昨今、フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカー・ブランドから、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド・カーが登場している。なぜか? 自動車のメカニズムに詳しい世良耕太が考えた。
電動化が進む理由
ガソリン・エンジンの魅力を味わうなら今のうちか──ボルボXC60リチャージ・プラグ・イン・ハイブリッド試乗記
クルマの電動化は世界的な流れだ。混乱を招くといけないので説明しておくと、ひと口に電動化といっても指している内容は幅広く、エンジンに小出力のモーターを組み合わせたマイクロ・ハイブリッドから、モーターだけの動力で走るバッテリーEV(BEV)まで多岐にわたる。
自動車メーカーや各国の政府が「20XX年までにすべての新型車を電動化する」と、宣言した場合、それがBEVを指すのか、ハイブリッドでも良しとするのか、注意が必要だ。
それはさておき、ヨーロッパではBEVとPHEVのラインアップが増えている。PHEVはプラグ・イン・ハイブリッド車で、外部充電ができる(だからPlug-in)フルハイブリッド(あるいはストロングハイブリッド)車を指す。PHEVは一般的に(マイクロでもマイルドでもない)フルハイブリッド車よりバッテリー容量が多く、モーターのみで走るEV航続距離が長いのが特徴だ。
なぜBEVとPHEVがヨーロッパで増えているかというと、自動車メーカーのCO2排出量を規制しているEUでは、BEVとPHEVを優遇しているからだ。2021年1月には95g/kmのCO2排出量規制が施行された。
1台ごとの数値ではなく、メーカーが販売する全車両の平均値で評価する。EVはCO2排出量がゼロにカウントされ(発電時の排出量はカウントされない)、PHEVはEV航続距離が長ければ長いほど優遇される係数が用いられている。
自動車メーカーには、規制値超過分に応じて軽くない金銭的なペナルティが科される。ヨーロッパの自動車メーカーがBEVやPHEVのラインアップを増やすのは、ペナルティの負担を軽くするためだ(とは、消費者に向かって大っぴらには言っていないが)。
メリットの多い電動化
そう断じてしまっては夢も希望もないのでフォローしておくと、電動化はユーザーにもメリットをもたらす。国内で発表されたマクラーレン「アルトゥーラ」を例に検証してみよう。シャシーからパワートレーンまですべてを新設計したアルトゥーラはPHEVだ。車両ミッドに搭載するエンジンは3.0リッターV型6気筒ガソリンツインターボで、その後方にレイアウトする8速DCTを介して後輪を駆動する。
エンジンとトランスミッションの間には最高出力95psを発生するモーターを配置。モーターとエンジンは乾式クラッチによって断接ができる構造で、クラッチを切ることによってモーターはエンジンから切り離され、モーター単独による走行、いわゆるEV走行が可能になる。
搭載するバッテリーの使用可能エネルギーは7.4kWhで、メーカー発表によるEV航続距離は30km。CO2排出量はEUのWLTPモードで129g/kmで、マクラーレンのロードゴーイングカーで史上最もクリーンで高効率だ。
アルトゥーラはマクラーレンがシリーズ生産する初の「ハイパフォーマンス・ハイブリッド・スーパーカー」である。限定生産なら前例があり、2013年に発表されたP1がある。このPHEVのEV航続距離は、当時のEUのモード計測(NEDC)で10kmだった。
「アルトゥーラの開発ではEV航続距離の拡大をターゲットに据えた」と、チーフエンジニアのジェフ・グロース(Geoff Grose)氏は、オンラインのインタビューで筆者の問いに答えた。スーパーカーを買うのは社会的なステータスの高い人たちが多い。そういう人たちが自宅からクルマを出したり、自宅に戻ってきたりするとき、ドライバーのハートを揺さぶるようなエキサイティングなサウンドを奏でていたのでは、ご近所さんに対して申し訳が立たない。できれば、自宅の近くを走るときだけは極めて静かなEV走行でこなしたい。こうした要求に応えるのがPHEVで、EV航続距離が長いほど商品価値は高まる。
同時に、スーパーカーを所有する後ろめたさが軽減される。本当にそうかどうかは別にして、電動化車両はカーボンニュートラルの実現に貢献する環境フレンドリーなクルマであると表向きは見なされているからだ(走行中のCO2排出量軽減効果はもちろんある)。たとえ、680psの最高出力を発生するエンジンを積んでいたとしても。
電動化は、CO2排出量規制のペナルティを軽減したいと考える自動車メーカーの負担軽減や、スーパーカー購入層の品位を損なわずに済ませるだけでなく、パフォーマンスの面でもメリットをもたらす。「モーターはスロットルへの入力に対して瞬時に反応する。まるで自然吸気エンジンのように」と、グロース氏は説明したが、筆者に言わせればモーターのレスポンスの良さは自然吸気エンジンとて目ではない。種類がなんであれエンジンでは到底実現できない電光石火のレスポンスで力を発生し、背中をシートに押さえつける力でドライバーに瞬発力の高さを意識させる。
アルトゥーラは95psの最高出力と225Nmの最大トルクを発生するモーターの力をアテにすることができるので、エンジンの負担を減らすことができる。アルトゥーラが搭載するエンジンの排気量が3.0リッターで済んだのは、モーターとの組み合わせを前提にしているからだ。
過給ダウンサイジングのコンセプトはスーパーカーの世界にもおよんでおり、アルトゥーラはその最新事例。新開発したV6エンジンは従来のV8より50kg軽く、190mm短い。電動化したおかげでパワートレーンは高効率になり、車両の軽量化につながって、パッケージングの最適化に貢献したことになる。軽量化は車両運動性能の向上にも効く。
自動車メーカーにとって良し、環境にとって良し、ユーザーにとって良し、“三方良し”になるスーパーカーの電動化は、今後ますます増えていくに違いない。
文・世良耕太
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みんなのコメント
エンジンだからイイんだよ。
VWグループのハイパフォーマンス部門などはまさにこれ