頂衛星システムは、準天頂衛星「みちびき」の4機体制で2018年より運用が開始され、最終的には7機体制で運用される予定。
準天頂軌道とは、赤道上空の静止軌道(地上から約36000km)を日本の上空を通過するように40~50度傾けた軌道だ。この軌道上を周回する衛星は地上から見ると8の字を描いて回っているように見える。複数の衛星が準天頂軌道を回ることで日本からオーストラリアまでのアジア太平洋地域で位置情報の利用が可能となった。基本的に航法衛星から発信される信号電波を受信して位置を確定する原理はGPSと同じである。
海上自衛隊では通常GPSを使用しているが、GPS衛星が攻撃されシステムが使えなくなった場合に備えて準天頂衛星システムの導入を決定、2019年から一部の護衛艦への受信機の配備と運用が始まっている。
■艦橋には艦船を動かすための設備が集中している
これまで大まかに話をしてきた航法を使って艦船は航海を行う。そして実際に艦船を運航させるための設備は艦橋に集中し、運航要員が艦橋に配置されている。では艦橋にはどのような設備が設置されているのだろうか。
護衛艦を例に主要な設備を説明すると、まず艦橋正面の窓の上に並べて設置されているのが各種航海用計器だ。艦の状況を表示する舵角指示計、傾斜計(艦の傾きを示す)、速力計、CPP(可変ピッチプロペラ)の翼角指示計が並ぶ。さらに時計や風向・風速計なども置かれており、ひと目で状況が分かるようになっている。ちなみに航海計器には(1)船の針路や方位を計る計器、(2)速力を測る計器、(3)位置を求める計器がある。
またディスプレイもいくつか取り付けられており、そのうちひとつは船体運動の状況表示装置で、艦橋の右舷前方に設置された艦長席からも見やすい位置にある。
艦の進む方位を測定するのが羅針儀(ジャイロコンパス)で、艦橋正面中央に置かれている。羅針儀は回転するジャイロスコープの性質を利用した装置で、ジャイロ軸が常に真北を差し続けるようになっている。また艦橋の両舷にある張り出し甲板には羅針儀と電気的に接合され同一の示度を表示する従羅針儀が置かれている。羅針儀は艦の針路を保ったり、目標の方位測定などに使用される。
艦橋正面の右舷よりには航海レーダーや対水上レーダーの情報や海図などが表示できる2台のディスプレイ装置が置かれ、艦橋中央には操舵コンソールや速力通信機、通信装置などがある。
操舵コンソールは艦の動きを制御する装置。舵輪が付いており、それを回すことで直接舵が動かせる(舵は左右30°まで切ることができる)。また人か操舵しなくても設定された針路を保つように自動制御を行うオートパイロット機能も付いている。速力通信機は艦の速度を機関室に指示する装置。速力を指示するタッチボタンや主機の回転数などを表示する計器が並んでいる。新しい艦では艦橋で直接主機の出力を操作できる機能を持つ。操舵コンソールと速力通信機は1名で操作するのではなく、2名が配置されている。
ちなみに護衛艦は戦闘を行うための船なので、艦種によっては艦橋に船を運航するための設備だけでなく、搭載する兵装システムを制御する設備も置かれている。
■艦橋ではどんな乗員が働いているのか?
航海中の護衛艦の艦橋には艦長、航海長、当直士官などの幹部と航海科員や当直の海曹士(砲雷科の水測員を除いた各科員)が所在している。艦長は艦長席に座り艦全体の指揮を取るが、通常の航海では航海長や当直士官に艦の操艦を任せる。
当直士官は1等海尉以上で、海上自衛隊の運航2級(国家資格の航海3級海技士免許に相当する)以上の海技資格を有する幹部。2等海尉以下の幹部は副当直に就く。当直士官は操艦を行うが、針路・深度の変換、速力の増減、機関待機の変更、錨鎖の伸縮などの重要な作業のときには艦長の命によって行わねばならないと定められている。
航海長は艦の安全運航に関わる業務や業務に関わる物件の整備などを所掌するが、航海計画を立案するのも重要な業務のひとつ。航海計画とは船の航海にあたって針路や航程を計算し予定航路を立案すること。また、出入港、狭水路通過、艦隊の陣形運動の時や、細かな針路変換や速力の増減を行う海域での航行では艦橋にいなければならない。通常、航海長が操艦を行うことはないが、艦長の命により行う場合もある。
当直士官や航海長の出す操艦指示に従って、実際に艦を動かす舵を握ったり速力通信機を操作するなどの作業を行うのは当直の海士。伝令も当直の海士の仕事だ。航海中に艦橋両舷の張り出し甲板などで双眼鏡を持って艦の周囲を見張るのも当直の海士の仕事で、見張員は一番若手の海士が当てられる。そして当直海曹は艦橋で作業を行う海士を監督する。
ちなみに航海科員は手旗信号、発光信号、旗旒信号(きりゅう信号:船舶間の通信に利用される旗を使った信号)により自衛艦あるいは商船とのメッセージ交換を行うなどの仕事で忙しいため、ほとんど舵や速力通信機の操作を行うことはない。
航海中の護衛艦は24時間航行を続けるので乗員は交代制を取っている。交代制は勤務によって異なり3時間ごとの3交代制または6時間ごとの2交代制が採られており、艦橋では3時間3交代制で当直勤務が行われる。
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みんなのコメント
航路筋にわざと漁網を入れて壊れたら賠償を請求する
これが日本の漁業ヤクザの実態
ここに書かれていること全てが実行されていれば
理論上、事故は起こらないわけで・・・・・・