2022年のダカールラリーに参戦するアウディの電動車両『アウディRS Q e-tron』は、2020年までDTMドイツ・ツーリングカー選手権で使用された2.0リットル直列4気筒直噴TFSIターボエンジンを軸に、フォーミュラE用に自社開発した電動モーターユニット『アウディMGU05』と、アウディスポーツが開発した高電圧バッテリーを組み合わせた“デザート・レンジエクステンダー”となっている。
そのアウディは先日のコクピット機能に続き、シリーズハイブリッド方式のパワートレインに対応した「複雑かつ多様なユニットアッセンブリーや、コクピット用の高度な冷却システム」を公開。ダカールラリーの開催地であるサウジアラビアの灼熱の砂漠で、人とマシンの温度を把握し、競技での高い負荷を想定した上でシステムの温度を完璧に管理するため、入念に設計された冷却システムを採用した。
アウディ、2022年ダカール参戦のシリーズハイブリッド『RS Q e-tron』のコクピットを公開
数々のモータースポーツ・カテゴリーを経験してきたアウディとアウディスポーツは、ハイブリッド駆動システムを搭載してル・マン24時間レースを3度制覇した『アウディR18 e-tronクワトロ』や、日本のスーパーGT GT500クラスを由来とする2.0リットル直列4気筒直噴ターボを載せた『アウディRS5 DTM』、そしてフォーミュラE用のシングルシーターに搭載した高度な冷却システムの開発経験があり、今回のアウディRS Q e-tronの設計にもそのプロセスが活用された。この冷却システムの開発責任者であるセバスチャン・フレベルは、その最大の課題を次のように説明する。
「アウディはこれまでダカールラリーに参戦したことがない。我々が最初に取り組んだ課題は“どのようにして車両から熱を除去するのか”ということだった。我々はまず車両全体の空力性能を測定するため、数値流体解析(CFD)シミュレーションから始め、次に個々の冷却システムを設計した」
ル・マンを戦ったスポーツ・プロトタイプや、サーキットを走るツーリングカーやフォーミュラでは最高の空力効率が要求されるも、砂漠を走る電動プロトタイプでは最高の効率で「熱を逃がす必要」がある。そのため適切な温度を保つには、複数の冷却回路が必要となった。
まずは電気駆動装置の心臓部となる高電圧バッテリー(HVB)や、モータージェネレーターユニット(MGU)用の回路として、アウディはHVBのシステムを適切な温度に保つためボンネット下にラジエーターを装備し、ノベック(Novec)と呼ばれる絶縁性の高機能性液体クーラントを採用した。
発電用の内燃エンジン(ICE)は高電圧バッテリー用の電力を生成するMGUと機械的に接続されており、MGUで生成したエネルギーを他のふたつのMGUユニットに転送し、前後のアクスルに伝えられて4輪を駆動する。また、ブレーキングなどの制動時にはこのエネルギーの流れが逆になり、両ユニットはエネルギーを回生してバッテリーへと電力を蓄える。
■低速区間でのエアフロー不足を考慮し、ファンを設置
これら3基のMGUアッセンブリーは専用の低温回路を介して互いに接続され、車両のフロントに設置されている左側のラジエーターを使用して熱を逃がす仕組みとなっている。しかし強い日差しの下でも優れた冷却効果を発揮させるのは、エンジニアリング上でも困難な課題であり「気温40℃の砂漠で60℃のクーラントを冷却する場合、温度差が少ないため高い冷却性能を達成することが難しい」とフレベル。
こうした低温回路用ラジエーターの前方にある左側フロントエアダクトの中には、オイル冷却用のループも設置され、オフロード走行時に高い負荷を受けるパワーステアリングの作動油が循環。このシステムはまた、パンクによってタイヤ交換を余儀なくされた場合に、バルブ経由で左右2本のジャッキへ油圧を供給する。
その対面となる右側フロントエアダクトの中には、エアコンディショナーシステムのコンデンサーも収められ、車内に設置されたファンがキャビン内の空気を循環させる。
助手席後方に横置きされる高効率な発電用TFSIエンジンは、ラジエーター付きのフルード回路を備え、エンジンオイルのラインは熱交換器を介してこのシステムに接続される。排気ガスを利用するターボチャージャーには冷却システムが必要で、圧縮された吸気はインタークーラーを経由して発電用エンジンへと送り込まれる。
そのラジエーターおよびインタークーラーはリヤアクスルの上に並列に配置され、ルーフ上のカウルは、2基のラジエーター用にエアフローを分割する。
「過酷な走行区間……たとえば低速で砂丘を横断するようなところでは、エアフローが不足する可能性もある。そのため2基のラジエーター後方にファンを設置し、必要に応じて暖気を取り除くことができるようにしているんだ」
こうしてパワーユニットの冷却で発生する明らかな電力損失にもかかわらず、アウディはきわめて高効率なデザートプロトタイプを完成させ、約200kWの最高出力を発生する発電用TFSIエンジンは、4500~6000rpmの間できわめて効率的に作動。発電のための燃料消費量は、1kWhあたり200gをはるかに下回るという。
「熱管理システムは11月にモロッコで最終調整を行った。この長期テストでは冷却用エアインテークを意図的にテープで塞ぎ、カルロス・サインツに干上がった川床の柔らかい砂地を走行してもらったんだ。このような状況でも、すべてのシステムが問題なく機能したことを確認している」と自信を見せたフレベル。
2022年のダカールラリーは開催3年目となるサウジアラビアで、現地時間1月2日(日)に開幕。約8000kmを走破した同14日(金)にフィニッシュを迎える。
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みんなのコメント
そのチャレンジ精神は見習いたいものだ。数年後には優勝を争うのだろうか?