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怒り、喜び、感涙、プライド……感情の全てがここにある。2023年スーパーフォーミュラ:無線ベストセレクション

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怒り、喜び、感涙、プライド……感情の全てがここにある。2023年スーパーフォーミュラ:無線ベストセレクション

 スーパーフォーミュラでは2023年シーズンより、アプリ『SFgo』を通して決勝レース中の各ドライバーの無線が聞けるようになった。これによって参戦するドライバーの個性や秘めたる感情があらわとなったが、今回はその中でも印象的だったものをピックアップする。

■新人ローソンにいきなり敗れた野尻が「やり返した」富士戦(第2戦富士)

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 富士スピードウェイで行なわれた第1戦は、TEAM MUGENのリアム・ローソンが鮮烈なデビューウインを飾った。チームメイトで前年王者の野尻智紀をピット戦略でアンダーカットしての勝利だったが、敗れた野尻はセーフティカーランでチェッカーを迎えようとしている時、担当の一瀬俊浩エンジニアと冷静にやりとりしていた。

チーム:「ピットアウトの瞬間はリアムが速かったけど、最後野尻さんがプッシュし始めてからのペースはうちの方が速かったよ」
野尻:「なんか、寒くなったじゃん? 日が陰って。そしたらだいぶリヤ(のグリップ)が戻ってハンドル切れるようになってきたから、リヤ車高とかフロント車高とかを検討すること。あとはブレーキでリヤタイヤが路面から離れちゃって、それでオーバーステアがあるから、そこを直せばまあ大丈夫かな」
チーム:「了解。明日はやり返しましょうね」
野尻:「そのつもりです」
 翌日に行なわれた第2戦で野尻は、ポールポジションから逃げ切り優勝。文句なしのレース展開を見せ、チームをこう労った。
野尻:「こんなもんだよ。ねえ、みんな! 次も頑張ろう。クルマすごく良くなったね」

■日本は甘くねえぞ!(第3戦鈴鹿)

 鈴鹿サーキットでの第3戦でポールポジションを獲得したのは、TGM Grand Prixの大湯都史樹だった。レースペース自体はライバルからやや後れをとっていたものの、粘りの走りを続けていた大湯は19周目にピットイン。事実上の3番手でコースに復帰したが、その後ろには野尻が迫っており、2台はS字で接触。野尻に追突される格好となった大湯の悲痛な叫びが、場内放送や中継映像を通して流れた。

野尻:「あぁ……ごめん」
大湯:「おい!!!……おい!!」
大湯:「なんで……なんでこうなるの! なんで……」

 前述の大湯と野尻のクラッシュにより、終盤にセーフティカーが出動した第3戦。これでチャンスが巡ってきたのが平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)。まだルーティンストップを終えていなかった平川に、チームからこのタイミングでピットインするよう興奮気味に無線が飛ぶ。

チーム:「この周BOXBOXBOX!! BOXBOX、SCでるよBOX、BOXBOX、BOXBOXBOX」
チーム:「BOXだよ、BOX」
チーム:「BOXBOXBOX、BOXBOXBOX、セーフティカー、BOX」
平川:「うるさいうるさい! 分かってる、分かってるよ」

 そんな平川はピットアウト後に4番手となり、前を行くローソンを追いかけたが、実は平川、レース中のローソンの狡猾なブロックに苛立っていた。そんな状況下で、残り2周でローソンをオーバーテイクした直後に、ファンから大きな反響を得た“名言”が飛び出した。

平川:「気持ちで抜いた、気持ちで。日本は甘くねえぞ! 日本は甘くねえぞ」

■池田作戦vs上城作戦(第4戦オートポリス)

 第4戦オートポリスは、王者野尻が病欠という波乱含みの幕開けとなった。レースでは宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)を退けたローソンが2勝目を飾ったが、その裏でこの時も目立っていたのは大湯。最終的には阪口晴南(P.MU/CERUMO・INGING)との接触で戦線を離脱することになるが、ピットストップのタイミングを巡るチームとのやりとりでは、池田和広チーム代表、上城直也エンジニアをコードネームに使った斬新な会話をしていた。

チーム:「タイヤ的に池田作戦はいけそう?」
大湯:「上城作戦がいいと思う!」
チーム:「了解。検討する」
チーム:「上城作戦は検討してるけど、池田作戦も捨てられない。池田作戦も頭に入れといて」
大湯:「Copy(了解)」
チーム:「雰囲気的に、上城作戦が良いかな。どう?」
大湯:「上城(で行こう)! けっこうキツい」
大湯:「フルプッシュして、もう無理ってなったらBOX」

■セーフティカーvs大湯(第5戦SUGO)

 スポーツランドSUGOでの第5戦でも、大湯の無線は冴え渡った。シーズン2度目のポールポジションからスタートした大湯は、オープニングラップの接触でセーフティカーが出た後、隊列の先頭でセーフティカーの走りを間近で見ていた。そんな大湯から飛び出したのがこの無線だった。
 
大湯:「速いね。運転してるドライバーすごいよ。めちゃ速い」
大湯:「良い飛び込み。1コーナーのブレーキめっちゃ良い」
チーム:「セーフティカーに負けないようについていって」
大湯::「いや、速すぎて負けそうなんだけど……」

■優勝を逃した平川と小林(第7戦もてぎ)

 スタート直後の多重クラッシュにより赤旗が出された第7戦もてぎ。ポールポジションスタートの野尻が逃げのレースを展開するが、戦略もうまく噛み合って猛然と追い上げていたのが平川。最終的には2位に終わったが、ピット作業でのロスがなければ優勝できたはずだと謝罪するチームに対し、故郷広島の方言を彷彿とさせる言葉で返答した。

チーム:「お疲れ。ピットごめん、いけてたよ。勝ててたよ。お疲れさん」
平川:「あー……2位は嫌いじゃ」

 もてぎではピット絡みのミスで優勝のチャンスを逃したドライバーがもうひとり。Kids com Team KCMGの小林可夢偉だ。小林は赤旗後のレース再開を4番手で迎え、レースペースも好調だった。しかしピット作業中にミスがあり、約10秒ほどロス。大きくポジションを落とした。

 ピットアウト時にも「なんなんいっつもほんまに……」と落胆していた小林の気持ちは収まることなく、レース後にもこのようなやり取りをしていた。

チーム:「可夢偉7番手、申し訳ない」
小林:「申し訳ないじゃないよ。もうお腹いっぱいやわ」

 レース後にもメディアに対して「僕の心は若干折れたので。最後のつもりで頑張ります」「来年乗るかどうか分からないです」と、スーパーフォーミュラの引退もほのめかすコメントをするほど落胆していた小林だが、2024年の残留が決定。気持ちを切り替え、チームと共に再び前を向く決心がついたようだ。

■悲喜こもごもの最終決戦(第9戦鈴鹿)

 そして舞台は鈴鹿に戻り、タイトル争いが決する第8戦・第9戦が行なわれた。第8戦は大クラッシュ発生により途中終了、ハーフポイントとなったが、第9戦ではタイトルを争うローソン、野尻、宮田が共に上位争いを展開。結局3位に入った宮田がシリーズチャンピオンとなった。

 4位に終わり、シリーズ3連覇を逃した野尻は、悔しさを噛み締めると共に、ファンからの声援に感激したようだった。

野尻:「一生懸命やったんだけど……みんなが速すぎた。ごめんなさい」
野尻:「ファンのみんなも、負けても手振ってくれて、優しいわなんか……ああ……しょぼかったな」
チーム:「いや、出せるだけは出したでしょう」

 2位に入ったローソンもタイトルには届かず。最後は日本語でチームに感謝を述べた。

ローソン:「頑張ったしプッシュしたけど、優勝してもチャンピオンにはなれなかったかもね。みんな頑張ってくれたし、申し訳ない」
チーム:「こちらこそごめんね。TEAM MUGENでスーパーフォーミュラを戦ってくれてありがとう」
ローソン:「みんなありがとう。今シーズンは最高だった。チャンピオンまであと一歩だっだし、これまでで一番楽しいシーズンだった。アリガトウゴザイマス、オツカレサン」

 一方で、チャンピオンの喜びを無線で爆発させる宮田。チームスタッフがかわるがわる無線をとって祝福するが、その中には笹原担当の大立健太エンジニアも。宮田はそのやり取りの中で、前日のクラッシュで欠場となった笹原の思いものせて走ったと語った。さらに初優勝の太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)も祝福した。

チーム:「リトモおめでとう」
宮田:「大立さんも相談乗ってくれてありがとうございました。本当助かりました。右京も元気でいると嬉しいです。右京の思いも乗せて走ったので」
チーム:「右京も喜んでると思う、ありがとう」
宮田:「初優勝の格ちゃんおめでとう。かっこよかったよ」

 そして前半戦の苦境を乗り越えて初優勝となった太田は涙。チームプリンシパルの村岡潔氏の「おめでとう!おめでとう!!おめでとう!!!」の大絶叫に涙声で返答し、エンジニアらチームスタッフへの感謝を述べた後、次のシーズンへの意気込みも力強く語った。

太田:「ありがとうございます……前半戦本当に苦しかったけど、最高です。こんな終わり方できるとは思わなかった。ありがとう」
太田:「来年は俺らがチャンピオン争いしましょう」

文:motorsport.com 日本版 戎井健一郎
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