3年前、衝撃のリリースにより2ストのインジェクションを発表したKTM/ハスクバーナ。僕自身、キャブレター最終型の(2017)250EXCユーザーであって、それ以上に自分にあったバイクは今後出てこないのでは無いか、と大切に保存していたのだが、今年8月に売却を決心した。いろいろと2ストロークのマシンを試乗して、十分他のバイクに魅力を感じることができたからだった。2ストロークは、いま変革の時期を迎えている。この複雑な2ストへの恋心の最中、最新型のTPIをふと「ちゃんと乗ってみよう」と思い立ったのだった。
Husqvarna
TE150i 2020年モデル
この10年以上、FIに感じてきたモノ
はっきり言ってしまおう。僕はキャブが好きだ。
キャブの感触が好きすぎて、2010年にキャブレターの車を買ったほどだ。端的に言うと、読めるマシンだということだと思う。踏み/開けすぎれば、当たり前だけどくすぶってしまうけど、キャブ使いだからそんなことはしない。くすぶらない範囲の踏み/開け具合において、ワイヤーがバタフライを開けて、ジェットが燃料をより多く噴出する、その過渡特性が好きなのだ。
モトクロスにおけるキャブからFIへの移行はスムーズとは言いがたいモノだった。10年以上前に開発車両が全日本モトクロスを走っていて、それらを執拗に僕らメディアは追っていた。もっと言ってしまえば、もっともっと前からオフのFI化は開発段階にあったし(もちろんどのメーカーだとは言わない 笑)、当然のごとくオフのFI化はかなり早い段階から、各メーカーが進めていたことだ。まぁ、四輪のFI移行に比べても、ロードバイクのFI移行にくらべても、格段に遅れていた分野だったから、一般的に考えて「FIのテストをしていない」なんて馬鹿げたことがあるわけがない。
FIの「開け口のフィーリング」を語るにあたって、ホンダでは「イチイチ感」という呼称を使っていたと聞く。開けた分だけ、エンジンが反応する。キャブの反応をイチとした時に、足りていない場合「イチイチ感がいまいちだ」というような使い方をする。とかく、当時書けないようなところまで突っ込んだ取材をすると、このイチイチ感がなによりも引っかかっていたように思う。ホンダだけでなく、各メーカーで「かなり難しい」というコンプレインが出ていることを把握していた。
だが、同時にそのイチイチ感を差し置いても、FIならではのモトクロスにおける優位性があった。「ボギング」である。キャブのフロート室において、ジャンプやギャップでガソリンが上部にはりつき、息つきをしてしまう現象だ。ケイヒンFCRが主流だった当時、これを各チームで加速ポンプをうまいことセッティングすることで対応した。だが、当然フロート室の油面は、モトクロスにおいて常に不安定だった。ボギングが特におきやすい2ストでは、ライダーは常にこのボギングの恐怖にさらされていたから、ジャンプ中にアクセルを閉じないことが当たり前だった。ボギングが原因で前転することもあったのだ。
特にボギングが出るのが、フープスだった。これはFI車が世の中に出てはじめてトップクラスのライダー達が感嘆したことだが、フープスでボギングがおきないことで、フープスの速度が変わったのだ。この要素は、おそらくモトクロスにおいて決め手になったのだと思う。開け口のフィーリングがいかに変わろうが、フープスで勝負にならなければレースでは不利だ…と。FIは未完成であっても優位性が十分にあった。
その数年後、FIをエンデューロに持ち込んで、問題に上がったのがエンジンストールである。スローの問題か、エンジンストール耐性が弱く、初期のFI車では度々極低速でのストールが起きた。これは、おそらく燃料ポンプの詰まりも共に起きていたから、原因を特定しづらかった。
時は過ぎ、僕も2015年式で熟成しきったFIの350EXC-Fを所有したことがある。イチイチ感の問題は、とうに解消されて、エンスト耐性はとても高い。キャブとまったく同じとは言い切れなかったが、乗った瞬間に最高だと感じた。どこでも登っていけるトルクが、EXCならではの「ぼかされたフィーリング」で取り出せる。だが唯一…ゼロ開度から、ミスで若干急開したときに意図せず出過ぎてしまう怖さがあった。キャブでは反応しえない開度で、ドンと出てしまうのだ。それが怖かった。
で、話は戻る。2017年のキャブの250EXCを買った翌年、2018年でEXCはTPIへ移行。もちろん、すぐにこのTPIに乗ってみたのだが…感じたのは初期のFIに感じたFIらしいフィーリングだった。これはキャブではない。350で感じた「ゼロから出過ぎる感触」もある。いいところもたくさんあるし、モトクロスで起きたようにFIを受け入れざるを得ないだろう、とも思った。だけど、一介のサンデーエンデューロライダーとしては、もうすこしキャブのEXCを持っておきたいと思ったのだった。
TE150iが、250っぽいことについて
もちろん、メディアの立ち位置だから、誠実に毎年まっさらな気分でインプレッションをする。同時に、誠実に過去も顧みる。そのまっさらな気持ちでTE150iに感じたのは、何より「125らしさ」がないことだった。
それまでに乗ったことのある2スト150は、125の延長線上。25cc増しの感触で、トルクの若干の太さや、まわりづらさを感じるものだった。どのメーカーも、150や200は125ベースの圧倒的な軽さを武器に、若干のトルクアップを売りにする。
だがこのTE150iは、クラッチをつないで走り出した瞬間に250の延長線上だと思えた。エンジンの回転フィーリングが250っぽいのだろうか。デロデロっという低速を使いたくなる。のりはじめは先入観で1~2速を使っていたんだけど、段々250なりの3速中心の乗り方で十分に対応できることがわかったし、そのほうが速いと感じた。もちろん100cc少ないから、半クラッチを多めに使うのだけど。僕のレベルのでの乗り方では、もはや125よりというよりは250よりなのだった。
そもそも、125と250では車体も同じだし、重量自体も現代では大きく変わらない。それでも125を圧倒的に軽く感じるのは、エンジンフィーリングによるものだ。だからか、実はこのTE150iにも125らしい圧倒的な軽さを感じなかった。これはデメリットには感じない。実重量は軽いのだから、引き起こしはもちろん125ライクなのだ。ただただ、安定感、どっしり感が250に似ている。
だから、150に関しての総評はめっぽう高い。250よりの150cc。Off1では今年125をなぜKTMが出さないのか、という話題を出したけど、この150を乗ると「もはや、125の必要はないのかもしれないな」と思えてくる。いや、世界を目指すユース達が開け開けでGPを走るためには必要だろうが、それはスペシャルで仕立てればいいんだものな。最も厚いユーザー層に対しては、はじまりが150である、というのはトルクの適当加減からいっても最適なのかもしれない。
これまでのTPIより、さらにFIっぽい
150に対して、思い切り好評したが、エンジンフィーリングはTPIそのものだった。18年モデルから20年モデルに進化する過程で、KTMやハスクバーナはTPIを搭載する250EXCやTE250をかなりキャブに近い感触にまとめてきていた。
しかし20MYの150ccTPIは、TPIらしさが全面にでている。開け口の感触や、デジタル的な性格はキャブに感じないものだ。モード設定も1,2で激しく違う。モード2にすると、ビンビンまわる2ストらしさで自分にもあうが、モード1はとらえどころのないマイルドさだ。特に回転落ちのフィーリングは、キャブではありえないものでどう乗れば良いのか、戸惑ってしまう。だが、そのままモード2でスリッピーなところへ行くと、明らかにマシンに助けられてなんとかなっているのがわかる。これが、「成功するのに、なんか気持ち悪い!」感触になるのだ。
これは、慣れるのに時間がかかるな…と思った。日野の難所を抜けて、トンネル沢に着く頃には疲労困憊、へんな筋肉が凝り固まって、どうにかなりそうだった。おそらくモード1で存分に扱えれば、なんの問題も無かったんだと思う。それと、押しがけでもエンジンがかかるTPIでは、エンスト制御のためかかかった瞬間におそらくアイドリングを維持させるために必要なガソリンが噴射され、ドンと前に出る特性がある(我が家は、デミオのMTに乗っているんだけど、これもやはり同じでエンスト制御が効いてドンと出る瞬間がある。フライバイワイヤだとなおさらだろう)。これにも、慣れないと少し怖い。急な下りでエンジンがかかってしまった時に、意図していないスピードがのってしまうのだ。
モトクロッサーが4スト化した際、やはり様々なコンプレインが出た。どうにもタイムが出ないライダーもいたが、実際にはものの数年で2ストロークは姿を消した(その後に復活するのだから、これはこれでおもしろい)。4ストに対応するには、乗り方を変える必要があった。だが、乗り方さえ変えてしまえば4ストは速かったのだ。
僕がこのTE150iに感じたのは、まさにその部分だ。完成度は高く、デメリットは無いだろう。すでにKTMやハスクバーナのファクトリーライダー達が、いかにTPIがレーシングFIとして完成しているかを証明している。乗った瞬間にFIっぽさを感じるのは、むしろ当然なのかもしれない。これは、最新型の吸気機構なのであって、キャブではないのだから。
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