なぜ実現しなかった… コンセプトと違う市販車
「コンセプトカー」とは一般的に、自動車メーカーが次のデザイン・アイデンティティを確立するための道筋を探るものである。
【画像】市販車もいいけどコンセプトが忘れられない…【トヨタGRスープラ、レクサスUX、BMW i8などを写真で振り返る】 全93枚
自動車イベントで注目を集めるために作られるものもあれば、次の時代を予感させるものもある。しかし、重要なディテールやドラマチックなボディラインは、しばしば骨抜きにされたり、完全に失われたりしてしまう。
もちろん、生産効率の都合や安全性、実用性、コストなど、デザインが変わってしまうのにはさまざまな要因が絡むため、一概に揶揄することはできない。また、あまり認めたくない事実として、コンセプトのまま世間に出すよりも販売上はうまくいくというケースもある……。
いずれにせよ今回は、印象的なデザインを持ったコンセプトカーが量産化に向けてどのように変化したかを見ていきたい。コンセプトから市販車の順に、14台を紹介する。
コンセプト:フォード・マスタング・マッハIII(1992年)
マツダから借りた前輪駆動のプラットフォームで、マスタングを作り直そうとしたフォード。しかし、ファンからの反発を受け、3代目マスタングの後継となる後輪駆動車の開発を開始する。1993年1月、デトロイトとロサンゼルスのモーターショーで、1978年以来の新型マスタングをコンセプトカー「マッハ3」として披露した。
フォードがこの2会場を選んだのは、ライバルのGMから注目を奪うためだったと言われており、当時新型だったポンティアック・ファイアーバードやシボレー・カマロもモーターショーの主役だった。
市販車:フォード・マスタング(4代目、1993年発売)
1993年末、4代目フォード・マスタングはついにデビューを果たした。ソフトで丸みを帯びたデザインで、ドア後部のスクープやリアライトの特徴的な形状など、マッハIIIコンセプトのディテールを微妙に受け継いでいるが、未来的な印象はかなり薄れた。
しかし、ありがたいことに、地上高もかなり低くなったように見える。4代目はスタイル、中身、パワーの面で、3代目から大きく前進した。
コンセプト:ポンティアック・サンファイア(1994年)
サンファイアのコンセプトは、ファイヤーバードのようなスポーツカーの要素を低価格のエントリーモデルに採り入れるとどうなるかを探るものだった。エアスクープ付きのボンネットの下にはスーパーチャージャー付きの4気筒エンジンが隠されており、最高出力241psという、1990年代中頃にしては非常に頼もしい性能が示されていた。
ホットウィール(ミニカー)のような外観で、流石にこのまま市販されるとは考えにくかったが、ポンティアックの次世代エントリーモデルとして期待できるものだった。
それにしても、ポンテアックというブランドは、もう過去のものなのだろうか。
市販車:ポンティアック・サンファイア(1995年)
1995年に市販モデルが登場するや否や、コンセプトの興奮は冷めてしまった。シボレー・キャバリエにポンティアック独自のフロントマスクとリアエンド、そしてサイドのプラスチック・クラッディングを装着しただけのモデルだった。
唯一の功績は、ポンティアックのラインナップにコンバーチブルモデルが加わったことにある。しかし、「お金をかけずに幌を下ろして走れる」という魅力に乏しかったのは残念なことだ。
コンセプト:マイクロコンパクト(1996年)
1996年、米ジョージア州アトランタで発表されたマイクロコンパクト・コンセプトは、誰もその意図を理解できなかった。ディーラーが販売できるようになるクルマなのか、それともトイザらスのクリスマスカタログの予告編なのか。多くの人が後者に賭けたが、メルセデス・ベンツの親会社であるダイムラーは、このモデルを量産化する計画を立てた。
マイクロコンパクトに続いて、さらに3つのコンセプトが発表された。1996年のパリ・モーターショーで披露された「モジュラー・コンセプトカー」は、マイクロコンパクトによく似ているが、ドアが付き、ツートンカラーの塗装でセーフティセルが強調され、今日のフォーツーの原型となっている。1997年に発表された「シティ・ファッション・ビクティム」や「トリノ’98コンセプト」の方が、より正確に市販車を予感させるものだった。
市販車:スマート・シティクーペ(1998年)
スマートは、マイクロコンパクト・コンセプトの形状に若干の手を加え、シティクーペを製作したが、基本的なモノボックスのシルエットはほぼ同じであった。フロントエンドはアーモンド型のヘッドライトを採用し、ロボットっぽくないデザインに仕上がった。2001年のマイナーチェンジでは、そのアーモンドが2つに叩き割られた。
コンセプト:プリムス・プロント・コンセプト(1997年)
プリムスは1997年、新しいタイプのエコノミーカーとしてプロント・コンセプトを発表した。若い世代をターゲットに描かれたデザインは、当時、プリムス・プロウラーを除いて、他のどのクルマとも一線を画すスタイリングであった。さらに、巻き上げ式の窓を装備するなど、装備の削減や組み立ての簡略化で価格を抑えた。プロントはプリムスのイメージを一新するものであった。
市販車:クライスラーPTクルーザー(2000年)
クライスラーは1990年代後半にプリムスブランドを閉鎖し、プロント・コンセプトをPTクルーザーに錬成した。4ドアのエコノミーカーという大前提は変わらないが、見た目や乗り心地などほぼすべてが変化した。デザインとしてはレトロな方向へ進み、製品企画としては高級なクライスラーのラインナップに組み込むために装備を充実させた。
コンセプト:シトロエンC-3(1998年)
シトロエンは、21世紀のシティカー(都市部向けの小型車)のあり方を示したのがC-3コンセプトだと説明した。1998年のパリ・モーターショーで発表されたC-3は、丸みを帯びたフロントエンドと2CVのようなアーチ型のルーフラインを特徴とするデザインで際立っていた。
逆向きに開くドアは、さまざまなレイアウトが可能な車内への乗降を楽にしてくれる。C-3はおとなしいサクソの隣に置かれ、未来をとても魅力的に見せていた。
市販車:シトロエンC3(初代、2002年)
シトロエンはC-3コンセプトの基本的なシルエットを踏襲しながらも、細部のディテールを消し去り、別の形状で埋め尽くした。2002年に発表された初代C3は、逆開きドアや2分割のテールゲートこそなかったものの、デザイン重視の競合他社が少ないシティカー市場で異彩を放った。
アーチ型のルーフラインは、C-3コンセプトから10年以上を経て登場した2代目モデルにも採用されるほどのヒットとなった。
コンセプト:ダッジ・チャージャーR/T(1999年)
ダッジは1987年モデルを最後にチャージャーの名を廃したが、1999年にデトロイトで開幕の北米国際自動車ショーに出展された斬新なコンセプトで復活を遂げる。スーパーチャージャー付きの4.7L V8エンジン(珍しく圧縮天然ガスを燃料とする)を搭載したこのコンセプトカーは、それまでのチャージャーにはなかった4枚のドアを備えていた。
市販車:ダッジ・チャージャー(6代目、2005年)
R/Tコンセプトの量産化は行き詰まった。ダッジがようやく新型チャージャーの発売にこぎつけたとき、クライスラー300やダッジ・マグナムに使われたプラットフォームをベースにした、はるかにアップライトなマシンとなっていた。以前のコンセプトカーとの共通点は、4ドアであることくらいだった。
コンセプト:トヨタFTX(2004年)
トヨタは、初代タンドラを小さくしすぎたと、世間やマスコミから非難された。これに対してトヨタは、2004年のデトロイト・モーターショーで発表したFTXコンセプトで対抗する。FTXは「大胆なスタイリングと豊かなプロポーションに見合うだけの力強さを約束するもの」と説明され、サイズに関する指摘を明確に受け止めたことを体現するものであった。
象のようなディメンションとホイールアーチが、トンカ(ミニカーブランド)のトラックのようなデザインを際立たせている。ショールームでプリウスと並んでいるところは想像できない。しかも、V8ベースのハイブリッドシステムのおかげで、環境にも比較的やさしいとされる。
市販車:トヨタ・タンドラ(2代目、2006年)
FTXコンセプトは、2006年のシカゴ・モーターショーで発表された第2世代タンドラを正確に予見していた。先代よりも大きく、より骨太なデザインを身にまとっている。良くも悪くも、FTXコンセプトほど大きくもなく、未来的でもなかった。
しかし、V8ハイブリッドは試作どまり。世界のハイブリッド・リーダーでありながら、「i-Force Max」と呼ばれるハイブリッドシステムが搭載されるのは、2022年のタンドラを待たねばならなかったのだ。
コンセプト:シボレー・ビート(2007年)
2007年のニューヨーク・モーターショーで、シボレーは3つのコンセプトを掲げて攻勢をかけたが、ビートもその一環だった。目を引くグリーンの塗装、筋肉質なスタンス、ハイテクなインテリアを備えた2ドアのデザインで、小型シティカーに安っぽさは必要ないことを実証した。
市販車:シボレー・スパーク(2009年)
ビート・コンセプトは、量産に至る過程でその輝きを失った。2009年にシボレー・スパークとして発表されたときには、コンセプトよりも運動性能が著しく低下しているように見え、リアドアが追加され、インテリアは明らかに大衆市場を意識した安っぽいなものになった。ただし、メタリックグリーンを注文することは可能だった。
コンセプト:ルノー・ウインド(2004年)
コンセプトモデルとしてのウインドは、2.0L 16バルブという当時のルノーではすでにおなじみのエンジンを搭載した、2+1シーターの冒険的な小型ロードスターであった。インテリアも、運転席のドアを開けるとステアリングホイールとペダルが収納されるなど、特にデザイン性に優れていた。
市販車:ルノー・ウインド(2010年)
実際に購入できるウインドは、コンセプトよりもずっと現実的であった。エンジンは1.2Lターボと自然吸気1.6Lから選べるようになったが、簡単に開閉できるルーフが最もよく知られている。それなりに好評を得たが、ルノーは2013年、発売からわずか3年で見切りをつけた。
コンセプト:BMWビジョン・エフィシエント・ダイナミクス(2009年)
シザードア、並外れたエアロボディ、先進のパワートレインを備えた2+2クーペである。ターボチャージャー付き1.5L 3気筒ガソリンエンジンが後輪を駆動し、さらに各車軸に電気モーターを搭載している。合計出力は350psを超え、エンジンを止めた状態でもモーターで駆動するため、燃費にも非常に優れていた。
市販車:BMW i8(2013年)
その後、さらにコンセプトやプロトタイプが作られたが、ビジョン・エフィシエント・ダイナミクスのスタイリングの大半はi8と名付けられた市販車に受け継がれた。ほぼ完全に透明なドアは採用されなかったため、ドラマチックな要素は薄れたが、乗員のプライバシーは確保されたのである。
コンセプト:トヨタ・プリウスc(2011年)
プリウスcコンセプトは、「ランニングコストは抑えたいが、標準のプリウスほど大きなクルマは必要ない」という「若いシングルやカップル」をターゲットにしたハイブリッド車だ。「c」は「シティ」を意味する。ファミリー向けのプリウスvとともに、2011年の北米国際自動車ショーでデビューし、その大胆なデザインで注目を集めた。
市販車:トヨタ・プリウスc(2012年)
コンセプトのデビューから1年後、市販車が発売された。日本では「アクア」と命名されたが、北米やオセアニアではプリウスcの名称が踏襲された。内容的には大きな変化はなかったが、デザインはオーソドックスなものになった。なお、同時公開されたプリウスvコンセプトは「プリウスα」として発売されている。
コンセプト:トヨタFT-1(2014年)
2014年1月に初めて公開された驚愕のFT-1は、ロング&ローのハンサムなクーペで、一部レースからインスパイアされたスタイリングと独創的なドアミラーデザインを備えていた。このコンセプトは、トヨタが自由な発想で作ったもので、通常の市販車開発ではありえないことだった。
市販車:トヨタGRスープラ(2019年)
スープラはFT-1コンセプトから大きな影響を受けたが、新型BMW Z4の兄弟車であったため、まったく同じ外観にすることはできなかった。その結果、スープラはFT-1よりも数センチ短くする必要があり、見た目の印象が大きく変わった。そして、美しいドアミラーも諦めなければならなくなった。
コンセプト:キアGT4スティンガー(2014年)
米カリフォルニアのデザインスタジオが手がけたGT4スティンガーは、まさに圧巻の一言。この2+2クーペはボンネットラインが低く、20インチホイールを装着するためにフロントアーチを上方に張り出す必要があった。ブレーキ冷却ダクトと一体化した縦長のヘッドライトは、車両の最側面に配置されている。もし、キアがこのようなクルマを市販していたら、世界中が驚いたことだろう。
市販車:キア・スティンガー(2017年)
コンセプトの公開から3年後、確かにスティンガーは発売されたが、その姿はまったく違っていた。大人4人が乗れるリフトバックで、ライバルと目されていたアウディA5スポーツバックやBMW4シリーズ・グランクーペよりも全長が長かった。コンセプトをそのまま市販化するよりもはるかに多くの台数が売れたのは間違いないが、あの斬新なクーペが世に出回らなかったことは悔やまれる。
コンセプト:レクサスUX(2016年)
UXコンセプトを従来の美しさと表現するのは難しいが、インパクトのあるビジュアルであったことは間違いない。将来のサブコンパクト・ラグジュアリー・クロスオーバーを予感させるUXコンセプトは、フロントウイングや前後のホイールアーチが非常に目立つアグレッシブなスタイリングで、汚れてもいいなら悪路をかなりのスピードで走破できそうな印象だった。
フロントドアは前部、リアドアは後部にヒンジがある観音開きで、センターピラーがないため、乗り降りも非常に楽だったはずだ。
市販車:レクサスUX(2018年)
市販のUXは2018年のジュネーブ・モーターショーで初めて登場した。コンセプトのスタイリングを踏襲していることは明らかだったが、かなり薄味になっていた。贅を尽くしたレクサスのフロントグリルは引き継がれたので、誰の作品であるかは疑う余地がないが、全体としては予想の範疇に収まるものであった。ドアもコンセプトとは異なり、コンベンショナルなものであった。
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