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【なぜ鎮静化?】ブラバス/ロリンザー/カールソン 90年代末ブーム「ド派手メルセデス」の顛末

掲載 更新 39
【なぜ鎮静化?】ブラバス/ロリンザー/カールソン 90年代末ブーム「ド派手メルセデス」の顛末

懐かしい 「ド派手メルセデス」に沸いた日々

text:Kenji Momota(桃田健史)

【画像】バブリーなカスタム・メルセデス vs 現代の「特別なクルマ」【ディテール】 全94枚

ブラバス、ロリンザー、カールソン。

ひと呼んで、「メルセデスチューニング御三家」

いま(2020年)から20年ほど前、世界各地でメルセデス・ベンツのチューニングやドレスアップが爆発的ブームとなった。

東京ならば六本木、赤坂、麻布あたり、大阪ならば新地あたり、福岡ならば天神あたりで、ド派手なメルセデスたちの闊歩していたことを、思い出す方も多いのではないだろうか。

こうしたメルセデスたちは、いわゆる「アフター系」だ。独ダイムラー本社から日本法人(現在のメルセデス・ベンツジャパン)を経て販売されたクルマではない。

または、正規輸入車に日本国内でドレスアップキットやホイールを装着するケースもあった。

いまでも、メルセデス・ベンツのアフター市場は日本国内に存在する。だが、20年前のようにSクラスやSLクラスなどを対象したモノは少ない。主流はGクラスだが、Gクラスが人気とはいえ、市場に出回っている数は限定的だ。

どうして、アフター系のメルセデス・ベンツは、以前と比べて少なくなったのか?

見方を変えれば、どうして1990年代後半にメルセデスチューニングのブームが巻き起こったのか? そして、なぜブームが終わってしまったのか?

「自分が乗りたいメルセデスがなかったから」

筆者(桃田健史)は、メルセデス・ベンツのチューニングブームに沸いた1990年代後半から2000年代中盤にかけて、ドイツ各地を頻繁に訪れチューナー各社の詳細な取材を行っていた。

カメラマンや編集者らと、フランクフルト空港周辺でレンタカーを借りて、ドイツ全土のアウトバーンを走った。

取材の軸足となったのが、「御三家」だ。

ブラバスは、オランダ国境に近いドイツ北部デュッセルドルフの郊外。ロリンザーは、ダイムラーやポルシェの本社があるドイツ中部シュトゥットガルトの郊外。カールソンはフランス国境にほど近いドイツ中西部ザールブリュッケンに本拠があった。

「御三家」の中で、最も事業に精力的だったのがブラバスだ。

ブラバス創業者のブッシュマンに、筆者は定期的に会っていたが、インタビューのなかで「自分自身で本当に乗りたいと思えるメルセデス・ベンツがなかった。だから、自分で作った」とブラバスを立ち上げた当時を振り返った。

ドイツ車でスポーティでパワフルで、そして華やかな高級車いえば、ポルシェやBMW。

メルセデス・ベンツはあくまでも上品に乗るクルマという潜在意識が、ドイツ人のみならず世界での当たり前だった。

そうした常識を自らの手で崩したい、という気持ちがブラバスというブランドの推進力になった。

きっかけはAMG 日本は「アー・マー・ゲー」

メルセデス・ベンツのチューニングといえば、レースフィールドを基盤としたAMGがいた。80年代のバブル期に、日本ではドイツ語読みの「アー・マー・ゲー」と呼ばれて人気を博した。

そのAMGが1999年、ダイムラーに買収された。そもそも部外者だったアフター系メーカーを、ダイムラーのいち部門として組織変革したのだ。

このことが、ブラバスなど外部メルセデス・ベンツチューニングブランドの勢いを後押した。AMGがメルセデス・ベンツのインハウス化されたことで、「ダイムラー本社が手を付けない、もっとパワフルで、もっとファッショナブルなチューニングやドレスアップ」を求める声が世界的に高まったのだ。

つまり、チューナー各社は「AMGとの比較」を商品コンセプトとして強調した。また、AMGそのものをベース車として「さらにパワーアップ&ドレスアップ」するビジネス手法もとった。

なお、ロリンザーは、古くからの正規メルセデス・ベンツディーラーであり、エンジンなどのチューニング領域については、ダイムラー本社と交渉した上での「許容範囲」を守りながら、ディーラーオプションとして事業を進めていた。

御三家以外にも、ホイールメーカーやマフラーメーカーが手掛けるメルセデス・ベンツ向けのアフター商品が一気に拡大した。

ところが、ブームに逆風が吹き始める。

超高級車市場の拡大 アフター系の出る幕なく

御三家の成功を見たダイムラー本社は、メルセデス・ベンツの事業拡大に乗り出す。AMGによる「カスタマイズ」領域の拡大だ。

洋服で例えれば、御三家などアフター系は、ユーザーひとりひとりの要望に細かく答える「オートクチュール」。自動車メーカーは既成品が主体の「プレタポルテ」だ。

AMGブランドが2000年代から徐々に、オートクチュールの領域に踏み出した。

そうなると、御三家としてはメーカーが介入しづらい、エンジンチューニングを充実させたいところだが、富裕層の中にも環境問題に対する意識が変わり始め、EVやプラグインハイブリッドの重要性が増した。

こうなると、アフター系の出る幕はなくなる。同様の動きは日本車でも、トヨタGRブランドなどで見られる。

もう1つ、メルセデス・ベンツのチューニングブームが収束した理由が、超高級車市場の拡大だ。

なかでも、ベントレーやロールス・ロイスなど、メルセデス・ベンツとは一線を介していたブランドが、クーペの拡充やSUVへと進出。

「メルセデス・ベンツ以上」を求めて、メルセデス・ベンツをチューニングしてきた富裕層の多くが、超高級ブランドメーカーの新車に乗り換えたのだ。

いまや、メルセデス・ベンツのチューニングブームを懐かしく感じる。

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