これはもはや自動車界の金閣寺というか、カスタム界のサグラダ・ファミリアと呼ぶべきだろうか? カスタムペインター井澤孝彦氏率いる「ROHAN」が東京オートサロン2019に出展した1958年型のシボレー インパラである。
この超絶ギンギラギン状態は、ありがちなラッピングによって実現しているわけではない。職人さんたちが特殊塗料と「彫刻刀」を使って約1年半がかりで、コツコツ手仕上げしたものなのだ。
通常、この手のギンギラカーをラッピングではなく塗装で作る場合は「銀鏡塗料」と呼ばれる塗料を使う。だが銀鏡塗料にはどうしても紫外線の影響で退色したり黄ばんだり、あるいは黒ずんでしまうというデメリットもある。
そこでROHANが開発したのが「IZ METAL」というオリジナルの特殊塗料。取材当日、同社ブースで説明してくれた速水幸三さん(この車を実際に手がけたROHANのベテラン職人さんだ)によれば、この塗料は「顔料の粒子をナノレベルまで超絶細かく砕いたもの」が主原料とのことで、変色や劣化の心配がいっさいないのだという。
だが、その塗料を塗る前に行うのが「彫刻」だ。
サフェイサー(下地塗料)にひとつひとつ、職人さんたちが彫刻刀でコリコリと花々の模様を彫刻し、その上に前述の特殊塗料を塗るのである。当然ながら彫刻作業にはかなりの時間がかかり、前出の速水さんによれば「数人がかりで約半年はかかった」という。
熟練の男たちが工場の片隅でインパラのボディに花々を彫っている様は、数百年前の宮大工たちが、京都のお寺で龍の彫り物を製作していた姿と酷似しているのだろうか? あるいは現代のスペイン・バルセロナで、サグラダ・ファミリアの建築と修復とを行っている男たちのほうが近いのか?
わからないが、いずれにせよ簡易なラッピングでは絶対に出せないい強烈なオーラを放つ一台で、今後は「東京オートサロンのご神体的存在」になる可能性すらある。ただし売り物なので(4000万円とのこと)、そのうち、世界のどこかの富裕層が買い上げることになるのだろう。
そうなる前にぜひ生で見ていおきたい、魂の逸品である。
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伊達軍曹(だて ぐんそう):自動車コラムニスト
外資系消費財メーカー勤務を経て自動車メディア業界に転身。「IMPORTカーセンサー」編集デスクなどを歴任後、独自の着眼点から自動車にまつわるあれこれを論じる異色コラムニストとして、大手メディア多数で活動中。
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