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5000km試乗して分かったアバルト「595 モメント」の本質とは? 週末峠派には激推し!

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5000km試乗して分かったアバルト「595 モメント」の本質とは? 週末峠派には激推し!

■アバルト「595シリーズ」は痛快この上ない!

 FFのスポーツ・モデルのなかで「どれが一番好み?」と問われたら、まったく躊躇うことなしに「アバルト『595シリーズ』だな」と僕は答える。

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 フィアット「500」とほぼ同じといえる愛らしいスタイリングをした適度に小さい車体、火を入れた瞬間から熱い気持ちにさせられるエネルギッシュなエンジン、背の高さや丸っこいカタチからは想像できない運動性能。コンビニまでの5分も走ればスッキリ気分転換ができちゃうような、痛快なことこの上ない小型爆弾である。

●機械式LSDの組み込まれた595に惹かれる今日この頃

 ただ、595シリーズはラインナップのなかからどのモデルを選ぶかが、なかなか難しい。どれも同じベクトルの上にキッチリ乗ってるのだけど、様々なバランスが絶妙なスタンダード「595」、充分以上の速さとロングでの快適さを兼ね備えた「595ツーリズモ」、そのオープン版の「595Cツーリズモ」、シリーズ最強モデルでそのままサーキットに持ち込んでも楽しめちゃう「595コンペティツィオーネ」、と少しずつ個性が違う。

 アバルトらしい刺激的な味わいはどのモデルでも満喫できるが、味の広がる方向が少しずつ異なってるのだ。ボロネーゼなのかアーリオ・オーリオなのか、あるいはジェノヴェーゼかアマトリチャーナか。最初から選ぶメニューが決め打ちできるなら問題はないのだが、いずれも美味いし好物だからオーダーに悩む、というようなものだろう。パスタ全体が好きな僕は、まさしくそのタイプ。アバルトに関してもまったく同じだったりする。

 けれど最近、ひとつの方向性が見えてきた……かも知れない。ちょっとばかり機械式LSDの組み込まれた595がいいかも、という想いが大きくなってることに気づいたのだ。なぜそんな方向に振れてるのかといえば、ここしばらくの間、「595 モメント」を走らせることが多かったせいに他ならない。

 595 モメントは、2021年3月に発売された595のスペシャルエディション。日本での正規販売はたった80台のみ、だ。発表された直後に、ほとんど完売状態になったモデルである。その貴重なクルマにちょいちょい乗っていられるのは、ひとえに名古屋にあるチンクエチェント博物館のおかげ。

 ちなみに80台の内訳は、右ハンドルが31台、左ハンドルが49台となっていて、すべてMTのみという潔い仕様となっている。

 博物館からいただいてる仕事のためにお預かりして短期間のうちに3500km以上を走る流れとなり、再び別の仕事でお預かりしてそこそこの距離を走ってイマココ、なのだ。「こっちにあっても誰も乗らないから、ついでのときでいい」ということなのだけど、東京住まいで名古屋への「ついで」なんて、そうあるもんでもない。7月に博物館に行く用事があるのでそのままお言葉に甘えてるのだけど、距離を伸ばすのに気が引けて極力乗らないよう心掛けていても、最初に預かったときに200km弱だったオドメーターはそろそろ5000kmだ。僕は4500km以上、モメントに乗ってる計算。それでも「距離なんていくら伸びても全然かまわない」というのだから、何とも太っ腹。僕としては、ただただ感謝するばかりだ。

 モメントが他の595とどこが違うのかといえば、まずはルックス。Grigio Opaco(=不透明なグレー)の名がピタリとはまってるマットなグレーのボディカラー。ブラックの17インチ専用アロイホイール。カーボン仕立てのドアミラーカバーとリップスポイラー、それにダッシュパネル。そうしたダークなトーンのなかに、ブレーキキャリパーとホイールのハブキャップとシートベルトのイエローがあしらわれる、見るからに硬派な仕立てとされている。ベースになってるのが595コンペティツィオーネでメカニズム的にも基本は共通なのだけど、唯一異なるのは、イタリアの歴史あるスポーツ・パーツのスペシャリスト、バッキ・ロマーノ社の機械式LSDが組み込まれてること。

 このクルマで4500km以上も走らせてもらったのだから、リアルに解ったことは幾つもある。シャシ周りもコンペティツィオーネに準じてるということは、サスペンションは前後にKONI製FSDダンパーとハイパフォーマンスコイルが組み込まれているわけで、それはそのままシリーズでもっともハードな乗り味を持つモデルであることを意味している。

 実際のところ高速道路の路面の継ぎ目や一般路の路面の肌が荒れてるところでは、ときどきドライバーですら唸るくらい硬さを感じることもある。1日に850kmほど走ることになったときに想像したのは、「腰、逝くかも……」だった。

 けれど走った後に実感したのは、「慣れって凄い」だった。途中で荒れた路面に差し掛かっても唸ることはなくなり、硬さも気にならなくなったのだ。サベルト製のシートが柔らかめのファブリックだったことも少しは効いてるのだろうけど、今では「こういうものだ」と素直に思えるようになった。助手席や後席に同乗する人がどう感じるかは解らないけれど、運転席に座ってステアリングを握る人に関しては問題なし、だと思う。

■いろんなステージを5000km走って分かったこと

 エンジンはさすがに気持ちいい。コンペティツィオーネと同じ1.4リッター直列4気筒ターボは、180psを5500rpmで発揮するハイチューン版だ。ブーストが上がり始めてからの加速感は思わず笑っちゃうぐらいに強烈だし、速度の伸び感もこのクラスのクルマとしては賞賛に値するレベルだ。

 スーパーカーでも持ってこられたら歯は立たないが、充分な速さがある。なかなかパンチの効いたパワーユニットなのだ。一方で、ノーマルモードでは2000rpmで230Nmを、スポーツモードでは3000rpmで250Nmのトルクを発揮する底力をも持ちあわせている。アイドリング付近でもしっかりと粘ってくれるから、発進も楽だし街中でも楽。

 高速道路でのクルージングもトルクの厚さが支えてくれて余裕たっぷりだから、気疲れすることもない。高回転域でのパワーの密度感がハッキリしてるから誤解されがちなのだけれど、実はフレキシビリティのある従順なパワーユニットでもあるのだ。ロードカーにおいては速さと扱いやすさをトレードオフにすることがない、アバルトの伝統的な方程式がちゃんと生きてるのだ。

●コーナリング重視なら595 モメントは激推し

 だが、モメントのハイライトは「曲がる」ということにまつわるところにある。阿蘇も走った。六甲も走った。ベースといえる箱根も走った。そのたびに痛感したのが、機械式LSDの生み出すコーナリング・スピードの速さと気持ちよさ、だった。

 コンペティツィオーネと同じブレンボのブレーキとハードなサスペンションの組み合わせは、フロントタイヤに強力な荷重を乗せやすいうえにその具合を調整しやすいブレーキと、縦方向と横方向の強力なGを過不足なしに受けとめるサスペンションの組み合わせ、ということだ。クルマを曲げるための姿勢の作りやすさ、車体の動きのレスポンス、コーナリングスピードのすべてが、かなり高いレベルにあるのだ。基本、そのままでも充分によく曲がるし、そのままでも充分に楽しいのである。

 が、パワーのあるFFの宿命として、コーナー内側の前輪のトラクションが心許なくなることやアンダーステアに見舞われてしまうことが、ないわけじゃない。アバルト595の全モデルにそれを抑えるためのTTC(トルクトランスファーコントロール)が備わっていて、スイッチをONにするとコーナー内側のタイヤをブレーキでつまむことでLSDのような働きをしてくれる。それに不満があるというわけではないのだけれど、やはり機械式LSDは別格的に素晴らしい。ブレーキを使わないからコーナリングスピードが速いし、何よりダイナミック。

 コーナーにちょっと元気目に飛び込みつつブレーキングでしっかりと荷重を前輪に載せていき、クリッピングポイントの僅か手前辺りでアクセルペダルをほんの少し踏み込んでLSDをロックさせてやると、クルマはグイグイと、ステアリングを切ってる方向に向かって食い込みそうな勢いで曲がっていこうとする。あまりに強烈に曲がるから早めに加速態勢にも入れるし、アンダーステアとも無縁。そう、機械式LSDはまさしく曲がるための武器なのだ。

 曲がりながらアクセルペダルを踏み込むと徐々にアンダーステア方向にいくのがドライバーの感覚として自然なので、アバルトが通常のモデルに機械式LSDを組み込まないのは理に適ってると思うし、あくまでも曲がりにくさを防ぐためのTTCを備えたのはより気持ちのいいコーナリングを楽しませようというサービス精神だとも思う。それでも充分といえば充分なのだ。

 けれど、ひとたび機械式LSDが生む異次元の感覚とコーナリングスピードを味わってしまうと、その曲がりっぷりが病みつきになってしまうのだ。特にワインディングロードやサーキットを走るのが好きなドライバーだと、その傾向は強いかも知れない。僕は通常のコンペティツィオーネの先にあるモメントの楽しさに、キッチリとやられてしまったのだ。

 595 モメントの新車を手に入れようとしても、今からではもう難しいだろう。けれど、これまで機械式LSDが組み込まれた595のスペシャルエディションは3回ほど導入されていて、今後もそれは繰り返されることになるんじゃないかと予想されている。それを楽しみに待つしかないだろう。

 ……といいながら、先日スタンダード版の595のMT仕様についうっかり乗ってしまったら、180psユニットほどの迫力はないものの、パワーに不足はなくて自然吸気エンジンのようなフィールを味わわせてくれる145psエンジンはとても気持ちよかったし、ラインナップのなかでもっとも柔らかく乗り心地もいいシャシとのバランスも見事だし、アバルトが「これで充分」と判断したのがスタンダードなわけだし、やっぱりこっちかも……なんて思わされてしまった。

 アバルト選びってホントに難しい……。

●ABARTH 595 Momento
アバルト 595 モメント

・特別装備:特別ボディカラーGrigio Opaco(マットグレー)、17インチ12スポーク アルミホイール+205/40R17タイヤ、メカニカルLSD(多板クラッチ式)、専用カーボンドアミラーカバー、専用カーボンリップスポイラー、カーボンインストルメントパネル、Sabeltファブリックシート、専用イエローシートベルト、イエロー仕上げブレンボ製4ポッドフロントブレーキキャリパー、イエローセンターハブキャップ
・車両価格(消費税込):412万円
・ハンドル位置:右/左
・全長:3660mm
・全幅:1625mm
・全高:1505mm
・ホイールベース:2300mm
・車両重量:1120kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHC16バルブインタークーラー付ターボ
・排気量:1368cc
・エンジン配置:フロント横置
・駆動方式:フロント駆動
・変速機:5速MT
・最高出力:180ps/5500rpm
・最大トルク(SPORTスイッチ使用時):230Nm/2000rpm(250Nm/3000rpm)
・公称燃費(WLTC):14.2km/L
・ラゲッジ容量:185リッター(550リッター)
・燃料タンク容量:35リッター
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット式、(後)トーションビーム式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前)205/40R17、(後)205/40R17

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