EV化してもベントレーは英国製
ビヨンド100と銘打ったプランに基づき、2025年からの5年間で5台のEVを新たに投入する戦略を掲げるベントレーは、2021年に過去最高の年間販売台数を記録するなど順調ぶりを示している。われわれはエイドリアン・ホールマーク会長を直撃し、好調の原動力について訊いた。
−−ベントレー初のEVはクルーで生産するとの意向を公表しましたが、そうならない可能性もあったのでしょうか。
「常に可能性はありました。しかし、この内燃エンジンからバッテリーEVへの過渡期にあって、インフラ投資を行わず、今ある生産キャパシティや設備をフル活用しなければというプレッシャーは、これまでになかったほど強いものがあります。しかしわたしたちには、英国製車両を最大限増やす義務があります。確約はできませんが、株主の方々がわたしたちを支持し続けてくだされば幸いです」。
−−25億ポンドもの投資計画を発表しましたが、その原資はどこから来るのでしょうか。また、どのような使途になっているのですか。
「わたしたちにとっての最重要事項は、投資がすべて自社のキャッシュフローで行われるということです。借り入れも、資金供出による赤字転換もありません。すべてキャッシュフローと準備金で賄える予定です。
使い道についてですが、率直にお話ししましょう。自動車開発は、設備投資以上のコストを要します。ですから、施設に注ぎ込むのは全体の15~20%程度になると見積もっています。すでに、経営部門とテスト施設の一部を全面改修するために、多額のコストを費やしました。しかし、残りの80%ほどは、製品にかけることになります。ご存知でしょうが、どのクルマも莫大な経費が必要です。この開発プログラムは、4~5年のスパンで進められます」。
−−ベントレーにとって、クルーの重要度はどれほどのものですか。
「どれほど、ですって?わたしたちは75年間もここに本拠を置いているんですよ。腕利きの従業員は4500人に達していて、ほとんどのサプライヤーを凌ぐ技術を誇ります。なぜなら、私たちはウッドやレザーなどのトリム製作を重要な仕事だと考えてきましたし、それはこの先もきっと続くからです。その点で今後もほかをリードしたいと思っても、スキルは一朝一夕に身に付くものではありません。そして、ここにいることで得られるアドバンテージは大きなものがあります」。
高級車市場は成長が続く
−−やはり、積み重ねた歴史は大きい、ということですね。
「ただ、それだけではないのです。もしベントレーを買うような金額を支払おうというなら、その対象は本物である必要があります。そして、紛れもないベントレー製である必要が。ですから、わたしたちは常にフォルクスワーゲングループの設備で、生産プロセスのある部分をまかなっている一方で、このクルーの地でできる限りのことをするために力を尽くすつもりです。
ですから将来、EVでも同じようにするつもりです。シャシーやボディの工場は置きませんが、最新の塗装設備を新設します。また、先行試作車を製作するエンジニアリングプロトタイプワークショップとローンチクオリティセンターは刷新します。それによって、主要施設のホールに余地を作ります。その広さは、昨年1万4500台を送り出した現在の組み立てホールと同規模です。そこを完全にリノベーションして、新たな生産システムを設営します。フロアには、ガイドに従う自動トロリーと部品供給コンポーネンツを配置するのです。
ボディが運び込まれたら、わたしたちはそれを塗装し、現在と同様に価値を高めていく作業を行います。その工程は、英国のいかなる高級車メーカーよりも多いものです。有効なコストがかけられているので、クオリティは抜群です。それが、ベントレーをこの上なく本物感のあるものにしているのです」。
−−超高級車市場に関するあなたの展望は、非常に強気なようですが、それについてもう少しお話をうかがえますか。
「成長の伸び代は非常に大きいですね。どこから注力していくべきか判断しかねるかもしれないくらいに。コンチネンタルGTを発売した2003年には、クレディ・スイスによれば、株式や動産投資で100万ポンド(約1億5500万円)相当の資産を自由に動かせる人口は600万人と見られていましたが、それが今や3倍近くまで増加し、1700万人に迫る勢いです。GTやフライングスパーのようなクルマの市場規模は、2003年に年間3500台だったものが、昨年は6万8000台まで拡大しています。
今後も、需要拡大は安定して続くと見ています。そして、ゼロエミッション車やトータルでサステイナブルなサプライチェーンについて、もうひと押しして、高級車市場へ新世代の購買層を引き込むことができると考えています。12気筒エンジンには触れることがないような世代のユーザーを、です」。
EVではないサステイナブルなエネルギー源の問題
−−ソフトウェアの制作や、高級車らしい充電方法はどのようになっているのでしょうか。
「わたしたちには、5つの利用ケースと呼ぶミッションがあります。最高のサウンドは体験できなくても、それ以外は最高を味わえるクルマをつくるためです。もちろん、ラグジュアリーな。
自動運転が普及しはじめ、ひとびとが車内でできることが増えていくにつれ、本当に運転手がいても、それに代わるデジタル技術を用いるのだとしても、キャビンでの体験をまったく違うレベルへ引き上げたいと考えています。ですから、見栄えやデザイン、ディスプレイのアイコンの見せ方などが問題ではありません。どのような機能性を盛り込めるかが重要です。また、すでに5つのアクティビティの場を、わたしたちは得ています。
ソフトウェアのいいところは、ハードウェアほど高価ではないことです。とくに、室内に関しては。
グループ内だけでなく、いくつかのスタートアップ企業とも協力して取り組んでいるのは、自動にしろ手動にしろ、自宅での充電に関するソリューションです。それらすべてが、新機軸も活用して比較的低コストで行えて、手間を減らしてくれます」。
−−合成燃料や水素燃料電池の導入は検討していますか。
「そうした代替燃料のテクノロジーは熟成されてきていて、市場投入される際には産業として成立し、性能が保証され、しかも安全なものになっているでしょう。
水素はまさにそうです。クルマに使うのは、実行可能な選択肢です。しかし、生産には多くのエネルギーを必要とします。しかも、そのエネルギーは再生不可能だとすれば、化石燃料を燃やしたエネルギーで生産した水素をエンジンで燃焼させるより、オイルを作って使う方がまだマシです。ですから、再生可能な生産方法が確立されなければ、水素は有効な策とはなりません。
エシカルと環境配慮についても、ジレンマがあります。もし、システム全体で再生可能エネルギーを使えないまでも、水素生産に再生可能エネルギーを使うのならば、クルマのエネルギー源だけを置き換えるに過ぎないことになります。水素を環境対応燃料として十分に機能させるには、エネルギーシステムをトータルでグリーンなものにする必要があります」。
真の成功はEV化を達成してから
−−販売面の成功について、どれくらい誇らしく思っていますか。
「よく言うじゃないですか、おごれるものは久しからず、って。勘違いしていただきたくはないのですが、2021年については間違いなくすばらしい結果でした。しかし、それが2020年に達成できていたら、もっとよかったと思っています。新型コロナの影響が出る前に、そうなる準備ができていたらなおよかった、ということです。新型コロナの影響を克服して、このみごとな結果を残すことができたのは、ひとえにスタッフたちのパフォーマンスや能力のおかげです。
もうひとつ、数字をお伝えしましょう。2021年は過去最大の受注を抱えて始まりました。そして、31%の成長を果たしました。年末時点での受注は、1月1日のそれを30%上回りました。つまり、販売台数が30%伸びただけでなく、新たな受注も30%増えたのです。
本当に胸を張れるのは、EVの開発が完了して最初の1台をデリバリーし、2030年までにサステイナブルでカーボンニュートラルなベントレーへのシフトが始まるときです。うまくいけば、お客様はすでにおっしゃってくださっているとおり賛同してくださるでしょう。そうなれば、わたしたちはほかをリードしつつ、持続できる高級車メーカーになれるはずです」。
−−ところで、今お乗りのクルマはなんですか。
「ベンテイガ・ハイブリッドです」。
−−お気に入りのクルマは。
「う~ん、それは子どものうちで誰が一番かと聞くようなものですよ。でも、ポルシェ991.2のGT3RSですね」。
−−好きなお菓子は。
「マッコイのギザギザなチップスですね。チリはできるだけ多めで」。
−−好きな本は。
「ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』です」。
−−ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンなら。
「ルイスです」。
−−最近の休日は、どこへどうやって行きましたか。
「マヨルカへ。飛行機で」。
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みんなのコメント
EVになっては従来のいかついグリルやテールパイプ、そして排気音による凄みも主張出来ない。
残るはブランドとインテリアくらい。
今後、自動車のウルトラ・ラグジュアリーは厳しい。