■性能を競い合った過激な軽自動車を振り返る
近年、日本の自動車市場でトップセラーに君臨しているクルマは軽自動車です。軽自動車は1949年に、日本独自の自動車規格として法律上で制定され、1954年には現在のようにボディサイズと排気量が厳密に決められました。
普及が本格化した頃の軽自動車は360ccのエンジンで、最高出力は20馬力から25馬力でしたが装備は極めて簡素で、500kgほどの車重のモデルがほとんどだったことから十分なパワーでした。
しかし、1967年にホンダが同社初の軽乗用車「N360」を発売。360cc空冷2気筒4サイクルエンジンを搭載し、最高出力31馬力(グロス)を発揮しました。
これに他メーカーも追従することになり、第一次パワー競争が勃発。1973年の排出ガス規制強化までパワー競争が続き、最終的にはダイハツ「フェローMAX SS」の水冷2気筒2サイクルエンジンは40馬力(グロス)を誇りました。
その後、さらなる排出ガスの強化からパワー競争は完全に沈静化し、軽自動車規格の変更から排気量は550ccまでアップされました。
そして1983年に、三菱は「ミニカ エコノ」に軽自動車で初となるターボエンジンを搭載。最高出力39馬力を発揮し、再びに高性能化を果たしたことから第二次パワー競争が始まりました。
各社ターボエンジンだけでなく、DOHCエンジンも登場するなど、1980年代は高性能化が急激に加速し、もはや軽自動車とは思えないハイメカなモデルも誕生。
そこで、ライバルとして競い合った過激な軽自動車を、3車種ピックアップして紹介します。
●スズキ「アルトワークス」
スズキは三菱に追従するため、1985年に2代目「アルト」に軽自動車初の電子制御燃料噴射装置付き直列3気筒SOHCインタークーラーターボエンジンを搭載した、「アルトターボ」を追加ラインナップしました。
さらに1986年には、軽自動車初の1気筒あたり4バルブDOHCエンジンを搭載した「アルトツインカム12RS」と、より高性能な「アルトターボSX」を市場に投入。
そして、1987年には軽自動車ではトップとなる、最高出力64馬力を発揮する550cc3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンを搭載した初代「アルトワークス」が誕生しました。
アルトワークスのバリエーションは、FFの「RS-S」と「RS-X」、軽自動車初のビスカスカップリング式フルタイム4WDの「RS-R」を設定。
まだ装備が簡素な時代なため、2WD車の車重は610kgほどと超軽量だったことから加速性能は強烈で、外装はRS-XとRS-Rには大型のエアロパーツを標準装備し、ピンクを基調としたポップな内装で、若者の心をガッチリとつかみ一躍ヒット作となりました。
このアルトワークスの登場がきっかけで、今に続く軽自動車の64馬力自主規制が始まったのは有名な話です。
その後もアルトワークスは代を重ねて進化していきましたが、2000年をもって一旦は消滅し、2015年に現行モデルの5代目アルトワークスが登場して復活を果たしました。
●ダイハツ「ミラ ターボTR-XX」
360cc時代に軽自動車のパワー競争で頂点に立ったダイハツでしたが、550cc時代にも1983年に主力車種の「ミラ」に2気筒ターボエンジンを搭載し、最高出力41馬力(グロス)を発揮しました。
さらにパワー競争に勝つため、1985年には2代目ミラに最高出力52馬力(グロス)の直列3気筒ターボエンジンを搭載。
また、同年にはエアロパーツを装着して若者にアピールしたモデルとして、「ミラ ターボTR-XX」を追加ラインナップしました。しかし、エンジンはキャブレターターボと前時代的なメカで、インジェクションのアルトターボに見劣りしたのは否めませんでした。
そこで、スズキを突き放すため、1987年には電子制御燃料噴射装置になったTR-XX EFIが登場し、最高出力58馬力へと向上しました。
しかし、アルトワークスの登場でスズキに大きく先行されたことでミラもパワーアップを図り、1988年には64馬力を達成。
その後はアルトワークスとミラ TR-XXはモータースポーツの世界で争うことになり、エンジンだけでなく足まわりやブレーキなど、シャシ性能も互いに進化していきました。
●三菱「ミニカ ダンガンZZ」
三菱重工が開発したターボチャージャーによってターボエンジンで先行していた三菱ですが、前出のアルトワークスやミラ TR-XXの登場により、パワー競争では後塵を拝していました。
そこで、三菱は1989年に発売された6代目「ミニカ」に、550cc時代の集大成ともいうべく高性能モデルの「ミニカ ダンガンZZ」をラインナップ。
搭載されたエンジンは1気筒あたり3本の吸気バルブと2本の排気バルブを持つ、量産自動車では世界初の3気筒DOHC5バルブ自然吸気と、DOHC5バルブターボを設定。
ターボエンジンの最高出力はライバルに並ぶ64馬力に到達し、最高回転数は9000rpmをマーク。実際の加速性能は1リッターターボ車に迫るほどパワフルでした。
また、外観ではボンネットのエアスクープやリアスポイラー、3本出しマフラーで高性能さをアピールしました。
その後、1990年には排気量が660ccへと軽自動車規格が改正されたため、550ccのミニカ ダンガンZZはわずか1年ほどで生産で終了し、660ccエンジンにスイッチされました。
※ ※ ※
こうして軽自動車のパワー競争は終焉しましたが、その後はパワー以外の部分で進化と多様化を続け、現在に至ります。
一方、軽自動車で喫緊の課題としては電動化があります。価格が比較的安価な軽自動車では、ストロングハイブリッドやEVでは、価格的にアドバンテージがなくなってしまうからです。
すでに日産と三菱は共同開発した軽EVの発売を予定していますが、やはり価格と航続可能距離が話題となるでしょう。
軽自動車税など優遇策についても議論されるなど、軽自動車という規格が今後どうなっていくか、注目されます。
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みんなのコメント
軽自動車というカテゴリーでも熾烈な競争をしていたからこそ現在の快適に走れる軽自動車が生まれてきた。
それはいずれも「軽商用車」であったことですね。
ワタシも当時ホットな軽商用車の一つであったスバルレックスVXに
乗っていましたが、軽商用車は税金や保険料が大変安く、これが
過激な性能を持った軽の人気に拍車をかけていたのではないかと
思います。
その流れが変わったのがやっぱり1989年の消費税導入でしょうか。
これで自動車は一律6%に税率が変わり、当時のバブル景気も相まって
より高級なクルマが好まれるようになり、このようないわば
「安くて楽しいクルマ」たちは660㏄の軽規格拡大(1990年)
さらにスズキが「ワゴンR」ダイハツがそれを追って「ムーヴ」といった
ハイトワゴン車を登場させ大ヒットとなるのと入れ替わりに、軽の市場から
消えていったワケですね。
そういった意味では「安くて楽しい」現行アルトワークスの存在は貴重ですね。