2021年6月、ホンダ販売店への取材により、オデッセイ、レジェンド、クラリティが年内(2021年いっぱい)で生産終了することがわかった。ホンダはすでに国内販売店に通知しており、顧客や新規ユーザーに伝えており、生産調整に入っている。
レジェンドやクラリティは販売台数が少なく影響は小さいだろうが、オデッセイも生産終了となると話が変わる。ひょっとするとホンダはもう、「日本国内はN-BOXとフィットシリーズ(プラットフォームを共用するヴェゼルやフリード)を売っていればいい」と考えているのだろうか。ホンダは国内販売戦略をどう組み立てているのか。販売戦略に詳しい渡辺陽一郎氏に伺った。
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文/渡辺陽一郎 写真/HONDA
【画像ギャラリー】マジかよ…… 2021年内の生産終了が決まったホンダの中型車たち
■レジェンド、オデッセイ、クラリティの3車種が廃止に
2021年内の生産終了が確実となったレジェンド。レベル3の自動運転システム「Honda SENSING Elite」搭載で注目を集めるも、最近は月30台前後しか売れていない
ホンダが国内に設けている主な四輪車の完成車工場は、埼玉製作所の狭山工場、同じく埼玉製作所の寄居工場、三重県の鈴鹿製作所となる。
この内、2017年の説明会で、狭山工場を閉鎖して寄居工場に集約することが公表された。そしていよいよ、2021年いっぱいで狭山工場が生産を終える。
狭山工場が生産する車種は、ステップワゴン、オデッセイ、レジェンド、クラリティだ。これらのなかで、ステップワゴンを除く3車種について、ホンダが販売店に生産の終了を通知した。
最近のレジェンドの登録台数は、1か月平均で30台前後だ。レジェンドは2021年3月に、自動運転レベル3に該当する「ホンダセンシングエリート」を搭載したが、この生産規模も限定100台と少ない。クラリティは1か月の登録台数が3~5台だ。この2車種は生産終了も仕方ないと思えるが、オデッセイは違うだろう。
オデッセイの生産終了にショックを受けた人は多いのではないだろうか? 2021年3月時点で販売店に生産終了の旨が通知されていた
初代オデッセイは1994年に発売され、この後のミニバンブームを牽引する役割を果たした。1995年には1か月平均で1万台以上を登録している。今のフィットを上まわり、アルファード並みに売られていた。
1996年以降は、価格の割安なステップワゴンやフリードが加わってオデッセイは売れ行きを下げた。それでも現在の登録台数は1か月当たり1800台前後だから、売れ筋価格帯が350~450万円の高価格車としては、堅調な部類に入る。廃止するのは惜しい車種だ。
そこでオデッセイの廃止に関する真偽を改めてホンダの販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「オデッセイの廃止は本当だ。生産を別の工場に移す話は聞いていない。現時点で注文は可能で、2021年6月中旬の契約であれば納期は8月頃だ。生産終了の報道により、お客様からの問い合わせも増えた。最近のオデッセイは価格も高く、売れ行きは減っていたが、フルモデルチェンジの度に購入するお客様もおられる。30年近い伝統に支えられた車種でもあるから廃止は残念だ」。
■閉鎖される狭山工場の主力車種 ステップワゴンの運命は?
ホンダの狭山工場で生産されるステップワゴン。閉鎖後は寄居工場で引き続き製造されるのか、それとも…?
それなら同じ狭山工場が生産するステップワゴンはどうなるのか。ステップワゴンも初代モデルは1996年に発売され、翌年には1か月平均で9000台以上が登録された。2代目も2001年に同程度の台数を販売している。
最近のステップワゴンの登録台数は、1か月平均で3000台前後だが、今の国内市場では中堅水準だ。ステップワゴンの価格も上昇傾向にあり、エアロパーツを装着する主力のスパーダは、1.5Lターボが約300万円、ハイブリッドのe:HEVは360万円前後に達する。
ちなみに2021年1~5月におけるホンダの国内販売では、販売総数の57%を軽自動車が占めた。そこにフィットとフリードの登録台数を加えると、国内販売の約80%に達する。この状況を考えると、価格が300~360万円で1か月に3000台前後を登録するステップワゴンは、ホンダの国内販売では貴重な車種だ。狭山工場が閉鎖された後、ステップワゴンはどうなるのか。この点も販売店に尋ねた。
「ステップワゴンは、オデッセイに比べて売れ行きも多く、今後も販売を続ける。しかも2022年3月頃には、フルモデルチェンジを行う。その意味でも生産の終了は考えられず、ステップワゴンの生産は、おそらく寄居工場に移される。次期ステップワゴンでは、ワクワクゲート(リヤゲートに装着された横開き式の小さなドア)は廃止される可能性が高い」。
■生産拠点の集約が加速する
寄居工場ではフリード、CR-V、ホンダe等が製造されている。生産枠に余裕があり、新たにステップワゴンの生産を引き受けることも可能とみられる
ヴェゼルは、以前は寄居工場で生産されていたが、現行型は鈴鹿製作所だ。鈴鹿製作所はN-BOXを始めとする軽自動車のNシリーズ、フィット、シャトル、さらにヴェゼルまで生産するから、かなり過密な状態だ。販売店からは「ヴェゼルの納期が半年から1年と長い背景には、生産量の多い鈴鹿製作所が手掛ける影響もあるのではにないか?」という話も聞かれる。
そして寄居工場で新たにステップワゴンを生産すると仮定すれば、ヴェゼルを鈴鹿製作所に移したことも納得できる。現時点で寄居工場が生産する車種は、フリード、CR-V、インサイト、ホンダeだから、堅調に売れているのはフリードだけだ。寄居工場には余裕があり、ステップワゴンの受け入れもしやすいだろう。このほか次期シビックも、寄居工場が生産する可能性が高い。イギリスの工場が閉鎖されるためだ。
それにしても、オデッセイ、レジェンド、クラリティが国内販売を終えると、ホンダのブランドイメージは大きな影響を受ける。少なくともオデッセイとレジェンドは、登録台数は減っても、中高年齢層の間では知名度が高いからだ。
オデッセイは前述のとおりミニバンの先駆者で、歴代モデルともに、多人数乗車の実用性と併せて優れた走行性能を発揮してきた。ホンダ車の特徴は、実用性や環境性能に力を入れても、走りの良さを忘れないことだ。その象徴がオデッセイだった。ホンダのイメージリーダー的な存在だから、これが消滅すると、ホンダのブランドも変化してくる。
レジェンドも同様だ。ホンダ初の最上級セダンとして1985年に登場して、初代モデルのウイングターボから現行型のSH-AWDまで、常に先進のメカニズムを採用してきた。
つまりオデッセイとレジェンドは、単なるLサイズカーではない。ホンダらしさが濃厚で、ブランドの特徴を具体的に表現して発信する役割を果たしてきた。
■ホンダのブランドイメージが崩れないか心配だ
ミニバンブームの火付け役となり、ホンダの一時代を築いたオデッセイの生産終了は衝撃的だ
今のホンダの国内販売状況を見ると、前述の通り「軽自動車+フィット+フリード」の合計台数が、国内で新車として売られるホンダ車の約80%を占める。この販売構成比により、ホンダのブランドイメージは、コンパクトで低価格の方向へ大きく変わってきた。
例えば今年30歳になるユーザーであれば、誕生したのは1991年だから、3歳の時に初代オデッセイ、5歳の時に初代ステップワゴンが発売された。10歳の時に初代フィット、20歳の時に初代N-BOXが登場している。中高年齢層であれば、ホンダのブランドイメージは運転の楽しいスポーティカーだが、30歳以下のユーザーから見れば小さくて実用的なクルマのメーカーだ。
それでもオデッセイやレジェンドが用意されていれば、ホンダのホームページを見た時には、印象が多少なりとも違ってくる。小さなクルマだけでなく、上級のセダンやミニバンも手掛ける総合自動車メーカーだと分かる。
つまりこの2車種は、登録台数は少なくとも、ホンダのブランドイメージを小さくて安いクルマ造りに偏らせないスタビライザーの役割を果たしている。それを失えば、ホンダのイメージはさらに偏り、クルマ造りや売れ方にもズレが生じるかも知れない。
一番怖いのは、車種の廃止に歯止めが利かなくなることだ。ミドルサイズ以上のホンダ車の登録台数を最近の1か月平均で見ると、インサイト:220台、アコード:270台、CR-V:440台という具合だ。
2021年5月末時点で累計販売台数200万台を突破したN-BOXシリーズ。2011年のデビューから10年を迎える大ヒット車
軽自動車+フィット+フリードが国内で売られるホンダ車の80%に達する状況と考え合わせると、これらの車種も今後は整理の対象に入るのではないか。特にCR-Vとシビックは、国内市場から一度撤退して復活した経緯があり、次に廃止されたら二度目の復活は望めない。
しかも今後は電動化を中心とした環境対応、自動運転に向けた運転支援機能の進化など、先進技術への投資も増える。車両の開発費用はなるべく抑えたいから、車種のリストラも加速しやすい。
時系列で見れば、狭山工場を閉鎖するからオデッセイ/レジェンド/クラリティも生産を終えるが、実際はすべてがセットになって進行している。工場の閉鎖から車種の削減まで、すべてのリストラを同時に進めているわけだ。
■今後の自動車メーカーの生き残り策とは?
ホンダに限らず、今後の自動車メーカーは車種の選択と集中を余儀なくされるだろう
この寂しい状況は、果たしてホンダに限った話なのだろうか。ほかのメーカーでも、同じような流れが生まれるのではないだろうか。
今はトヨタまで国内の全店が全車を扱う体制になり、ホンダと同様、車種間の販売格差が拡大している。ヴェルファイアの売れ行きは、姉妹車のアルファードに比べて約10%まで落ち込み、先ごろバリエーションを大幅に整理した。プレミオ&アリオンやポルテ&スペイドなどは廃止された。トヨタでも車種のリストラが進む。
今後のメーカーは、車種を減らしながら、クルマの魅力とブランドイメージを保たねばならない。1車種が幅広いユーザーから支持され、好調に売る必要がある。そこには環境対応や自動運転とは異質の難しさがあるだろう。先進技術が進化しても、クルマとしての商品の魅力が薄れたら、購入する価値の高い商品とはいえない。
この困難なチャレンジを見届けられるのは、クルマ好きとして幸せなことかもしれない。狭山工場の閉鎖とオデッセイなどの廃止が、ホンダの新しい魅力を生み出す契機になると信じたい。
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