新生児の頃に自宅へ戻った時もミニ
執筆:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
【画像】最初期のモーリス・ミニ・マイナー 現行型のミニJCW、ミニ・リマスタードと比べる 全85枚
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
貴重な1959年式のモーリス・ミニ・マイナーを所有していたジョン・ボルスター氏は、1970年代に入るとフィアット850クーペを普段の足にした。1980年代に体調を崩すと、ミニは義理の息子、デビッド・ダンネル氏へ引き継がれた。
以降の20年間、981 GFCのナンバーを付けたミニは殆ど走ることもなく、ウェールズにあるダンネルのガレージで保管される。ミニ・コレクターでレストア職人でもある、デイブ・ボズウェル氏が彼を説得し、3番目のオーナーになるまで。
価値あるミニを多数所有するボズウェルは、981 GFCのレストアへ着手。可能な限りオリジナルを目指した。特に意識されたのが、クルマの特長や履歴。当時のプレスカーでもあり、最初期のミニとしてベストな内容を持つ1台でもあった。
見事な修復を経て、現在のオーナーはジョン・パウリー氏だ。1964年式のクーパーS 1071ccもオリジナル状態で所有する、生まれながらのミニファンらしい。
「わたしが生まれて病院から自宅へ戻ってきた時も、1959年の白いモーリス・ミニ。免許を取得し、初めて運転したのもミニです。英国人の多くの家族が、何らかの関係を持っていることも好きな理由の1つですね」
熱狂的なミニ・ファンとして、パウリーは981 GFCと、本来のオリジナルとの相違点を指摘できる知識を持つが、それほど数は多くないという。1959年のミニとして、最高の状態だと間違いなくいえるようだ。
ボルスターが追加したという社外部品もそのまま。それに関する記事と照らし合わせても、食い違う部分はほぼない。
オリジナル・ミニの運転は発見の連続
フロントガラスのウオッシャーは、ガラス瓶が用いられている。冬の寒さで凍結すると割れるため、ほどなくしてプラスティック製に変更された。もちろん、ミニ・ファンにとって、ウィンガード社製のボトルは興奮するアイテムの1つだ。
Aフレーム形状のジャッキや、3本のボルトで固定されたヒーターもマニア垂涎だろう。積極的に運転すると割れてしまうが、リベット打ちされた10インチ・ホイールもレア・アイテムだ。
デラックス仕様のミニとして、ツイン・サンバイザーに灰皿も装備されている。クロームメッキは多めに施してある。
当時のミニは、オースチン仕様とモーリス仕様とで違う工場で製造されていた。素材となった鉄板も、別の工場から手配していたことは興味深い事実だ。モーリスの方が僅かに肉厚な鉄板を用いており、オースチンより耐久性は高いらしい。
1959年式のミニが抱える問題としては、フロアパンの設計が原因で起きる、フロアに溜まる水。ルーフから伸びる雨樋の先に、ドレインホールがなかったのだ。
非常に美しい981 GFCは、イベントにも引っ張りだこ。もちろん、自走で会場へ向かう。「ボルスターが追加したリモートギア・リンクは、良いとは感じません。リアガラスのブロワーもイマイチ。珍しいですが」
筆者はモーリス・ミニ・マイナーに接する機会がこれまで多くなく、運転は発見の連続だった。現代のクルマとくらべて、驚くほど小さいということ以外にも。
小さく軽く懐の深いミニだけの新鮮な喜び
小柄でも品格がある。小さな10インチ・ホイールが、ボディの四隅で確実に支えている。専有面積は小さくても、タイムレスなクルマとしての訴求力を強く備える。
乗り降りしやすく、全方向の視界は良好。ドアには小物入れが付いていて、ダッシュボードやシートの下の空間にも無駄がない。
ドアパネルやシート表面は、ICI社製のビニドと呼ばれるビニールクロス。ボルスターが吐いたニコチンのシミが、全体に残っている。ボルスター本人が被っていたという鹿撃ち帽も、親族を通じてパウリーが受け継いだ。
フロアにレイアウトされたスターターボタンを押し、エンジンを始動。1速に入れ加速する。トランスミッション内のトランスファーギアから、甲高い唸りが響く。シフトダウン時に引っ掛かりがある。
848ccのAシリーズ・ユニットは、とても粘り強い。パウリーによれば、多くの場面で2速発進できるとのこと。走行時は97km/hほどまで対応できる、3速に入れたままで大丈夫だという。4速は、高速道路用だ。
例え最高出力34psでも、ギアに関係なく意欲的に加速する振る舞いには、妙に引き込まれる。ボディの大きさには関係ない、軽く懐の深いミニには新鮮な喜びがある。
加速力は2.0Lエンジンのサルーンに引けを取らず、80km/hで走っていても恐怖感はない。110km/h以上の速度域でも、安定して運転できる。クーパー仕様など、スリリングな派生ミニが時間をおかず誕生した理由にもうなずける。
イシゴニスとBMCが生んだ傑作
自然で安心感のある、感心するほど正確で軽快なステアリングの操舵感と、前輪駆動の基準を築いたといえる即時的なレスポンス。どんな道を運転していても、オリジナル・ミニの素性の良さを感じ取れる。
ナーバスさを伺わせることなく清々しいほど機敏に回頭し、ラバースプリングでボディロールも限定的。乗り心地も悪くない。良く効くブレーキも含めて、余計な気遣いなしに小粋で陽気なクルマの運転を楽しめる。
子供の頃に遊園地のゴーカートを初めて運転した時のように、気持ちの根っこに響いてくる。イシゴニスが与えた動的な特性が、身体へ直接的に響く。これほど素晴らしい体験を与えてくれるクルマは、ほかにない。
60年前の庶民の足は、一般的に楽しい存在ではなかったはず。1959年当時のバスやバイク、戦前に作られた中古車などは、誰もが喜んで乗る対象ではなかっただろう。ミニの登場は、社会的に巨大な影響を与えるものだった。
吸収合併を繰り返したBMCだからこそ、こんな傑作を作ることができたのかもしれない。しかし、自らの身を守るのに充分な利益は得られなかったのが皮肉だ。
現オーナーのパウリーも、このミニを売れば少なくない利益を得られるはず。でも、そのつもりはないという。「多くの人が博物館に入れるべきでは、と話します。ですが将来の所有者も、わたしと同様にミニの歴史を理解する人であるべきだと思います」
981 GFCのナンバーを付けたモーリス・ミニ・マイナーのオーナーとして、彼以上の人物はなかなか現れなさそうだ。
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みんなのコメント
挙動、運転席からの眺め、注意点等は大きく変わらないですが、それぞれの良さがあります。生産が終了して随分と経ちましたが、こうした記事が寄せられる事に感謝します。